今日が人生最後の日なら
確認作業がいつまでも終わらなくて午前2時をまわった。既に他のフロアの人はみんな帰ってビルにひとり残りの状態。
ふと怖くなる。いきなり知らない誰かがナイフを持って入ってきたらどうしよう。
このビルはインチキくさいセキュリティしかなくて、実のところ誰でも入ってこれるのだ。0時をまわってひとりになった時点でビル一階の出入口の施錠はしたものの、あんなのピッキングですぐ開けられそう。
相手がナイフを持ってたら…一応作業に使うのに刃の出たカッターが転がってるけど、こんなの役にたつだろうか。交番はすぐ近くにあるけど、通報する前に刺されたんじゃ意味がない。
そう意識してしまうと、わたし以外誰もいないはずのビルに物音が響くのだ。足音のような…。この事務室にはドアがひとつしかない。あそこから人が入ってきたら、逃げる術はない。
そうか。わたし今日刺されて死んじゃうんか。
わたしは誰に発見されるのかな。新聞に載ったら誰か泣いてくれるのかな。とりあえず、痛いのは嫌だな。
今日死ぬのなら、コンビニの弁当じゃなくてトンカツ食べに行けばよかった。読みたい本もいっぱいあった。そう言えば何年も恋愛してない。…と言うかさ、
こんなやりがいのない仕事で残業中に死ぬとかホント馬鹿らしい。
早く終わらせて帰ろう。なまじ想像力が強いってのもやっかいだな。いろいろ要らんこと考えてしまう。冗談じゃない。こんなところで、こんなタイミングで死んでたまるか。
お客さんのための仕事じゃないのに、なんでこんなに歯を食いしばって頑張ってるんだろう。この疲れは、時間は、いったいなんのためなんだろう。わたしはいったいいつまでこんなことに耐えるんだろう。