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サステナビリティへの関心と取り組みはここ1~2年の “ムーブメント” か? ~ なぜ、いま、渋沢栄一なのか ~

近年、サステナビリティに対する世の中の関心が、猛烈に高まっていることを感じている。インターネット上をはじめ、テレビやラジオ、雑誌の特集といったマスメディア上でも、これらに関する話題が尽きない(レジ袋・プラスティック問題、フードロス、異常気象・気候危機、SDGs、などなど・・・)。

記憶に新しいのは、今年1月、米国でバイデン新政権が誕生。そして、米国政府主催の気候サミットが4/22にオンラインで開幕した際、米国をはじめ各国が温室効果ガス排出削減目標を表明する中、日本も従来目標からの大幅引き上げを表明した。とりわけ国内においては、安倍政権から菅政権へと移り、菅首相が昨年10月に行った所信表明演説の中で「グリーン社会の実現」を表明して以降、サステナビリティ関連の情報発信が活性化している。この状況はGoogle Trendsの検索キーワードヒット数からもうかがい知ることができる。

では、サステナビリティへの関心と取り組みは、ここ1~2年の “ムーブメント”(=一過性の盛り上がり) なのか? これまでのサステナビリティの歴史を振り返り、自分なりに3つのフェーズに分類しつつ、考察してみる。その際、今年2月より放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一にも着目してみたい。

【警告フェーズ(1960年代~)】 
持続可能性の危機については約半世紀も前から警告が発せられてきた

前述の通り、菅首相が昨年10月に行った所信表明演説の中で、「グリーン社会の実現」が表明された。それ以降、サステナビリティ関連の情報発信は確実に盛り上がりを見せている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65465240W0A021C2000000/

しかし、持続可能性の危機については、実は約半世紀も前から警告が発せられてきた。

思い浮かぶものを挙げてみると、1962年『沈黙の春』(By レイチェル・カーソン)、1963年『宇宙船地球号操縦マニュアル』(By バックミンスター・フラー)などが挙げられる。後者については、「地球は閉じた宇宙船と同じ。限りある資源を有効に使い、特にエネルギー問題に関しては、蓄積されて有限の化石燃料ではなく、太陽や風、水など自然エネルギーを使うべき」ということをこのとき既に説いている。「宇宙船地球号」と聞くと、1997年から約12年間、毎週日曜日にテレビ朝日で放送された環境情報・ドキュメンタリー番組『素敵な宇宙船地球号』のことを思い出した人もいるかもしれない。

そして重要なのが、ローマクラブからの依頼を受けてデニズ・メドウズ博士を中心とする研究グループが1972年に発表した報告書『成長の限界』である。この報告書は、「このまま経済成長を続けたら、人口、食料、資源、汚染などの面で、人類社会は今後100年以内に制御不能な危機に陥る可能性がある」ことを、定量的な推計データに基づき警告した。
これらを受けて、1980年代には「持続可能性」やSDGsのルーツと言える「Sustainable Development(持続可能な開発)」の概念が打ち出されることになる。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/about_sdgs.html

「Sustainable Development」とは、「将来世代のニーズを損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすこと」とこのときに定義されており、SDGsのスローガンである「誰ひとり取り残さない」とは現世代のことだけでなく、将来世代も含んだ概念(世代間倫理)であることが読み取れる。これが、今から30年以上も前のことである点に留意したい。

【国際的な取り組みフェーズ(1990年代~)】 
グローバル化に伴う「外部不経済」の進行と国連枠組のスタート

地球規模での環境問題について考える際、極めて重要な観点がある。それは、「市場の失敗」・「外部不経済」である。
https://say-g.com/market-failure-2117
https://say-g.com/external-diseconomy-2122

持続可能性への危機の根源について突き詰めてみると、産業革命以降のグローバリゼーションを背景とする、国家の枠を超えた「外部不経済」の問題に行き着く。「外部不経済」への対策として、「内部化」するという方法があるが、国内だけに留まらない国家の枠を超えた「外部不経済」の問題は、「内部化」することが非常に難しい。

この根源的課題に対する課題解決の起点となったのが、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット/リオサミット)である。当時の国際情勢と照らすと、1989年のベルリンの壁崩壊と東西冷戦の終結、1991年のソビエト連邦崩壊により、世界の長期的な安定と平和には地球環境問題の解決が不可欠との認識が世界の指導者層に広がったことも大きいと考えられる。
この地球サミットでは、現在の「Sustainable Development(持続可能な開発)」に関する行動の基本原則である「共通だが差異ある責任」や「予防原則」、「汚染者負担の原則」などを収めた「リオ宣言」と、これを実行に移すための行動綱領としての「アジェンダ21」が採択された。また、サミット期間中には、“双子の条約”とも言われる気候変動枠組条約と生物多様性条約も採択され、サステナビリティ(Sustainability/持続可能性)の概念が世界的に普及し始めるきっかけとなった。

そこから20年後となる2012年には、地球サミットのフォローアップ会議として同じブラジル・リオデジャネイロで国連持続可能な開発会議(地球サミット2012/リオ+20)が開催され、「SDGs(持続可能な開発目標)」についての議論もここからスタートした。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol91/

【経済との統合フェーズ(2015年~)】 
2つの大きなパラダイムシフトと「外部不経済」の「内部化」によるインパクト

2015年という年は、サステナビリティの歴史における大きな潮目の年、と自身としては受け止めている。

開発途上国の課題解決を目指す国連ミレニアム開発目標MDGs(Millennium Development Goals)の後継として、この年の9月、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)が採択。そして同年12月には、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定も採択された。いずれも、大変重要な国際社会の共通目標である。

スウェーデン・ストックホルムのレジリエンス研究所が考案した、“SDGsの概念”を表す構造モデル 『SDGsウェディングケーキモデル』についても押さえておきたい。これは、「宇宙船地球号」の概念の別表現図ともいえるもので、非常に良くできている。すなわち、SDGsの17目標は各々がしっかりとつながって環境圏・社会圏・経済圏という三層から成り立っており、環境という土台・基盤をしっかりと保てないことには健全な社会を実現することはできず、健全な社会なしには健全な市場は成立しないため経済・ビジネスにも支障をきたす、という連関を示している。
https://future-anxiolytic.com/sdgs-weddingcake/

では、現実はどうか。
残念ながら、1990年代からの国連枠組みによる取り組みをもってしても、「外部不経済」の状況は継続してきた、というのが今もなお続く実態である。環境保全団体である世界自然保護基金(WWF)が2年に1回発行する『生きている地球レポート』は、地球環境の状況の数値化にチャレンジした可視化レポートとして “地球の健康診断書” とも言われるが、その最新版(2020年版)からもそのことをうかがい知ることができる。まさに、『SDGsウェディングケーキモデル』の土台・基盤たる環境圏の危機を明示している。
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4402.html

現に、とりわけ気候変動の側面では、異常気象による自然災害が国内外の各地で甚大化かつ頻発化しており、人命や社会経済に対して容赦なく打撃を与え続けている。そのことにより、今や、(これまで世界の人々が認識してきたような)“将来的な危機” としてではなく、“いま目の前にある最重要緊急課題” として捉えられるようになっている。
https://www.excite.co.jp/news/article/Karapaia_52295617/

こうした背景状況に対して、2015年を潮目として、2つの大きなパラダイムシフト(その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化すること)が一気に進んでいるように思う。一つは、お金の流れ(ESG投資)であり、一つは、インターネット・SNS普及を背景とする若者層(とりわけZ世代)の価値観と行動、である。ここではお金の流れにフォーカスする。

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉である。SDGsスタートから5年が経ち、今やSDGsの認知と取り組みは急速に拡大しており、それと並行してESG投資も拡大し続けている。
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.html

ESG投資は今や、世界の運用資産の 3分の1を占めるまでになっているが、その理由は明確である。それは、機関投資家(主には、保険・年金という多額資金の長期運用を取り扱う大口機関投資家)が、今のままの「外部不経済」による環境悪化が続いてしまうと投資リターンが大きなリスクにさらされてしまう、という事業存続に対する “本気の危機感” から、非財務情報を「将来の財務情報」と捉えて中長期的な投資判断をするために、企業に対する情報開示を強く求めるようになっているという事情がある。
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/journal/insurance/insurance12.html

ダイベストメント(Divestment。投資(Investment)の対義語で、すでに投資している金融資産を引き揚げること)という手段も実際に行使しながらの機関投資家から企業への情報開示の要請は、「情報の非対称性」の解消にもつながり、機関投資家のこうした “本気の危機感と行動” が、近年のこの大きな潮流を生み出していると考える。そのため、この流れは “ムーブメント” ではなく不可逆的であり、より一層加速していくものと考える。

昨年は新型コロナウイルスによる経済停滞が起こり、この流れがどうなるのか、との見方も当初はあった。しかし、結果は明白であり、「グリーンリカバリー」「グレートリセット」という言葉に象徴されるように、コロナによってこの流れは加速している。「外部不経済」の「内部化」の加速、と言い換えても良いかもしれない。
https://ideasforgood.jp/glossary/green-recovery/
https://ideasforgood.jp/glossary/the-great-reset/

本投稿の冒頭で、渋沢栄一について触れた。「なぜ、いま、渋沢栄一なのか」については、彼の著書『論語と算盤』とも照らしつつ、様々な人が各様に語っていると思われる。
https://toyokeizai.net/articles/-/413743

自身としては、「外部不経済」の「内部化」、すなわち、これまで長らく「トレード・off」の関係性であり続けた「環境・社会」と「経済」の「トレード・on」化が加速している昨今の状況こそが、渋沢の『論語と算盤』に記された内容をより一層輝かせているのではないか、と感じている。

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