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小説未満 新作小説創作途中中継だよ⑨
少しずつは進んでいるものの
なかなか筆が遅いから、間に合うかな……という
そわそわしつつつ、
日々執筆しております。
今週は平日の残業続きと、体調が本調子ではなかったり、
家族の予定があったりと
そこまで進まなかったな。
〆切まで1か月きってますね。
はい、やばいやばい。書き終わるかな。
頑張らなきゃ。
小説に向き合うためにも、仕事を早く切り上げて残業減らしたり、
集中できるときに、集中する
メリハリですね。
次週は、小説に集中する時間を増やせるようにがんばりたい。
とりあえず、
描きたいものをきちんと描いて物語を終わらしたい。
最後まで頑張りたい。
前回書いたのがここまで
厨房にもどると、職人は面台の上に伸ばした生地に、ギム粉を振っている作業をしていた。女性に案内してもらう形で、エラディンたちは厨房の中にいれてもらった。
「あなた、ピソ新聞社の方々ですよ。インタビューをしたいそうで」
「ああ、うん」
職人は面台の上の生地に視線を落としたままだ。
「すみませんね。少し緊張しているみたいで。作業ながらなんですが、いいですか?」女性がジョアンナに尋ねた。
「はい、大丈夫です」ジョアンナは答えて、エラディンから渡された手帳を開いた。横ではリアナがメモとペンを準備し筆記に備えている。
「……改めまして、ピソ職人新聞社のジョアンナです。よろしくお願いします」
「……よろしく。ブレイドウッドだ」
「このお店はいつからやっているんですか?」
「3年前からだ」
「3年前からなんですね。ピソ職人としてピソを作られていたのはいつからですか?」
「認定ピソ職人の資格を取ったのが、18年前。見習い期間をふくめると23年はピソづくりにかかわっている」
「そうなんですね、このお店をはじめるまでは、どこかのお店で働いていたんですか?」
「ああ、あるときはピソ―ラの職人のひとりとして、またあるときは貴族の家の専属ピソ職人という感じで、所属先を転々としている」
「なるほど、さまざまな経験が豊富なのですね」
「経験が豊富というか、どこも長く続かなかった」
「あぁ、なるほど……」
気まずい沈黙が流れた。ブレイドウッド氏が生地を面台のうえで、ひっくり返してドスンという鈍い音が響いた。
えっ、どうしよう?このままインタビューをスムーズに進められる自信がないというように、ジョアンナがエラディンに目で訴えかける。ベラッキオのように語りはじめる相手じゃないから、一問一答のようにすぐに答えがでてしまって、深掘ろうとしてもすぐに話が途切れてしまう。
かわりに口を挟もうかとエラディンが他の質問を投げかけようとしたとき、ブレイドウッド夫人がフォローするように言った。
「主人が、お店などを転々としてくれたおかげで、わたしたちは出会って結婚できたんですけどね」
「そうなのですね、どのタイミングで出会われたのですか?」ジョアンナが夫人にも質問を振る。
「貴族の家の専属ピソ職人を主人がしていたときに、わたしもその家に侍女として勤めておりました。主人のつくったピソはもちろんその家の家族が食べるものだったんですが、あまりに美味しそうだったので、その家族の目が届かないタイミングで食べさせてもらったことがありました。町のピソ―ラのピソなどこれまで食べたどのピソよりも美味しくて感動したんです。一口食べると、故郷のギム畑を思い出しました。それまでは主人のことを、私と同じようにその貴族の家にお勤めしている使用人仲間のひとりだとしか思ってなかったんですが、ピソを食べてから主人との距離がグッと近づいたんです。そのピソから、ギム粉への敬意、素材の良さをどうすれば最大限に生かせるか、妥協なく追及するひたむきさが伝わってきたんです」
夫人はブレイドウッド氏と異なり、エピソードトークもたくさん話してくれる。
「はずかしいだろうが……」
ブレイドウッド氏が、伸ばした生地を正方形に整える。
寡黙でシャイな職人と、饒舌で明るい夫人の対照的なキャラクターで夫婦はそれぞれを補っているんだろうなとエラディンは思った。
「どうしてこの場所でピソ―ラをはじめようと思ったのですか?」
ブレイドウッド氏は正方形の生地を三つ折りにしながら答える。
「この場所が、妻の故郷だから。妻が故郷のギム畑の景色が美しくて、訪れる人の心を癒すと言った。自分もピソのもとになるギムの畑のことでピソを作られる生活は理想的だなと思った。自分には都市のさまざまな人が集まる中で生活する窮屈さが苦手だった」
「主人がこの場所で生活すると決意してくれたのは、わたしにとって、うれしいことでした。祖父が細々とやっていた製粉業を引き継がせてもらって、主人は合間にピソをつくるという、ゆったりとした生活がはじまりました。試しにつくったピソを販売してみたら、それが好評で。夫の腕のたまものなんです」
ブレイドウッド氏は壁に掛けられた時計をチラッと見た。
「お時間大丈夫ですか?」
ブレイドウッド氏が時間を気にしたことに対してジョアンナが尋ねる。
「ああ、大丈夫だ。発酵させる時間を確認しただけだ」
それまで、手を止めることなく作業していたが、ブレイドウッド氏は手を止めて生地を休ませている。
「この場所に拠点を移してからは、心が落ちついたもので。このギム畑でギムを育てている農家さんに、今年の出来はどうですかなんて話をしながら、自分のつくったピソをその農家さんに渡して。このピソはうまいですなと言われるのも、あなたのつくったギムのおかげですと応えるのも、温かい血の通ったコミュニケーションだ。さわさわと揺れるギム畑はずっと飽きずに眺め続けられる」
売り場のほうから、ごめんくださーいという声がして、ブレイドウッド夫人は、お客様がきたので、少し席を外しますねといって、売り場に向かった。
「お客様も結構いらっしゃるようですね」
「ありがたいことだ。お客様がくることがありがたいと心から実感できたのもここに来てから。町のピソ―ラで務めていたときは、お客様が途切れることがなく、ずっと忙しく、店内は殺伐としていて、作業に心がこもらなかった。ここでゆったりとピソをつくれる幸せを感じている。妻がここに連れ出してくれたおかげだ」
売り場ではブレイドウッド夫人が、このピソがおすすめですよとお客様に話しかけているのが聞こえる。
「ここにきたお客様にしか黄色ピソを売っていないんですか? 焼きたての金色ピソをどこかに献上したりなどしていますか?」
フィリッポが認定ピソ職人として、毎食焼きたての金色ピソを王に献上している姿に見慣れているジョアンナにとって気になる質問だった。
ブレイドウッド氏は微かに顔をゆがめたが、はっとして平静を装って答えた
「……いや、もう焼きたての金色ピソを献上することには、懲りている」
気まずい質問をしたようだとジョアンナも気づいた。
「権力者はみな、焼き立ての金色ピソはないのか、なるべく焼きあがったばかりの、より力が湧き出るピソが食いたいとばかり言う。彼らにとっては、美味しさよりも、いかに力や能力が引き出されるかが大事。たしかに焼きたての金色ピソには、食べた者の力を引き出す魔力が宿っている。その魔力分、ピソ自体のうまみが感じられないようになる。こちらとしては、ピソのうまみが感じられるようにつくっているのに。金色ピソよりも粗熱のとれた黄色ピソのほうがギムのうまみをはっきりと感じられると自分は思う」
ブレイドウッド氏は再び壁の時計を見て、時間を確認できたのか、また手元で寝かせていた生地に視線を落とした。数分寝かされていた生地は先ほどよりも一回り膨らんでいるようだった。生地をひっくり返し、中のガスを慣らすように手のひらで軽くたたいて平にする。長い辺の向こう側から指先でつまんで生地を張らせるように折っていく。そして、また長細くなったものをまた長い辺の向こう側から同じように生地を張らせるようにして折り、右手の親指の付け根を使って止め、左手の親指で押し込んで折りこんでいく。長細い棒状になった生地を転がし綴じ目を下にして形を整える。この一連の動きを、生地がある分繰り返していく。その手先の動きが美しく、テンポよく長細い生地がつぎつぎと出来上がっていく様を、見入ってしまう。
接客を終えて、厨房に戻ってきたブレイドウッド夫人は、一同が黙りこくって、面台の上で作業している様子をじっと見つめている様子を見て
「すみません。夫が話をとめて作業に集中してしまっていますよね?」と言った。
「いえ、われわれも一連の手さばきが美しく、取材を忘れて見入ってしまっていました」ジョアンナが正直に答える。
「おい、キャンバス地をとって」ブレイドウッド氏が夫人に指示すると、夫人は棚からキャンバス地をとってきて、面台の空いているスペースに広げた。
ブレイドウッド氏はそのキャンバス地の上に打ち粉をし、長細い生地をのせ、その生地に沿わせるように、キャンバス地でうねをつくって、またその横に別の長細い生地をのせ、またうねをつくりと繰り返していく。
「こうすることで、生地が型崩れをしない。それでまたしばらく発酵させる」
ブレイドウッド氏はその後もピソづくりの工程を見せながら、今何をやっているところなのかという話をした。途中から、ジョアンナは質問をするだけでなく、スケッチブックとペンを取り出して、ブレイドウッド氏がピソをつくる工程のスケッチをした。作業のきりのいい時にブレイドウッド氏は、ジョアンナのスケッチブックをチラッと覗いて、よく描けていると言った。インタビューとスケッチが落ち着いたところで取材を終えた。
途中、気まずい空気が流れることもあったが、ジョアンナのはじめての取材は無事に終えることができた。ジョアンナも自分が記者として大きく成長したことを感じているようだった。
ブレイドウッド氏は目の前の生地やジョアンナではなく、エラディンに視線を向けて尋ねた。
「ずっと見たことがある顔だなと思って……。どこかでお会いしたことありますかね?」
「えっ、そうですか? はじめましてだと思いますよ」エラディンは答えた。
「……そうですか。人違いかな」
ブレイドウッド氏はエラディンに対する興味を突然失ったようだった。
エラディンたちはブレイドウッド夫妻に挨拶をして、お店を去った。
ダダビット車を止めてある場所に戻る道中、リアナが尋ねる。
「ブレイドウッド氏とは本当に会うのは初めましてだったんですか?」
リアナはずっと気になっていたようだった。リアナは取材中、もくもくと筆記することに集中していて、ほとんど言葉を発さず気配を薄くしていたせいか、話しかけられてようやく一緒にいたことエラディンは思い出した。
「んー、まあ、今日はエヴァンデッド商会の商人としてここに訪問したからな」
「ということは、面識はあったんですね」
「そうだな、勇者時代に少しな。でも、そんなの思い出してもらわなくていい。私としても苦々しい過去だ」
「そうなんですね……」
エラディンがこれ以上触れてほしくないという空気をリアナは読み取って、追求するのをやめた。
エラディンは、リアナとジョアンナと別れて、旅を続ける。リアナとジョアンナは同じダダビット車に乗り、ケラスズ城下町に戻って新聞の記事作成にすることになっている。エラディンは自分がのるダダビット車と、ギム粉を積んだ貨物車を引き連れて、取引人との待ち合わせ場所に向かう。
ダダビット車の中でガタガタ揺れながら、ブレイドウッド氏のつくったピソを食べた。あのとき食べた美味しいピソの味だ。あの頃と変わらない。思い出すのは痛みと後悔、まぶしい金色の景色だった。
エラディンは勇者時代の失態の記憶を思い出していた。
エラディンはグランディン王の期待のもと、新たなる領土拡大のために進軍していた。エラディンが考える戦術は定評があり、数々の戦いに勝ち続けていた。今回も、敵陣のリサーチをしたうえで、完璧な戦術を立てたつもりだった。敵の隙をついて、進軍したつもりだったが、完全に敵陣にエラディン達の狙いが読まれていて、いるはずのない場所で敵襲を受けた。油断していたエラディンたちの軍は深手を負い、散り散りになり、指示系統が機能しなくなってしまった。エラディンも追手に狙われていて、命からがら逃げていた。エラディンは馬に乗って逃げていたが、追手が放った矢がエラディンの足首に刺さった。落馬しそうになったが、落馬してしまえば殺されてしまうのは確実だった。痛みに耐えながらも馬を走らせた。森に入り何とか、追手を巻くことができた。足首に刺さった矢は引き抜くことができたが、血が止まらない。また矢に毒が塗られていたのか、全身がビリビリとし、力が入らなくなった。しばらくして完全に力が抜けたあと、エラディンは馬から落ち、そのまま気を失った。
「しっかりしろ」と呼びかける声が聞こえ、顔に水を掛けられた。目を開くと、男がエラディンの顔を除き込んでいた。「立てるか」と呼びかけられたが、それに対して答える元気もない。男はエラディンが足首にケガをしているのに気づいて、足をつかんで患部をじっくりと見た。「ああ、毒矢にさされたか。一刻を争う」と言って、男は馬にひかせていた荷車に積まれた薪をすべて取り払い、エラディンを寝かせた。手綱を引き、男は馬を走らせた。しばらくして馬がとまった。到着した小屋の前で、エラディンは荷台の上に寝かされたままで、男は近くの小屋のまわりを忙しく行ったり来たりしている。「これを飲め」と流し込まれたのが、薬草をすり潰して水に溶かしたものだった。「解毒作用があるらしい」男はそう言って、また小屋の中に入った。動けないエラディンは空を見上げるしかなく、雲一つなく、どこまでも青く晴れ渡っていた。そよぐ風とさわさわと揺れる草の音を聞いていた。男がエラディンのもとに戻ってくるのを待っていると、芳ばしい香りが漂ってきた。薬草の水が体に聞いていたのか、倒れていたときよりも意識がはっきりしてきた。「待たせたな。起き上がることができるか?」再び男に尋ねられ、エラディンは腰に力を入れて、上体を起こした。「これを食え。力が湧くはず」男が板の上に載せた金色に輝く焼きたてのピソを差し出した。
エラディンは、それを口に近づけ、ひとくち噛んだ。最初に感じたのは熱さ、ジンジンとしびれるようなエネルギー。美味しいとかそういうものじゃない。ただ体が求めるように、もう一口がぶりと噛んだ。体がポカポカとする、もう止まらない、勢いにまかせて、がぶりがぶりと噛みついていく。その様子を男は見ている。「体力回復するか?」エラディンは口の中でピソをもぐもぐと咀嚼しながら、頷いた。「ほんとうは、粗熱がおちついた状態で食べてほしいんだがな。そのほうがギムの風味が感じられて、鼻から抜ける香りもいい。まあ仕方がない。急を要する。うまさよりも力が優先度が高かったんだ」男は、エラディンに話しかけるというよりは、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
その男が、ブレイドウッド氏だった。
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![まいこんのおと](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162070843/profile_f6752c6bf284c5d8f2ae85ff2d76a6f9.png?width=600&crop=1:1,smart)