【コンプレックス女子たちの行進】第3話ーワーカホリック女子 ケイコの場合ー
第3話 ワーカホリック女子 ケイコの場合
仕事が終わって、駅に向かう途中にケイコのスマホが鳴る。
この時間帯に電話かけてくるのは誰なのかは、もうなんとなくわかる。
画面に「メグミ」と表示されている。
やっぱりなとケイコは思いつつ、いつも自分の仕事が終わるタイミングを見計らって電話をかけてくるメグミの存在をありがたいも思う。
そして、だいたい、要件も予想がつく。
「あ、もしもし、ケイコ、今って電話大丈夫?」
「うん、いいよ。外を歩いているところだし」
「じゃあー、あのさー、今度の金曜日に、D社の人たちと飲み会なんだけど、ケイコも来るよね?」
メグミとは出会いの場に一緒によくいく仲間だ。もともと誰かとの飲み会をきっかけでメグミとつながって、お互い出会いを探しているという話になり、じゃあ、そういう出会いの場があるときは、お互いを誘おうという約束にしているのだった。
「来週の金曜日、来週の金曜日・・・。あっちょっと、まって、予定見る」
スケジュールを見ると、予定が入っていた。
「あ、ごめん、その日予定が入ってた」
「え、うそ、まじで、デートの予定とか?」
「いや、そうじゃなくて、学生時代の仲良しメンバーと忘年会なのよ」
「えーざんねん~」
「ちなみにその次の週もお誘いがあるんだけど、ケイコはどう?」
「ほんとにごめん、その次は取引先との会食だった」
「えー」
「ごめんね、12月は忘年会ラッシュなのよ。年末だし」
「出会いよりも仕事ぉ?」
「いや、うーん、そうね。仕事関係は断れないことが多いかな。仕方ない」
「ケイコはお仕事大事だもんね」
「また年明けとか、また誘い待ってる」
「えー、私のほうが先に彼氏できてるかもよー」
「はいはい」
「クリスマスにむけて勝負しないとだし!」
「まぁ、そういう嬉しいお知らせでも待ってるよ」
通話を切ってから、
「はぁ、そりゃ、わたしも出会いのチャンスは欲しいわよ。でもそれと同時に仕事だって欲しいんだよ」
ケイコの仕事は営業職だ。
頑張って契約を取れば取るほど、インセンティブが入る。
取引先との会食も大事な仕事だ。
顧客との関係値を築いて提案する土俵をつくり、やっと商談につながる。そこからは提案力も必要になり、顧客のニーズを把握しながら、どのように契約につなげるように話を進めるのかを考える。
いわゆる飲みにケーションというものは、最近、敬遠する若い人も多いが、ケイコに言わせてもらうと、顧客のことを知るチャンスだし、通常の商談だけでは話のでない相手方の社内事情も、交わされる会話の情報の端々から読み取ることができる。そういう細やかな情報収集が大切なのだ。
また、社外だけでなく、社内の人間と飲みに行くことも同じように大切だと考えている。社内政治を把握し、自分がどういうふるまいをするべきかがわかるし、仕事を円滑に進めやすくなる。
なにより、ケイコは飲みの場自体が好きだった。
ビジネスにしろ、プライベートにしろ、アルコールで適度に緊張が解けた状態でポロリと漏れる本音というのが大事なのだ。
我を忘れない程度の酒をのみ、相手の懐に入って、少しでも自分の利益につながるようにふるまいたいのだ。
数カ月まえから詰め作業をしていた案件がようやく受注につながりそうで、この一年の大勝負だった。各所に働きかけ、先方の事情ををくみ取りながら、折衝を続けていた。
その努力が実を結び、大型契約に結びついた。
「よっしゃあ、今日はいい酒が飲めるぞ!!」
金曜日、学生時代からの仲良しメンバーで忘年会をする日だった。
仕事関係の飲み会や、出会い目的の飲み会とも違い、気兼ねなく、純粋に会話とお酒を楽しめる貴重な飲み会だった。
居酒屋「タチドマリ」につくと、サークル活動で一緒だった仲間の3人が集まっていた。
「お、ケイコ、お疲れ」
「ケイコじゃん、久しぶりー」
「生ビールでいいよね?」
席につくと、3人の男友達だけしかいないことに気づく。
「あれっ? みき、くみは来てないの?」
「あれ、ケイコ聞いてないの? みきはおめでたで、つわりがあるから来れないのと、くみは結婚式準備関係で予定が入ってるんだって」
「そうなんだ。さやかはいつものとおり、家庭優先かな?」
「そうだねー。小さい子がいるとなかなか夜は来れないみたいだよ」
「じゃ、とりあえず、みんな揃ったことだし、今年もお疲れ様でした、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
乾杯のあとは、お互いの近況を話した。
ケイコも今年一年、力を入れた仕事が実を結んだ話をした。
「おー、それは、うまい酒が飲めるねー」
「そうなのよ、大型受注で、今期の営業成績TOPに躍り出たのよ」
「おー、すごいな」
「調子いいなー、俺いま調子悪いからうらやましいわ」
「稼げるときに、稼がなきゃねー」
「たくましいなぁ」
そんな風に盛り上がっていたが、話題が他のメンバーに移っていくと、
最近、マイホームを購入したとか、子どもが生まれたなどそういう家族の話が中心になってきた。
ケイコ以外はみな家庭持ちだ。
飲み会の最初こそ、「最近仕事は何やっていのか?」というトピックだったが、中盤以降は家族の話や、子どもの話が中心になってくる。
それはもちろん、生活のために働いているわけだし、糧を得て、どのように私生活を豊かにしていくかを考えるのだから、当然と言えば当然なのだが…。
家族の話になると、途端にケイコには話すトピックがなくなってしまう。
話題の中心がそれぞれのメンバーにひとまわりしたあと、改めてバトンがケイコに渡された。
「ケイコは最近どうなの?」
ある程度仕事を中心に自分の近況を話し終えていたケイコには、他に提供するような話題はない。
「いや、だから、さっき散々仕事の話したじゃない」
「いやいや、そうじゃなくて、男関係の話」
独身女には、何かあるんじゃないかという期待もあるのかそんな話題がよく振られる。
「言わせないでよね。仕事以外にネタなんてないわよ」
そう言うしかない。
「またまたぁ~、隠れてよろしくやってるんでしょうよ」
冷やかす声もある。
既婚者の彼らは、いわゆる”現役”のケイコに面白い話がないのかと話を振ってくるわけだ。
メグミと一緒に出会いの場に足を運ぶこともあるわけだが、
たとえ、飲み会で出会った一期一会の男がいたとしても、それをあえて話題に出すほどでもないし、今、彼氏という固定の関係性の相手がいるわけではない。
「うーん、まあ、ご縁がない時期なのかも。仕事も忙しいし、そこに一番エネルギーを使っているからね」
ひとりの男友達が、手元にある酒をのみながら、ぼそっとつぶやいた。
「まあ、でも、まじめな話、そろそろ現実とタイムリミットみたほうがよいよなぁ」
それを聞いて、ケイコはカチンとくる。
「自分たちはもう結婚してるからって、余計なお世話だよ!」
残っていたビールを飲みほし、ドンとジョッキを置いた。
「お手洗いいってくる」
それから席を立った。
残された三人たちは、あれはちょっと言い方が悪いぞとたしなめる声もあったが、それからは三人でまた互いの家族の話を再開したようだった。
取引先でもない、出会いの場でもない、何も取り繕う必要もなく、言いたくもないお世辞を言わなくてもすむ、自然体の自分でお酒を楽しめる場だと思っていた。
学生時代のサークルの仲間なんだから、今、互いがどんな立場であれ、環境に置かれていても、昔のように変わりなく、分け隔てない関係性を保てはずだった。
しかし、実際のところ、ライフステージの違い生活スタイルがそれぞれ変わっていくにつれて、共通の話題がなくなり、共感が出来づらくなる。
それが顕著だったのが、女友達。
早くに結婚をして、子どもをもち、子育てに追われる友達、結婚準備に追われる友達、彼氏と結婚できるかどうかを考えている友達。
それぞれ、自分だけでなく相手ありきの事情で何かに悩んでいたり、何かに追われている。
話を聞くことはできるけれど、当事者じゃない自分が心から共感できる範囲は多くない。
ケイコが日々考えている、仕事の悩み、仕事で得た喜び、そんな話題を話したとて、「そーなんだー、ケイコは仕事頑張っててえらいねー」というよそ事で。
「……それでさー、旦那が―」「うちの子供がー」「彼氏が―」と、自分自身でない話のトピックが話題になる。
仕方ないとはいえ、少し寂しくなる。
学生時代は一緒に遊びにいくことも、夢を語ることも、それぞれの恋愛事情にきゃーきゃー言うことも、全部、同じ目線だったのに、こんな数年で大きく違いが生まれてしまうんだなって。
それに比べると、
まだ、男友達はケイコが仕事の話をすれば、同じ仕事というトピックで話し合うことができたし、同じ社会で戦っている仲間意識というものがあった。しかし、その様子が変わり始めたのが、いつもの仲良くしている男友達の1人が結婚してからだ。一人が結婚したら、それにつられるように他の男友達もまたひとり、そのまたひとりと結婚していった。
そして、気付けば、今の飲み会のように、周囲は既婚男性ばかりになっているのだ。
就職活動を乗り越えて、仕事につき、会社員として、少しでも成果を出して待遇をあげようと頑張ってきた。頑張りが報われている部分ももちろんある。営業職として、数字を挙げた分、わかりやすい評価となって還元されることもある。営業という仕事にやりがいも感じるし、自分の得意スキルを活かせているという自負もある。
「ケイコは自分で稼いでいてすごいね!」と言われることもあった。
たしかに、会社員としての枠組みの範囲ではあるものの、同世代よりは少しばかり稼いではいるとは思う。
それは自分が頑張って努力してきたうえで獲得してきたものであって、誇らしく思う部分だ。
でも、この満たされない思いはなんだ?
男友達は同じように仕事で訪れる試練や課題に対し、真摯に取り組んできた。挫折することもあるし、結果が出ることもある。互いにやっている仕事は違えども、そういう仕事の浮き沈みを、「あーそれ、わかるわー」って共感しあってきた。
しかし、共感できない部分もできてきた。
家庭を持った彼らは、家族のために仕事を頑張るのだと皆言った。
ケイコにとっては仕事は自分のために頑張るものであって、だれかのために頑張る理由というのがない。
自分のためにも仕事を頑張るのは、それでそれで素晴らしいことだと思っているのだけれども、だれかがいるから頑張れるとまっすぐなまなざしで語る男友達を見ているとまぶしくなる。
一緒に仕事を頑張ってきたのに、いつの間にか裏でついているこの差ってなんなんだろう?
年が明けて、新年会という名目でメグミと「レストラン シャラン」に行った。
中央のオープンキッチンをコの字型に囲んだカウンターに並んで座る。オープンキッチン内では2名のシェフが料理を作って、客に料理を提供する。その奥の厨房でも数名のシェフが料理をしているようだ。
シャンパンがシュワシュワしながら、煌めいている。
「年末はどうだったの?」
ケイコが尋ねると
「うーん、ケイちゃんが期待するような結果にはならなかったよ」
「うん、ってことは、彼氏できた?」
「えー、ひどーい、私に彼氏できてないこと期待してたみたいじゃん」メグミがカラカラと笑う。
「だってほら、メグミとごはん行く機会減っちゃうのもさみしいし」
「えー、またまたぁー」
メグミとは出会いの作戦会議と称し、洒落たレストランに時々行くことが習慣になっている。
前菜が提供される。白い長方形の皿の上に、一口大のものが3つほど、
小さなグラスの中に彩ゆたかな旬野菜ジュレ、サーモンの手まりに貝柱を添えたもの、マッシュされた鶏肉とジャガイモがスライスされたズッキーニで巻かれたもの。カウンターのダウンライトによって絶妙な光があたり、つやつやとしている。
繊細なそれらを味わいながら、互いの年末年始の話をする。
「年末の出会いの場ラッシュはどうだったの?」
「うーん、やっぱりケイちゃんがいたほうが、やりやすいなあって思ったよ。ケイちゃん、やっぱり人と話しなれてて、心強いし」
「まー職業柄ね。とかいっても、メグミこそ、場慣れしてるじゃない」
「場に慣れてるだけで、別に気の利いたことも言えるわけじゃないしね」
「別に気の利いたこととか言わなくても、ニコニコいい子であればいいんじゃないの」
「まあ、そうなんだけど。ケイちゃんいないのはやっぱり寂しかったもんね。一緒に参加する同性メンバーのメンツとの相性もあるし」
メグミとは何かの飲み会で意気投合して、それからは、よく一緒に出会いの場に行くことも多い。
身長が低くて、適度な肉感がある姿でほんわかキャラのメグミと、身長が高く細身な体でしっかり者のケイコは女性としてのキャラ属性が違うし、互いの異性のタイプもかぶることがない。だからこそ、出会いの場で気になる異性がいたとしても、揉めることはないし、それぞれナイスアシストをすることもある。
メグミが年末年始で出会った男たちの話を聞き終えたあと、メグミがケイコに尋ねる。
「私からの誘いを断って、仕事を頑張った成果ってなにかあった?」
「よくぞ、聞いてくれました。前から話してた、大型案件決まったの!今期の成績トップになったのよ」
「え~、それはよかったねー」
メグミは大きな音をたてないようにしつつも、手をぱちぱちさせた。
ちょうと料理もすすみ、メインの肉料理が二人の前に提供された。
カウンターにいたシェフのひとりが料理の説明をするためにケイコとメグミの前に来た。
「こちらは経産牛のフィレステーキで・・・・・」
料理の説明をするシェフの顔を見た。彫が深めのはっきりした顔立ちで、かっこいいなこの人、とケイコは思った。
それを横で見ていたメグミがにやにやしている。
シェフがメイン料理の説明を終えて、ケイコとメグミのもとから去っていくと、メグミは「あの人かっこよかったね。ケイコのタイプだね」と言った。
「あ、バレてる。途中から料理じゃなく、シェフの顔見てた」
「やっぱりね」
それからしばらく、提供されたステーキを食べるあいだ、会話をやめた。
肉の濃厚な旨味と芳醇な香りが相まって、食べているだけで多幸感に包まれる。
「……びっくりするくらい、おいしいね」そうケイコが感想を言うと
「あのシェフがつくったものかもと思うとより一層でしょ」メグミがおどける。
「まあ、こんな美味しい料理を出してくれると思うと色気をすごく感じるよね」
お互いワインが少しまわっているのか、調子が良いやりとり。
そのシェフがまたケイコたちの近くで作業をしていたので、食事をしながら、ちらちらとそのシェフの様子を見ていた。
すると、奥の厨房から、お店のスタッフのひとりが出てきて、そのシェフを呼び止めた。
「リョウタ、忙しいところ悪いんだけど、ちょっとだけ来てくれる?」
リョウタと呼ばれたシェフは、作業していた手を止めて、奥の厨房に去っていった。
「名前もわかったね」メグミがつぶやいた。
「そうだね」
「どこかタイミングみてお近づきになれるかもよ」
「いや、もういいって」
ケイコは笑って答えた。グラスに口をつけ赤ワインを飲む。
「あ、そうそう、メグミに聞いてほしいんだけどね・・・」
それから、ケイコは先日の学生時代からの仲間との忘年会での出来事とその時感じたモヤモヤを話した。
話を聞いたメグミはうーんとしばらく考えて言った。
「……やっぱり、男じゃない? 足りないの」
「そうなのかなぁ」
「今、彼氏いないでしょ? いるときはそんなモヤモヤ考えたりしなかったんじゃないの?」
ケイコは彼氏がいたときのことを振り返る。
「彼氏がいたときのことを思い出すと、彼氏に対する不満があったことしか覚えてないんだけど・・・」
「ふふふ、ウケる」
「もうちょっとさ、仕事しっかりしろよって思ってたもん」
「あー、ケイコは、周囲の男性顔負けで、仕事活躍しているもんね」
「うん、それは、自分が頑張ってきたものだし、私の一部を形成しているものよ」
それは当然でしょという風に、ケイコは頷く。
「ケイちゃんはえらいよー。一つの会社で長続きできなくて、仕事を継続できない私にとっては尊敬でしかないもの」
メグミはいつもケイコのことをほめてくれる。それも適当なリアクションではなくてケイコの話を聞こうとするから、メグミに遠慮なく話すことも多い。
「仕事自体はね、もちろんめんどくさいなーとか、腹立つことも多いんだけど、そういう努力が実を結んだとき、それが数字という結果になって帰ってきたとき、ものすごく快感なのよね」
「快感って言えちゃうのすごいね」
「いや、そう言うしかないよね。自分が稼いだんだぞって数字に表れたとき、脳からドバドバァって出るんだよね」
「その快感は仕事以外で感じたことってないの? たとえば、恋愛してるときとか」
しばらくケイコは考え、歴代の彼氏などとの思い出を振り返る。
「……うん、ないかも」
「ふふふ、ウケるんだけど。どこまで仕事が好きなの??」
「そういう意味では営業職は天職のような気がする。数字になるときの脳汁ドバドバァを求めて、また仕事するわけだしね」
「そこまで振り切っていたら、周囲の友達の私生活の状況がどうであろうと、気にしないはずなんだけどね」
そこでケイコははっと気づく。
「ああ、今話している中でわかってきた。脳汁ドバドバするような相手に出会えていないのが虚しいのかも」
「そうなの?」
「もちろんさ、数字を追う日々はしんどさと快感を交互に味わうんだけど、その、しんどさと快感を交互に味わうっていうのが、生きているっていう実感につながってるんだよね。その生きている実感を仕事でしか感じられていないことに危機感を持っているのかも」
「なるほどねー」
「たぶん、苦しみも喜びも自己完結しかしていないのが虚しいんだろうね」
「ふーん、自己完結かぁ」
メグミ自身も何か思うところがあるのか、ケイコが言った言葉について考えをめぐらしているように見えた。
ケイコは続ける。
「ということは、メグミが言うように、男が足りないんじゃないっていうのもあながち間違っているわけじゃないかも」
「うーん、というより、ケイコが言っているのは、つまり、結婚する相手、人生を共にする相手がほしいってことじゃないの?」
メグミがずばり核心を捉えたかのように言う。
「そうなるのかな? そこまでは考えが及んでいなかったけれど…」
「付き合ったり、別れたりとかの浮き沈みもさ、一応相手がいるけれど、ある種の自己完結じゃんね。互いの人生に責任を負うわけじゃないし。そうじゃなく、人生を共に歩んでいく中で、自分以外の人間のために責任を果たしていくそういう友達の姿をうらやんでいるんじゃないの?」
そんなメグミの指摘に対して、ケイコも考えてみる。
なるほど、たしかに、結婚を想像した相手にこれまでめぐりあえてはいないのは事実だ。
「だから、ケイちゃんも私も、今やってるアプローチは間違ってないんじゃない。いろんな出会いの場に出かけていくのも、そんな相手を探しているからだよ」
「なかなか収穫はないけれどね・・・・・」
「そりゃそうよ、そんな簡単には出会えないんだって。ケイちゃんが数字を稼ぐために、手を変え品を変え、苦労して契約をとるように、人生のパートナーを得るには戦略が必要なのかもね。獲得したいという強い気持ちと、それを実現するまでに計画性と実行力」
「メグミらしくない話しぶりだね」
「ケイちゃんが仕事で熱く語っているのをそのまま、マネしているだけだよ」
そういってメグミはいたずらな笑みをこぼす。
「そもそも、あの人いいなって思うこと自体レアになってきているのだから、あの人カッコいいなって思って気になったら、それはGOのサインだよ。行動あるのみ。あのリョウタシェフに連絡先とか聞かなきゃじゃん」
それにはケイコも噴き出してしまう。
「いやいやいや」
「ケイコいつも言ってるじゃんね。数字が取れないのも圧倒的に行動量が足
りないからだみたいな。一緒だよ」
ケイコは笑いながら
「ち、ち、ち。甘いな。下手に行動するだけだと自爆するから、相手のことを徹底的に調べて、ヒアリングをして、ここぞというときに、自分の要求を織り交ぜていくのが鉄則よ」
ケイコとメグミはそういう冗談をいいながら、美味しい料理とアルコールの心地よい酔いで気分がよかった。
料理が美味しくて、また来たいとなったので、「レストラン シャラン」には、メグミと二人で何度か通うようになった。
何度か通うなかで、リョウタシェフとも、ちょっとした雑談をする機会もあった。
さりげない会話の中で
「そういえば、うちの奥さんも・・・」とリョウタシェフがポロッともらしたのを聞いた。
ケイコとメグミは顔を見合わす。
シェフが去ってから、
「いや、そうだよね、そんな都合よく現実は甘くないね」
「……だねぇ」
「ケイちゃん、来週ねまたA社との飲み会あるけど予定は?」
「うん、空けとく……。行動あるのみだ」
こうして、ケイコとメグミはふたりでいつもどこかの飲み会にいくのであった。
……「ワーカホリック女子 ケイコの場合」のお話はここまで。
次はケイコとナイスコンビのメグミの物語に続く。
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