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小説未満 新作小説創作途中中継だよ⑩

物語の序盤に置いた伏線の回収を少しずつ回収しながら
どう物語の終盤にもっていこうかと悩んでいた今週だった。

あと、平日の仕事も佳境で、残業続きで平日なかなか執筆できなかったのも
苦しい。

でも、
進捗厳しいんだけど、最終的に間に合わせて終わらせられるように頑張る。

早起きして書くか~
いろいろ工夫します。



前回書いたのがここまで



 取材で聞いた話から時系列を考えると、負傷したエラディンをブレイドウッド氏が保護したのは、ギム畑のピソ―ラのお店を本格的に始める前の時期で、製粉業の合間にブレイドウッド氏が個人的にピソをつくっていたタイミングだろう。

 ブレイドウッド氏によって一命をとりとめたエラディンは再び軍に戻る。エラディンのその一度の失態以降、グランディン王の態度はどことなくよそよそしくなった。それまでは、エラディンが考える戦術や戦略に対して、そのままに戦いを進めようとエラディンの判断を信頼していた。だが、この出来事以降、エラディンを戦術家として期待しなくなったのだ。  エラディンは勇者の中でも、力があり戦闘力に優れているタイプでは決してなかった。むしろ、その戦闘力の不足分を頭脳や戦略でカバーしてきた。
 勇者の多くは、個の戦闘力に優れているがゆえに集団で戦う戦法をとりたがらなかった。勇者の力の強大さによって戦いに勝つことは多かったが、あまりに無計画に戦いを進めるものだから、一般兵士の犠牲が多かった。そこにエラディンのような戦略家が指揮をとるようになると、効果的で無駄な犠牲が出ない戦い方になった。綿密な敵陣のリサーチをしてうえで、戦法を考える勇者は貴重だった。グランディン王は、その点でエラディンを評価していた。
 しかし、そのエラディンが率いる軍がほぼ壊滅状態になり、本人も、軍に戻るまでしばらく安否不明だった事件をきっかけに、グランディン王はエラディンに対する信用を失った。それ以降、戦いの最前線の場にエラディンを派遣しなくなった。エラディンの最初の挫折だった。
 それでも、エラディンの頭脳は他の活用の場所があるだろうとグランディン王は考えて、他国との和平交渉役として任命した。力づくで物事を進めるのではなく、したたかに相手の懐に入り込んで交渉していくことができるだろうというグランディン王の期待だった。グランディン王としては、ジャーニマー国が強大な力の王国であるというイメージを他国に植え付けすぎてしまっていて、敵対関係しか生み出せないのは避けたかった。グランディン王の期待に応える形でエラディンが、新興国タランティー国と友好関係を築けたのは、軍を壊滅状態にして失ったグランディン王の信頼を取り戻す大きな出来事だった。グランディン王は、和平交渉役として、タランティー国以外の国とも交渉を進めるようにとエラディンに命じたのだった。

「タランティー国との交渉が成功したのも、キュイニーのおかげだしな……」
 エラディンは速いスピードへ流れていく景色を窓から眺めてため息をついた。車窓から見える景色を眺めるのに飽きて、ふと足元を見てみると、スケッチブックが落ちていた。
「あれ、これは」
 拾い上げたスケッチブックは、ジョアンナがいつも使っているものだった。
 ブレイドウッド氏の店から二手に分かれて出発するために荷物を仕分けた際に、間違って、エラディンの乗るダダビット車にジョアンナのスケッチブックがまぎれてしまったのだろう。パラパラとめくって確かめたが、ブレイドウッド氏の取材時に描いたスケッチはなかったから一安心した。取材時のスケッチがこのスケッチブックにまぎれていたら、新聞に入れる予定だった挿絵が入れらくなってしまうからだ。
「ほんとうに、うまいな。ジョアンナの確かな才能だよ」
 エラディンは一枚一枚、丁寧にページをめくり、描かれているスケッチを見た。高い場所から見下ろした町々のスケッチが何種類かある。ジョアンナを保護して間もないころの言葉が話せたいときでもよく描いていた構図の絵だった。他には身近な人物たちのスケッチがいくつか。エラディンやジョアンナの顔を描いたものもあったが、一番数が多かったのはフィリッポの顔だった。そして、最近書かれたのだろう、この取材の旅の直前に行ったダダビット城のスケッチ。太い柱がいくつか立っている謁見の間、装飾がたくさん施された玉座、書物庫の天井まで届く書棚にたくさんの本と報告書の束が並んでいる様子。
 そして、ゴブレット。
「これは、なんだ?」
 ページをめくっていた手が止まった。見たことのないスケッチだった。ケラスズ城のどこかで飾られているものを描いたのだろうか。
 見たものをさらっと描いたという印象ではなかった。
 ゴブレットは曲線の柔らかいデザインではなく、直線的で角張ったデザインだ。飲み口を上から見ると八角形で、金属のフレームに、すりガラスが張られている。ゴブレットには6分ほど液体が注がれているのがすりガラス越しに見える。黒いペン一色だけで描かれているので、詳細の色はわからないが、ゴブレットに注がれている液体は黒く塗られている。赤ヴァイリーのような濃い色の液体が注がれている。
 他のスケッチと比べると、明確な意思のようなものが感じられる。ただ見たものを描いただけではない想いのようなものが描かれているような気がした。

リアナとジョアンナと別れて、ピソ畑からダダビット車を走らせて2日目。いくつもの山を越え、現れたのは大きな川だ。対岸はタランディー国の領土だ。対岸へ渡るための橋を探すために川沿いを進む。見つかった橋には、大きなゲートが設けられており、自由に橋を渡れるようにはなっていない。ゲートのそばにはタランティー国の門番がいた。
門番に通行証は?と尋ねられ、あらかじめ取引人から伝えられていた通行許可認証番号と要件を伝えると、門番は荷車の中と、キャビンの中を覗いて確認し、ゲートを開けた。
長い橋をダダビット車はゆっくり歩いて進んでいく。門番に橋を渡る際のスピード制限がされ、駆け抜けることができなかった。川は霧が出ていて、あたりは白くかすみ、5m以上先は対岸の様子がはっきりと見えない。エラディンはタランティー国に和平交渉のために何度もこの川を渡っているが、いつも白い霧が立ち込めていたなあと思いだす。長い橋をゆっくりと進むこと数分。対岸のゲートたどりつき、先ほどと同じように通行許可証番号を門番に伝え、入国を許可してもらった。ゲートをくぐり、対岸に渡ると不思議なことに白い霧はなくなり、青い空からサンサンと太陽の光が降り注いでいた。
取引人が指定した場所まで移動する。ダズル豆がなる低い木が広がっている畑のそばにある倉庫にダダビット車を止めた。キャビンを降り、荷台の荷物の確認をしていると後ろから声を掛けられた。
「ひさしぶりじゃないか、エラディン。まさか君がこの場にくるとは思わなかったよ」
振り返ると、鎖骨と肩を出した黒のワンピースで、腰や袖に金の刺繍があしらわれたものを身にまとった魔女がいた。頭にはリボンのあしらいがついたシアー素材のつば広の黒のハット、ウェーブがかった赤毛のロングヘア―が風にゆれている。赤いリップで不敵な笑みをたたえている。
「……キュイニー!? まさかきみが取引人なのか?」
「……きみが来たってことは、マトラッセ王にピソの密輸はばれたかな」
「質問に答えろ、キュイニー」
「取引人はあたしだけじゃないんだけどね、取引グループの一員ってとこかしら」
「どうしてそんなことをやっている?」
「そりゃあ、ジャーニマー国の強さの秘密をタランティー国は知りたいからさ」
「ということは、タランティー国王からの命なのか?」
「さぁーね。くわしいことはあたしからは答えられないわ」
「ピソを輸入するかわりに、パチェイを輸出しているのはなぜだ? パチェイこそタランティー国から輸出することは禁じられているのではないのか?」
「まあ、表向きはね。でも食べてほしいターゲットに食べさせたいものなのよ。パチェイって」
「どういうことだ?」
「目的地にたどり着いてからの怒涛の質問ね。長旅で疲れているでしょう?今日は日差しが強いし、あたし、暑いわ。陰ある場所で涼みながら話しましょうよ」
 キュイニーは倉庫にむかって歩いていった。エラディンはその後につづく。キュイニーが履いているハイヒールが土にめりこんで足跡がつくのを眺めた。

 キュイニーはエラディンがジャーニマー国の和平交渉役としてタランティー国とコンタクトをとる際に協力してくれた魔女だった。エラディンがタランティー国に和平交渉をしにはじめて訪れたときだ。タランティー国に真正面から入国しようとしても、橋の門番に門前払いされていた。その時キュイニーが声を掛けてきたのだ。
「タランティー国はね、魔法で守られている国。魔法に精通している協力者なしでは入国できないわ」そう言って、門番に話して、一緒にゲートを通り、入国したのだ。
 なぜエラディンに協力しようと思ったのかとキュイニーにたずねると、「ジャーニマー国の使いでしょう? ジャーニマー国と敵対するメリットはないわ、タランティー国のような小国はね」と答えた。キュイニーの手引きのおかげで、タランティー国の国王との謁見が許され、ジャーニマー国がタランティー国と友好条約を結ぶことができた。あまりにもあっけなかったものでエラディンは驚いたものだった。実際に、ジャーニマー国の当時の王のグランディン王はケラスズ城にタランティー国王を招き、不可侵条約を締結することになった。
「小国だからと言って侮らなかったグランディン王の懸命な判断ね」とキュイニーは言っていた。

 倉庫のシャッターが開け放たれていて、キュイニーは入口近くにある折り畳み椅子を二つ出して、向かい合うように置いた。片方の椅子にキュイニーは座って足を組んだ。もう片方の椅子にエラディンも座った。
「この現場は相変わらず暑いわね。久しぶりにダズル豆の収穫時期の確認のためにきたんだけれどね。でも、きみに会えるとは思わなかったわ。暑い中きてよかった」
「普段はここに来ないのか?」
「ええ、普段は寺院の中にいることが多いわ。あそこの魔法族の制御も私の主な役割だからね。寺院の中はどんなに外が暑くても、冷気に覆われていて薄ら寒いくらい。寺院の中でイロガの調合術を使うことはできても、ダズル豆の出来にあわせてイロガの調合を最終調整するから、そのたえめにはこのダズル豆の畑に来ないとだめだからね」
 寺院とは最果ての地の寺院のことだ。エラディンは勇者の旅としての最後に行った場所だった。そこでエラディンは預言者に預言を授かっている。
「イロガの調合術?」
「パチェイは、ダズル豆をすり潰して出た油に砂糖と、イロガを入れて固めたものなの。そのイロガというものは、魔法族にしか調合できない媚薬。あたしはそのイロガの媚薬も作っている。調合したイロガ、ダズル豆をパチェイ職人に渡して、パチェイをつくっているってわけ」
「媚薬ってことは何か効果があるのか?」
 キュイニーは足を組み替えた。
「タランティー国を好きになる効果」
 なるほど、そういうことかと謎が解ける。
「……つまり、タランティー国への敵意の芽をつむ効果がある」
「ええ、そうね。タランティー国王が、はじめてグランディン王に会った際にパチェイを献上しているわ」
 グランディン王が、小国タランティー国を侵略しないという判断をしたのをずっとエラディンは不思議に思っていた。いくら魔法族と関係が深い国だからといえども、ジャーニマー国の強大さ、勢いをもってして怯むような規模の国ではないのだ。
 タランティー国王が公式にジャーニマー国に招かれるまえに、どこかのルートから、グランディン王が手に入れたパチェイを食べている可能性がある。グランディン王は食べることが大好きだ。見たことのない食べ物は知ってしまったら食べずにはいられない。
「パチェイをジャーニマー国に少しずつ流しているだけじゃなくて、ピソを密輸するというのは、やはりピソづくりの秘密を暴きたいってことか?」
「どうかしらね? タランティー国の真意はあたしにはわからない。でも、強力な軍隊のもとをつくるピソの秘密は知りたいと思うのは当然でしょうね。パチェイで敵国を魅了する力、また食べた者の力や能力を最大化させるピソの力があれば、タランティー国も強大な国になるかもしれないしね」
 キュイニーがまた足を組み替える。
「君は、タランティー国のためにイロガの媚薬を作っている話もするし、ピソを密輸していたこともあっけなく話す。そんなにぺらぺらとタランティー国の秘密を話してよいものなのか?」
 ふふふふとキュイニーが笑う。
「あたしは、タランティー国のゆくすえはどうでもいいの。仮にジャーニマー国がタランティー国を侵略しても、またはほかの国が支配しても、逆にタランティー国が力をつけて世界の覇権を握るにしても、そんなのどっちでもいいの」
「でも、きみは、タランティー国で重要なポジションにいるわけだろう? パチェイにイロガの媚薬を混ぜ込んで操作しているわけだし」
「そういえば、魔法族がタランティー国に多くいる理由を教えてあげましょうか?」

 そうして、キュイニーから語られたのは魔法族が迫害されてきた歴史だった。

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まいこんのおと
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