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イタコで字幕

めんどくさいIT関連の仕事が終わったと思ったら、またもや企業系の案件を続けて依頼される。はい… いただけるお仕事はいただきますが、内容にはまったく興味ございません! よくあるビジネスフォーラムの講演の翻訳。つまらない。

「ビジネスの未来を語るうえでイノベーティブかつクリエイティブなソリューションをうんたらかんたら…」て外人のおっさんがずっと言ってる(笑)。

こういうフォーラムに出たことはないけど、中身のあるようなないような、概念みたいなきれいごとばかり語られて、サラリーマンの皆様は「たりーなー」て思ってるんじゃないかと邪推してしまうよ。その後のパーティーかなんかで「やあやあ、どうもどうも。お世話になっております」みたいな社交の方が重要なのかしら。普通の会社員だったことがないので分からん。

なぜこういう翻訳がストレスなのか考えてみて分かった。
対象に感情移入できないからだ。

ドラマや映画ならまだ物語を楽しめるし、登場人物に感情移入しながら訳せる。登場人物の固有名詞表記を決め(ジェームズなのかジェイムスなのかなど)、一人称を決める。女性は「あたし」としたい人物もいるけど字数の関係で「私」一択。男性は「僕」「俺」「私」でだいぶ印象が変わってくる。まれに「ボク」「オレ」のほうがしっくり来る場合もあるけど。

そのうえで人間関係がつかめてくれば、途中から私はイタコ状態になる。
ドラマなどの場合は2エピソード分も訳せば、途中から登場人物たちが日本語でしゃべってくれる。セリフは英語だけど、聞いたとたんに私の脳内では日本語のセリフになる。「この人ならこう話す」というのが自動化し始めるのだと思う。その日本語を書き留め、字数内に収めればいい。

見直しをするときは監督もしくは演出家の目線で大まかな流れを把握し、細かい調整をする。つまり翻訳時の最初はミクロの視点で登場人物の内面に同化し、2回目以降はマクロの視点で俯瞰する。要するに、視聴者が初めて見た時に一発で理解できる訳にすることが重要だ。私は「読む」よりも「見る」に近い字幕にできるよう心掛けている。

たとえば「ありがとう」という言葉は、ほとんどの人が一瞬で読める。
読んで理解しなきゃと思う前に、ぱっと目に入った時点で塊として分かるからだ。
理想はドラマや映画を見終わったときに視聴者が「あれ、今のって字幕ついてたっけ? 英語で見てた気分だった」と思ってもらえる字幕にすること。「字幕を読んだ」ということが意識に上らないような訳ができたら、本当に理想だし嬉しい。

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