おすすめ本No.6『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』 コウケンテツ
料理を作るのは、本当に面倒くさい。
肉を切ったり、野菜を炒めたり、塩コショウで味を調えたり、といった工程はまだいい。その前段の、献立を考えたり食材を買いに行ったり、食費をやりくりしたりすることがまず面倒くさいし、食後の後片付けがまた最高に面倒くさい。
それに加えて、「誰か」のために作ってあげている人は、おいしさや見栄えの良さ、栄養バランスまで考えなければならない。そこまでして食卓に料理を並べても、「おいしかったよ。ありがとう」といつも感謝してもらえるわけではないのだ。
料理研究家ユーチューバーとしても活躍中の、コウケンテツ氏の書かれたエッセイである本書は、「料理を作ったことのある全ての人のモヤモヤ」の根本を紐解き、その気持ちに寄り添い、不思議と気持ちが軽くなる言葉をかけてくれる本だ。
「家庭の食事は質素でいいですよ」
「世界の食卓を見てきたけど、案外、大雑把なものでしたよ」
「作りたくないときは無理しなくてもいいですからね」
料理研究家がそう優しく語ってくれることにも感動したが、「作りたくないからって作らずに済むなら苦労しない」という読者のぼやきが聞こえていたかのように、手間を最大限排除したレシピまで掲載されている。随分とかゆいところに手が届くエッセイ本だと思う。
料理を作るのが本当にしんどい人に寄り添い、
「手料理こそが愛情だ」という呪縛にかけられている人を解放し、
誰かが作ってくれた料理を食べている人には、「感謝を忘れないように」と優しく諭してくれる
そんなあたたかいエッセイ本だった。
特に手料理の呪縛については、頷くところが多かった。
手料理は愛情ではなく心の余裕のバロメーターだと著者は言う。
料理研究家の著者ですら、子供たちが自分の手料理よりコンビニのみかんゼリーに夢中になって悔しがっているのだから、素人の我々はもっともっと気を楽にして料理をしていい。
余談だが、この本で紹介された「私のサンシャインが輝かない」というフレーズが、すっかり気に入ってしまった。
著者がパリの女性を取材した際に耳にしたのがこのセリフだ。
「家で料理ばっかり作っていたら、私のサンシャインが輝かないじゃない」
「私が輝いてこそ家族が輝くのよ」
ド正論だし、「私のサンシャインが輝かない」の言い回しがオシャレすぎる。
これは汎用性の高い言葉だから、人に何か無茶ぶりをされて断るときにでも心の中で呟いてみようと思う。
上司「急ぎの仕事頼んでもいいかな?」
私「別件で立て込んでおりまして少々難しそうです(だって無茶ぶりをまともに受け止めてたら私のサンシャインが輝かないから)」
……みたいな具合に。
Kindle Unlimitedでも読めます。
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