黄金比画家と醜悪3

ある夜、私は絵画のオークションサイトに目を向けていた。

素人から玄人まで、いろいろな画家の絵が掲載されている。
有名な画家を模した物、卑猥な風刺画、広大な風景の写生。

しかし、どれもつまらない。
所詮は模倣品や、美の解釈を履き違えたものばかり。
あくびをしながら、画面を適当にスクロールする。
美しいモノを描こうとした二番煎じばかりで、眠くなる一方だ。

そんな作品ばかりだが、やはり見てしまうのはどこかに期待してる自分がいるからであろう。

異質な醜悪な作品に出会えるかもしれない、と。

今日はここまでか、と思いかけたその時。
大画面の中に小さく見えた気がした異端。

少し戻って迷わずクリックした。

…嗚呼、これだ。
ついに出会えた、才能の塊だ。

その絵は、色彩はめちゃくちゃで、平行線は歪んでいて、あまりに粗末であった。

だが、そこが私を惹きつけた。
もちろんまだ、誰も値をつけていなかった。
いや寧ろ誰がこの作品を買うと言えよう。
こんな絵を欲しがるのは、世界にただ1人私だけだ。

嗚呼、なんと美しい!
今までに浮かんだことのないような、醜い笑みが溢れてしまう。
体の中の何かが熱くなる様な感覚が、込み上げる。物凄く心地が良い。

手持ちの有り金を、ほぼ叩いて落札した。
こんな美しい絵を描ける逸材がいたなど夢にも思わなかった。

知りたい。
この絵を描いた「人」を。
人生を、生活を、性格を、全てを。

こんなに人に興味を抱いたのは今までで初めてだった。
今まで出会った人間というのは、美しい価値あるモノを求めるばかりの一遍に思えた。

だが、この絵は本質的に違う。
自分の本能のままに、他人の評価などこれっぽっちも気にせずに描いたのが伝わってくる。

奥にある醜い言葉や感情が全て出てきそうになる。私の欲望を引き出される。
おかしくなりそうだ。

とりあえず、落札のメッセージに一言、会いたいと伝えた。
あまり期待はしていないが、話せるものならと思うと更に興奮が治まらなくなる。

ドーパミンが全開のまま、パソコンを消して寝床についた。
あの絵が手元にくるのが楽しみすぎて眠れなくなる。興奮で寝れないというのはこういうことか!と1人で納得する。

こうして、とある画家の絵は落札された。

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