創作バンドの物語(仮)3
あれから1週間。もう一度集まることになった。
どうやら凛が誘っていたベーシストは、やってくれることになったらしい。
その顔合わせも兼ねて、今日もまた例の喫茶店に行くのであった。
この前の喫茶店。先に着いていた京と楓。
2人の間には沈黙が流れる。
楓はこの状況に耐えかねていた。
人見知り緊張陰キャと、眉目秀麗な我が道突っ走り寡黙。どう考えても釣り合うはずがない。
でも、楓は勇気を持って話しかけてみることにした。
「あ、あのさ、京は、ギターを始めたきっかけとかあったの…?」
緊張して声が震えた。
「…ああ、そうだな。この前言った氷室京介好きな父の影響だ。」
…あ、やばい、会話終わるぞこれ、と、思ったら、
「でも何故か、海外のメタルバンドを聞くようになって、歪んだサウンドが好きになった。そこから、メタルのギタリストに憧れを抱くようになって今のプレイスタイルに落ち着いたな。」
「そうなんだね…それを体現しちゃうのがすごいや…」
「まあ、俺はギターや本の知識にしか興味がないからな。たまたまやることがギターしかなかっただけだ」
謙遜の仕方もなんとかっこいい。しかも思ったより話してくれる。
僕のイメージとは、少し違った様だ。
「お前は何かきっかけでもあるのか?」
京が話を振ってくれた。
「お、俺は、中学の時に、パンクやエモにハマっちゃって、そこからギターを弾いてみたいって思うようになったんだ。僕はそれまで趣味なんてなかったから、夢中になれたものが初めてだったんだ…」
京は優しい笑みで
「それはとても良い趣味を見つけたな」
と、返してくれた。
何故彼がモテるか分かる。
こんな優しい笑顔向けられて落ちない女はいるか!?と心の中で叫んだ。
「良い話だな。そんな良い話してる中悪いが、多分今日のメインゲストの到着だぜ。」
と、愁が割り込んできた。
ガラン!と扉が開くと、そこには凛と、もう1人女の子…?が立っている。
いや、女子にしては僕より少し大きい。かなりデカい。
「ちょっとそんな、ジロジロみないであげてよ楓!この子は『累』っていうの。』
「初めまして、『累』です。洋服は女性のものが好みで、オフの時はこんな感じです。普段は歌舞伎町でホストしてます。よろしくお願い致します。」
とても丁寧な挨拶をしてくれた。
ホストとは思えないくらい物腰柔らかく、陰キャの俺でも拒絶反応は起きない。
「あ、初めまして、『楓』です。ボーカルをやることになりました。どうぞよろしくお願い致します。」
「『京』です。ギターです。」
「よろしくお願いしますね」
爽やかな笑顔で累が返した。
もはや、美女。美しすぎる。こんな笑顔見せられたら、女の子たちは射抜かれちゃうよな、と納得。
「まあとりあえず、なんか頼もうよー!すいませーーーん!」
「はーい、ちょっと待ってな」
凛が愁を呼ぶ。まだ決まってないのに早すぎる。
「うーんと、プリンと、アイスカフェオレ下さい!累はどうする?何食べても美味しいよ?」
凛は累にメニューを見せた。しかし累はメニューと愁をチラチラ垣間見ている。
「どうした、何か俺の顔についてるか?」
と愁。すると、累が、
「…愁さんですよね?」
愁と累は初対面のはずだ。
何故、累は愁を知ってるのだろうか。
「あ、そうだが、前に会ったことあったか?」
「いや、僕その、愁さんのバンドの大ファンだったんです…」
「はは、まさか、前のバンドのファンに出会うとはな…」
愁が少し暗い顔で、呟く。
「あ、言わなかったほうがいいですか、その、何とお詫びしたらいいか…」
「愁さんの前のバンド知りたいです!」
累の謝罪を横に、深掘りする凛。空気読めないのかお前は…。
「いいよ仕方ないから話してやるよ。まず、何頼むか教えてくれ。凛は聞いたから他の3人は何だ?」
それぞれが頼みたいものを頼んだ。
しばらくして、注文したものが各自の前に並べられ、最後に愁が椅子を持って卓に来た。
「まあとりあえず、食べてくれ、俺はタバコ吸いながら話すから悪しからず」
視線は皆、愁に集まる中、もくもくと食べている。
「俺、前はさRED scullっていう、バンドやってたのよ。もちろんドラムな。メジャーデビュー目前で解散したんだけどさ。」
「なんで解散したんですか?」
と凛。
「ちょっとそれは、」
凛を止める累。
「いいよ別にもう乗り越えたことだから。亡くなっちまったんだよ、ボーカルが。」
その発言に場の空気が重くなる。
「アイツ、バイクで事故るとか、本当ロッカーらしい死に方だよな。俺はアイツなしじゃデビューなんて出来ねえ、そう思って解散しちまったんだ。」
「…そうだったんですね。」
珍しく凛の顔も曇っている。
沈黙が流れかけた時、累が口を開いた。
「僕本当にRED scull兄さんたちが大好きだったんです。今回、バンドやろうと思ったのは、楓さん。あなたのおかげです。」
「…え?僕ですか??」
思いもよらぬ言葉に動揺を隠しきれなかった。
「凛が聞かせてくれた、楓さんの My Chemical Romanceの歌。RED scullをどうしても重ねて思い出してしまったんです。僕も心の片隅にしかなかったはずなのに、兄さん達みたいになりたいって感情が湧き出てきて。それで参加することにしたら、まさかご本人に会えるとは…」
そうだったのか。心の中で嬉しい様な、複雑な様な、そんな気がする。
「本当に無理を承知でお願いしますが、どうか僕たちのためにドラム叩いてもらえませんか…?」
累が深々と頭を下げる。
「これは僕のエゴかもしれませんが、あなたとリズムを作りたいんです。そしてここには最高のギタリストとボーカルがいます。どうか、お願いします。」
まだ打ち解けてもいないバンドのためにここまでするなんて…楓は内心、感銘していた。
「アイツは、俺になんて言うのかな。ドラムまた叩くよって、別のバンドで。って言ったら怒るかな。」
愁は窓の方を向きながら、語る。
しばらくぼーっとして、下を向いた。
「…一曲だ。一曲作ってきたのを叩いてから考える。」
「「やったー!」」
凛と楓が喜んで叫んだ。
「「「「よろしくお願いします!」」」」
と、4人で頭を下げた。
「まあ今日はゆっくり、ここからは俺も含めて仲良く打ち解け会おうぜ。俺の話はしたからな、お前らの話も聞きたいな。」
こうして自己紹介タイムが始まることになった。