創作バンドの物語(仮)2
「ボーカルは決まったが、それ以外はどうするんだ?」
「どーするって、言われてもねえ…」
京と凛が話す。
場所は移り、近くにあった喫茶店にいる。レトロな昭和を感じる心地よい空間にバンドマン(仮)が3人。少し異質だった。
「まあその、ベースに関しては1人当てがいるけど、どうかなー。ちょっと聞いてみるよ。問題はドラムなんだよねー。」
「俺は1日で挫折したから無理だ。」
「いや、僕もドラムセットなんて遊びで座ったことしかないよ!」
今の課題。それは2人がどうしてもギター以外をやりたくない、ということ。
ボーカルは何故か楓に決まってしまったものの、それ以外は何も決まってない。
カラオケでは決めきれず、喫茶店に持ち込むハメになっているのだ。
「京も楓も誰がツテないのー?全くー」
「お待たせしました、アイスコーヒーです」
赤毛の長身の若い店員が、3人の前に注文した物をそれぞれ置いた。
「うわー、プリン美味しそう!いいよねこういうレトロチックなの!」
凛が夢中で写真を撮る。
京はブレンドコーヒーを飲んでいた。
「美味い…」
ぼそっと呟いた。
楓が頼んだのは、アイスコーヒーとロールケーキ。見た目は至って普通のロールケーキだが、
「美味い…クリームの甘さがちょうど良くて、スポンジの甘味も感じる!」
「そんなに褒められちゃ、照れるねぇー。」
長身の店員がカウンターから頬ついて、声をかけてきた。
「まあ、この店のオーナーが直々に作ったレシピだから、美味くても仕方ねえよなあ。はは。」
そう言いながら、タバコに火をつける。
「そういやアンタら、こんな大荷物抱えて、ギタークラブでもやってんのかい?」
「一応バンドを組むんですけど、なかなか人が集まらなくて…ボーカルだけは決まって他がまだで…」
凛がプリンを頬張りながら話す。
「またメンバー募集かけるしかないかなあ。プリンうま!」
「そんなに美味いか、兄さん嬉しいなあ。なるほどなー。ちなみに俺ドラムできるぞ。」
「「はぁ!?」」
楓と凛が同時に立ち上がる。
「はぁ!も何も、一応俺、これでも前は叩いてたんだぜ。」
「バンド手伝ってくれませんか!?」
凛が目を輝かせて、長髪の店員に近づく。
楓も後からついていって、
「お、お願いします…」
と、頭を下げた。
京はコーヒーを飲みながらこちらを伺っている。
「はは、もう昔のことだし、今更叩けねえよ。それにな、学生バンドなら学生同士組んだ方がいいんじゃねえか?」
「いや…でも僕達、本当に困ってて、お願いしたいんです。」
「兄ちゃん達、何が得意なんだ?曲。」
「僕もそこの彼、京も、ハードロックやメタルが得意です!早引きも、バラードもなんでも出来ます!」
「はは、そう来なくちゃなあ。若いっていいねえ。」
「そして隣の楓がボーカルです。My Chemical Romanceを歌ってくれた時は感動しました。」
「へえ君がボーカルなのか、見た目と違って良いんじゃないか?」
店員のお兄さんがタバコの火を消した。
「まあ、気なんてコロコロ変わるもんさ、もう一回ウチの店来て、それでもダメなら相談に乗ってやるよ。ちなみに俺は、『愁』っていうんだ。いつもここにいるから、暇なら来てくれ。何かの力にはなれるかもだ。」
「…ありがとうございます」
この日はこれで解散した。
凛とは同じ方向だったので、楓は一緒に帰ることにした。
「あのお兄さん、多分只者じゃないよね。」
凛がぼそっと呟く。
「僕も、なんか、そんな気がする。」
「あの人どこかで見たことある気がするんだよ…。んー、思い出せないや。」
「僕らのバンドに入ってくれるかな…」
「どうだろうねー。ま、とりあえずは、他のメンバーを探してみるよ。楓もツテとかあればお願いね。」
ポケットから出した飴を凛が咥えた。
「うん、なるべく、がんばるよ。」
ツテなど1人もいないが。
「じゃあまた今度ね。」
凛のLINE通知がなった。
「あ、LINEだ。なになにー…ベース候補の人、興味あるって言ってくれた!今度そいつも連れてくるね!」
凛の飴が口から落ちそうになる。
「ばいばーい!」
小走りに凛は去っていった。
ベースの方ってどんな人なんだろう。
楓は少しの楽しみと、緊張で胸がいっぱいになった。
…ていうか、僕はボーカルに何故か決まってしまったけど、どうしよう。
上手くなんて歌えないのに…
とりあえず、今日からYouTubeでボイトレをすることだけを決め、電車に乗った。