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大学と漫画の二足のわらじ~鬼の漫画を描く~
初投稿作「ふろん」はフレッシュジャンプに掲載されました。
本来ならば佳作より上の受賞作でないと載らないはずなのですが、ちょうどその時ホップ☆ステップ賞に「一番点数が高かった作品は掲載します」という特典があったので、その恩恵にあずかりました。
本当にどこまでも幸運な作品です。
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この時から担当編集者が私に付きました。
「ネームを描いたら見せてください」と言われ、私は大学に通いながら漫画を描くという生活を送りました。
次に描いたのは「忘れっぽい鬼」です。
「ふろん」が暗い題材だったので、自分の中で「次は明るい話を描こう」と無意識に決めていました。自分でも驚くほど、すんなりと生まれた作品でした。
後にも先にも、こんなにスムーズに作品が描けたためしはありません。この時の感覚をどうしたらとりもどせるのか、本当に悩ましい。
ちなみにこのそのまんますぎるタイトルは編集部がつけたものです。
何故かタイトルだけがいつまでも決まらなくて、おまかせでお願いしたところ、これが候補にあがってきました。
「まぁいいや」とそのまんま頂きました。主人公が目茶苦茶いいかげんなキャラだったので、私も多少引きずられて、テキトーになっていたかもしれません。
この作品は、初の単行本の「七つの海」を出版した時に、担当氏が「まとめて読み返すと、これが一番面白いね」と言ったのが忘れられません。
けっこういろいろ描いたのに、これが一番かぁ…と複雑な気持ちではありましたが、楽しんで描いただけあって、楽しいムードが作品に滲み出ていたのかもしれません。
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「忘れっぽい鬼」はフレッシュジャンプに掲載され、順位も良かったので、次に本誌用のネームを描くことになりました。
これが実に難産で、なかなか作品が描けずにいました。
そこで「ふろん」よりもずっと前、高校二年の時にノートに描いた漫画を担当氏に見せたところ、「これで行こう」ということになりました。
タイトルも内容も、その時のものとほとんど同じです。二作続けて鬼が出てくるお話になりましたが、実は風魔の方が後輩です。
私は中学の時からジャンプを定期購読してまして、北斗の拳やドラゴンボールに夢中でした。
そんなすごい漫画が載ってる本誌に、自作品が載るというのに、どう思い返しても、当時はあまり緊張していなかった気がします。
たぶん事の重大さをわかってなかったんだと思います。そしてこの無知さがかえって良かった。若かったということも相まって、恐れを知らずに進む事が出来ました。
「たとえ火の中…」は本誌に掲載され、ビックリするほどたくさんのお手紙をいただきました。
「これが本誌に載るという事か…!」と、その時やっと大きな雑誌の持つ影響力というものを思い知った覚えがあります。
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この鬼を題材にした二作品ですが、どちらも鬼が主人公で、ヒロインとの恋愛があり、社会から忌避される存在で、超能力者…という具合に、共通点も多くなってしまいました。
でもまぁ、それぞれ違った味は出せたかな…と自負しています。
これは主人公のシリアス度で大きく話が分岐したように思っています。
コメディの「忘れっぽい鬼」にも、差別や偏見というテーマらしきものを、チラッと入れはしましたが、あまり深刻にならずに済んだのは、主人公の忘れっぽさのおかげかなと思います。差別されてることすら忘れてしまえるのは最強ですね。
そのぶん、「たとえ火の中…」の放助には、この問題に正面から向かわせ悩ませましたが、だからといって、「人間て差別をするからダメだよね」という話には、どちらもしたくありませんでした。
私にも偏見はありますし、そういう差別をしてしまう人間の一員だと思うので、「お前はどの立場から説教してるんだ」という作品は、私は描きたくはないのです。
ですから、どちらも彼らを迫害する人たちをやっつける話にはなっていません。今一つ爽快感が無い展開かもしれませんが、できれば主人公たちには、復讐者であってはほしくなかったのです。
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こんな風に、大学に通いながら漫画を描いていた私ですが、二足のわらじを履いていた…というと聞こえはいいのですが、正直どちらもちゃんとできてたかというと、全然そんなことはなかったです。
大学は単位を取るのが精一杯、漫画も時々読み切りを載せるのが精一杯、という状態でした。
それでも今、どの時代に戻りたいかと問われたら、間違いなくこの大学時代を私は選びます。
忙しく、無駄だと思える事や失敗も多くしてしまった4年間でしたが、とても充実していました。
若さだけで、見ず知らずの世界を恐れも知らず駆け抜けてしまったことを、今ももったいなく思います。