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第15回毎月短歌連作部門 石村まい選
第4回ぶりに選者を務めさせていただきました。
連作部門の選をするのは初めてです。至らぬ点も多いかと思いますが、やさしく読んでいただけたら嬉しいです。
例によってパンの名前を冠した賞となっています。苦手なものに当たってしまった方はごめんなさい。一緒に捏ね直しましょう。
※作者名は伏せた状態で、作品のみを拝見して選をおこないました。
※敬称略で発表させていただきます。
特選 ずっしりあんぱん賞
「ぬいぐるみ引退」/onwanainu
タイトルのとおり「ぬいぐるみを引退する」テーマの連作で、まずその据え方がとても面白いと思いました。ふわふわしたぬいぐるみのイメージと、「引退」という少し硬めの言葉にギャップがある。かつ、一首一首の歌に不思議な心地良さ、ちょっぴりとした切なさがブレンドされていて、こころにすとんと入ってくる感じ。
「なくすためコインランドリーなくさないで、」の動詞の置きかたや、「ぬいぐるみを辞めるあなたの離陸がきれい」など、一読したときに、想像しようとする景と、文字とが少しずれていく感覚に魅力を感じました。
言い差しで終わる歌が多く、それぞれに景のひろがりの余地が残されているのも素敵。
月面で最も目立つハンドサインの練習してたらもう木曜日?
どんなサインなんだろう。ただ手をぶんぶん振るとか、そういうのではなさそう。「もう木曜日?」とひとりぽつん、と呟いている感じがして、ちょっとさびしさもありました。きっとあちらからは見えないってわかっているけど、でも見せてやるんだもん、という気持ちを想像しました。
(ここまで読んでわかったと思いますが、パンの名前と評はまったく関係ないです……)
並選 カリカリクイニーアマン賞
「水族館にいこう!」/宇佐田灰加
「いくいく!」と思って読みはじめたら、想像の斜め上+15°くらいを駆けあがるような展開が待っていました。
一首目の「豪雨のような思い出で」でしっとりとした雨の水族館に連れていかれ、二、三首目も詩情のある描写なのですが、あれ? だんだんと不穏な空気をまとっていくのが面白い。刺すの?
特に惹かれるのは終盤二首で、この連作の真髄はここにあるのかな、と勝手に思いました。好きだからこそ、この突っ走り感のある歌をもっと見せてほしい……という思いで、特選と迷いながらも並選にさせていただきました。
かけちがうボタンを全部もぎ取って裸で走るおもしろい夜
ボタン、かけちがってるんかい。裸で走るんかい。(流れとしては、まいばすで買ったアルミホイルを自分に巻き付けてペンギンになった後の話なのですが……わたしは何の説明をしているんでしょうか)
そりゃあ「おもしろい夜」なのですが、それをあらためて言っちゃうお茶目なところ、素敵です。
佳作 ジュワサククロワッサン賞(二個入り)
「湖面」/わくわくコチュジャン探検隊
連作全体に一貫している雰囲気、世界観がとてもうつくしいと思いました。
「星」「月」「森」といった自然のなかを漂いながら、その奥行を見せてくれる歌の数々。
二首目「ような」の重複と、全体の「ような」「ように」の比率がすこし気になりつつ、絵にしたらさぞかし流麗な世界がひろがるだろうと思います。
個人的な話をすると、わたしが「置き場」に投稿していた連作の雰囲気ととても重なるものを感じて、仲間……!?などと思ってしまいました。
月と湖底いちまいの身にうつしつつ夜の湖面がほころびたがる
湖を「いちまいの身」とし、その表裏に浮かびあがる夜の空間。「ほころびたがる」のなんともいえないあやうさに惹かれます。
「花切り」/杏
詩情・抒情にあふれた連作で、流れるようなゆったりとした韻律に惹かれました。秋の色彩を感じさせながら、ひとりの静かな時間が提示され、それを相聞歌が挟んでいるつくり。「色づいた」「ひとくちの」「黄色とも」など、一首単位で好きな歌が多かったです。
もしかしたら、全体の雰囲気により合うようなタイトルがあるかも……と思ったりもしました。
丘陵に生まれた風に身のうちを明かしはじめて止まらない舌
特に好きな歌。「止まらない舌」に含まれるおそろしさに引きこまれます。風に向かって自分のことをとめどなく明かすといううつくしいイメージと、話しているうちにコントロールが効かなくなってしまうというこわさ。
気になった一首 もちもちポンデケージョ賞(三個入り)
ベジタブルファースト咀嚼したらもう気付いてしまう月のない夜
初句からの畳みかけるようなスピード感、結句に置かれた「月のない夜」のなんともいえない不安感。生きていくためには毎日食べなければならない。その最初のひとくちも必ずやってくる。後半にかけてしぼんでいくような、緩急の付け方に惹かれました。
地球から皮と肉とを剥ぎ取ったような遊具でふたりは廻る
公園によくある、ぐるぐる回る球体のあれ(調べたら、グローブジャングルというそうです。おしゃれやな)の比喩がすさまじくて、目を奪われた一首でした。なまなましく表現されたその遊具でずっと廻りつづけるふたり。不穏ですが、その不穏さが魅力的。
ほんとうは話したいでしょ、水玉のコートの裏地みたいな秘密
「ほんとうは話したいでしょ」のフックがとても軽やかで素敵。そして「水玉のコートの裏地みたいな秘密」! 率直に、ああ好きな歌だなあと思いました。自分がもっていた春コートの裏地が黒い水玉のような模様だったのを思い出しました。秘密の比喩としてほどよい距離感のあるモチーフで、全体のリズムも心地良かったです。
以上です。ありがとうございました。
一首単位ではなく、連作として選ぶというのはかなり難しいことを痛感しました。
あくまでわたし個人の好みがドカンと反映された選となっています。ほかの選者の方々の選評もどうか楽しみにお待ちください。
たくさんのご応募をありがとうございました。