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「In The Dark」(並列)を読む

いつの話をしている……!?!?
ユニット「並列」さんのネットプリント「In The Dark」をかなり前に拝読しました。
三ヶ月くらい経ってしまって信じられない。春眠夏眠(とは?)でもしていたんじゃないかという遅れようでごめんなさい……。感想noteです。

香りをテーマにした短編、短歌、自由詩に俳句と盛りだくさん!
そして毎度のごとく、デザインがとってもおしゃれ。夜月雨さんのセンスがすばらしい……そして、どれも印象的な作品ばかりでした。

まずは短歌・俳句の融合作品から、好きだった作品を引きます。※以下、敬称略

春宵/夜月雨

死顔によく似て眠る蝶一羽

春宵/夜月雨

蝶から死顔を想起するというのがとても新鮮でした。羽をたたむと一枚のぺらぺらになってしまう蝶。もともと儚いイメージがありますが、「死顔」という強い言葉で一気に不穏感が増すという……!

影をつかんで/斎藤君

白い夜をただ耐えていたこめかみに心音だけが彫りおこされて

影をつかんで/斎藤君

体感としてとてもわかるなあと思いました。どくどく波打つ心臓の音、胸で鳴っているはずなのにこめかみのあたりに脈動がせまってくる感じ。
君さんの、身体感覚をリアルに捉えた歌のなかでも特に共感が深かったです。

つづいて短編の簡単な感想。さくっと読めるのに重量感がありました。

Phantosmia/夜月雨

タイトルの「Phantosmia」は正確には異嗅症(実際には何も臭いがないのに、嫌な臭いがする状態)を指すらしい。
この小説に出てくる「男」は、「生まれつきにおいがわからない」「においという概念のない」と表現されている。無臭の世界で生きている彼に「あたし」は好きな香水を贈りつづけて、彼もまたそれを拒まない。
相手が一生感じ取れない「におい」を主人公自身があやつり、においを含めて相手を愛するという構図にすこしぞわっとする感じがしました。嗅覚と所有、実はとても近いところにあるものなのかも……。

くる/斎藤君

どういうことだろう……と読み進めて、ラストの衝撃といったら。展開のうまさに脱帽です。
「ブエノスアイレス」という場所から始まる「それ」は、主人公・ヒロにとっていわゆる「死」の予感、というか「死」そのものであり、日に日に彼に近づいていく。そして最後の、実際の死因がクモ膜下出血という事実に、怪奇とは違う種類の怖さを感じる。
死を予期して恋人に贈った香水はふだん彼自身が使っていたもの。彼女はそれをこれからもずっとつけていくのだろうか……と気になったりもしました。


おふたりの詩もそれぞれの個性が抜群に出ていて、全体的にとても面白かったです。総じて「濃い」!!!読みごたえバッチリ。
独特の世界観が読者を包む、まさに香りがからだをまとっていくような感覚でした。
読ませていただきありがとうございました。遅れてほんとうに申し訳ないです……!


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