「おまいう」は成長を阻害する
「おまいう」と聞いて何のことか分からなかった人もいるでしょう。
あるいは「まいうー」か何かと勘違いして「成長じゃなくてダイエットの話では?」と思った人もいるかもしれません。
おまいう、と言う言葉はネットスラングの一種で、
「お前が言うな」の略です。
ネットの世界では「おまいう大賞」なるものが発表されていたり、
それを見ていると面白かったり、やれやれと思ったりするものなのですが、
「おまいう」という発想は、実は人の成長を止めてしまう可能性がある、と言う話を今日はしたいと思います。
突然私ごとを挟みますが、この度日本将棋連盟のとある支部に入れていただき、正会員となることができました。将棋自体は観るのが好きで、指すのは嫌いではないがへたっぴ、と言う私が、ちょっと将棋の話をしてみようかと。
将棋の藤井聡太七段が、4月頭にレーティング(すごく簡単に言うと強さを数値化するシステムのことです)で渡辺明三冠を抜き去り、トップに立ちました。
今や藤井聡太の話題はネットでもこまめに登場するので敢えて紹介する必要はないと思いますが、藤井七段が小4で杉本昌隆八段に入門した時、最初の指導対局でいきなり師匠を負かしてしまったのだそうです。もちろん指導対局なので師匠側は手加減はするはずですが、それでも杉本八段は「あれは完敗といっていい内容だった」と述懐していました。
そういう意味では、藤井七段にとっての杉本八段は、対局相手という意味では最初から互角に近いレベルにあったことになります。
…しかし、それでも杉本八段は師匠の役割をずっと全うしているし、藤井七段もしっかり教えを受け止めている。
実はこれは人材育成にとってとても大事なヒントを隠しているのではないかと思います(昨日書いた一人前の話とも似ています)。
すなわち、
人に教えを請いたければ「お前が言うな」と思ってはいけない。
人に教えるときは、「自分なんかが言えた義理じゃない」と思ってはいけない。
藤井七段が少年時代に杉本先生に勝った時「やった、ぼくはプロより強いんだ~」と有頂天になって、以後師匠の言うことを一切聞かなかったとして、彼はここまでの戦績を残せたかというと、たぶん無理でしょう。
逆に、杉本八段が最初に藤井少年に敗れたとき「こいつは僕には教えられない」と思ってしまったとしても、やはり同じことだろと思います。
名選手は名コーチにあらず、という言葉がスポーツ界にもありますが、プレイヤーとしてのレベルと、コーチとしての人を育てるレベルは全くの別物です。そして何より、色々な人からの教えを素直に受け止める姿勢がないと、どんな名コーチがいてもそれは無用の長物になってしまう。
立場を変えて、人を育てる側に立つときも、自分ができないことを棚に上げて「お前も出来るようになれ」ということは、大いにあり得ることでしょう。
ウサイン=ボルトにもコーチはいたはずですが、その人はまず間違いなく彼ほどは速く走れなかったわけです。羽生結弦にも名コーチがいましたが、彼の体形を見る限り、彼は3回転ジャンプすら跳べなさそうですよね。
それが、ビジネスの場面などになると「お前が言うな」と思わず言い返したくなったり、「お前が言うな」って言われるのが怖くて苦言を呈しにくくなったりしていく。これは非常にもったいないことです。
「おまいう」は成長の妨げ。
藤井七段はこれからも謙虚に強くなり続けるでしょう…自分も少しは上達できるようにたまには指してみようかしら。