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全国大学ビブリオバトルに参加して

今年も「全国大学ビブリオバトル」の開催が決まった。
10回目の記念大会となる今年は、東京で決勝戦が行われる。
半年かけて全国で予選を行い、勝ち抜いた学生が東京に集結するのだ。

そもそもビブリオバトルとは


立命館大学情報理工学部の谷口忠大教授考案の、「書評合戦」である。参加者が面白いと思った本を持って集まり、順番に5分間で本を紹介する。それぞれの紹介の後は、ディスカッションタイムと呼ばれる質疑応答の時間がある。全員が発表を終えたら、「一番読みたくなった本」に一人一票で投票し、「チャンプ本」を決めるというもの。

キャッチコピーは「人を通じて本を知る、本を通じて人を知る」。実際、ビブリオバトルを観戦すれば、まだ読んだことの無い本と出合うことが出来る。

数年前まで全くその存在を知らなかったが、今となっては自分を語るうえで欠かせないものとなっているビブリオバトル。今日はその思い出を書いていこうと思う。

学内予選

私がビブリオバトルの存在を知ったのは、2015年の秋だった。当時私は大学4年生で、毎日卒業研究に取り組んでいた。ある日、大学の図書館からメールが届いた。それはおそらく全学生に一斉送信されたものだったと思う。詳細な内容は覚えていないが、そのメールで知ったのは次の4つの情報だ。

1.ビブリオバトルというものがある
2.大学生によるビブリオバトルの大会がある
3.大会自体は今までもあったけど、今年からうちの大学でも予選を行う
4.出場者募集中

そのメールを読み、本好きだった私はすぐに図書館に行き出場を決めた。好きな本について人前で語れる、素晴らしいイベントだと思った。

ビブリオバトルは未経験だったが、本選びが重要なのはなんとなくわかる。悩んだ結果、高野秀行さんの「世にも奇妙なマラソン大会」を紹介することに決めた。

この本は、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」をモットーとしているノンフィクション作家の高野秀行さんが、興味本位でサハラ砂漠で開催されるマラソン大会に参加するという内容。表題作の他にも、普通の人が体験しないようなことがたくさん書かれており、参加者の興味を惹くには充分な内容だと思った。

ビブリオバトルを何度も経験した今では、「こういった本は票を集めにくい」といった攻略法のようなものがある程度分かってきたが、初挑戦となる当時は無策だった。ただただ、多くの人に読んで欲しい本を選んだ。

学内予選当日。ここを勝てば広島や山口の大学の代表者が集まる地区決戦に進むことが出来る。当時の心境はほとんど覚えていないが、やるからには勝ちたいと思っていたに違いない。話す構成を考え、練習を重ねたことは覚えている。

自分の番が回ってきた。今思うと、落ち着いて発表出来ていた気がする。制限時間は5分だが、過ぎるのはもちろん余らせてもいけない。難しい課題だったが、話しながらうまく調整して、5分を使い切れた。その後の出場者の発表は、肩の力を抜いて見ることが出来た。他の参加者もおそらくビブリオバトル初挑戦だったと思うが、見事に発表をこなしていた。

全ての工程が終わり、投票結果が出た。私の本がチャンプ本に選ばれた。ビブリオバトル初出場にして初めての勝利だった。こうして、地区決戦行きの切符を手にしたのだった。

地区決戦

次は広島や山口から集まった代表者が参加する地区決戦だ。一度チャンプ本に選ばれた者たちが集まるので、レベルは一気に上がる。

決まりとして、紹介する本は学内予選と変えても良いことになっている。他の出場者はどうしてるのかわからないが、私は変えようと思った。他に紹介したい本が山ほどあったからだ。地区決戦の本は、宮田珠己さんの「ときどき意味もなくずんずん歩く」に決めた。

旅行記を中心に書いているエッセイストの宮田珠己さんは、私が大学に入ってすぐの時に出会った作家さんだ。旅行先での出来事を、脱力感溢れる独自の文章でつづる宮田さんの面白さをどうにか伝えたかった。

宮田さんの本は何冊も所持していたが、この本に決めたのは理由がある。宮田さんのエッセイは、旅に関するものと、日常に関するものの二種類が存在する。そのどちらも楽しめるのがこの本だったので、宮田さんを知らないという方も楽しめると思い、紹介することにした。

出場者は9人。その中でチャンプ本と準チャンプ本、つまり1位と2位に選ばれたら、本戦へと進むことが出来る。自分の発表順は5番手。他の参加者が小説や自己啓発本を紹介していく。自分の番が回ってきた。思っていたことはすべて話せたと思う。中でも宮田さんがジェットコースター評論家としてテレビに出た際、乗ったことが無いマシンについて饒舌に話したエピソードは笑いが起きていた(はず)。

ディスカッションタイムに移る。なんとそこで宮田さんと知り合いだという人が現れた。私はかなり驚いた。まだ結果は出ていないが、この本を紹介して良かったと思った。

結果が出た。具体的な投票数は公表されないが、「平家物語」を紹介した学生と同じ得票数だということらしい。この時点で本戦進出は確定だが、この場合は公式ルールに乗っ取り、司会者がどちらかに票を入れてチャンプ本を決める。結果として、司会者は私の紹介した本に票を投じ、「ときどき意味もなくずんずん歩く」はチャンプ本となった。

その時の心境としては、なかなか実感がわかなかった。選ばれた後のインタビューでも、終始気の抜けたことしか言ってなかった気がする。

本戦

そして迎えた本戦の日。私は新幹線で東京に向かっていた。会場となるのは読売新聞ビル。そこに全国各地で行われた地区決戦を勝ち抜いた30人の学生が集結する。

30人を1ブロック6人の5ブロックに分け、ビル内の会議室で準決勝を同時に行う。勝ち抜いた5人が、ホールで行われる決勝に進む。そこで勝てばグランドチャンプ本の称号が与えられる。

受付で交通費を受け取ったり、自分のブロックを確認しているうちに、続々と出場者が集まってきた。各々の過ごし方をしているが、中には壁に向かって練習している者もいた。「こういった人が通るんだろうなあ」とその光景を見ながら思った。

ホールでの開会式を終え、会議室に案内される。ここで勝てばさっき見た大きな会場での決勝に進める。今考えたら少し気負っていたような気がするが、当時は気付かなかった。同じブロックには、先ほど壁に向かって練習していた学生がいた。

準決勝と決勝は同じ本を紹介する決まりだが、地区決戦の本と変えることは可能だった。私はここでも本を変えた。宮田珠己さんの「日本全国津々うりゃうりゃ」を紹介することにした。

この本は、私が宮田珠己さんにハマるきっかけとなった作品だ。国内の様々なスポットを巡り、そこでの出来事をユーモアを交えて書いている。宮田さんの文章にはいい意味で無駄な部分が多く、そのあたりも説明出来たらなと思っていた。

緊張していたが、いざ語り始めるとリラックス出来た。宮田さんの文章の魅力は、言葉ではなかなか伝えられないが、とにかく夢中になって喋った。

結果的には、チャンプ本は辻村深月さんの小説「凍りのくじら」に決まった。私も面白そうだと思った内容だったので、納得の結果だった。負けてしまったが、私の本にもいくつか票が集まっていたので、多少は宮田さんの魅力が伝わったかなと思った。

その後の決勝戦は特にハイレベルだった。上手い発表をベースに、本の魅力も伝え、自分の個性も入れる。そんなことをやってのける5人による熾烈な戦いが繰り広げられていた。根底にあるのは「自分が面白いと思った本を知ってもらいたい」という熱い思いだ。楽しそうに喋る者も、演劇っぽく喋る者も、それが伝わってくる。

グランドチャンプ本は、野田秀樹さんが書かれた「僕が20世紀と暮らしていた頃」に決まった。発表時には言わなかったが、2015年の時点で絶版になっていたらしい。

閉会式の後は、出場者による交流会があった。「飲み物とか軽食とかあるのかな」と思い、別室に案内されると、本格的なビュッフェが用意してあったので心底驚いた。

本番を終えて

数日後、ビブリオバトルのホームページを確認してみると、全国参加者が914人いることがわかった。自分は914人のうちの30人なんだと嬉しくなった。本当は、914分の5、なんだったら914分の1になりたかったけど。

全国大学ビブリオバトルの参加者は年々増えており、規模も大きくなっている。参加のハードルは高いかもしれないが、得られるものも大きい。好きな本について語る喜びを、是非味わってみて欲しい。

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