荻窪は優しくない
その人を待つのは決まって荻窪だった。TSUTAYAで、ケンタッキーで、西友で、駅のパン屋で待っていた。記憶の中の荻窪が雨ばかりなのは確か、台風の季節だったからだ。
現れてごめんと言う人は、いつもなぜか少し怒ったような顔をしていた。申し訳なさで居心地が悪いんだろうとわかっていたから、何も言わなかったし、それが優しさだと思っていた。一つの傘を分け合いふたりともバケツをかぶったように濡れた。いつも私より濡れていたのは、その人の優しさだと思っていた。
台風が去った頃、その人は謝らなくなっていた。TSUTAYAで、ケンタッキーで、西友で、駅のパン屋で待つ私は、やっぱり何も言えなかった。
優しくなんてない、向き合うのが怖かっただけだと、誰かが教えてくれるはずもなく、記憶の中のあの娘は今日も荻窪で待っている。