環七通りの自意識
環七通り沿いのアパートに4年間住んでいた。通りをつたって、高円寺まで徒歩20分。ぎりぎり「最寄り駅は高円寺です」でいけるだろうと思ったが、自意識が邪魔をして人に口外したことはなかった。
高円寺に暮らしてるなんて、おしゃれすぎる。世の中には「高円寺に住んでます」と言うために高円寺に引っ越す人もいるという。
こわい、と思う。いや、しかしその人たちの自意識はきっと普通なのだ。他者から見られたい自分を実現するのは何もおかしなことではない。むしろ正常な証拠だ。こういう風にみられたい自分をみられているということに臆する自意識が異常なだけで。
環七通りは視覚的に散歩に適した道ではない。店も川も街もなく、ひたすら大きなトラックと並走する。環七通りを歩くのは決まって夜で、だいたい一人だった。
隣を走るトラックの音がゴンゴン、ワンワン鳴る。なんとなく、これならばれないだろうと思って、鼻歌を歌う。ゴンゴン、ワンワン。大丈夫、ばれていない。調子に乗って口を使い、気がつくと結構大きめの声で歌っている。
ハッとする。
環七通りが私の自意識の捨て場所なのかもしれない。