野猿街道にある緑色
「トレーはご利用になりますか?」
夜の野猿街道は明るい。ドライブスルーも繁盛の外資系大手カフェは、夜9時でも席が埋まっていた。店員が着る緑色のエプロンは、八王子のはずれにあるこの田舎町には少し明るすぎる気がする。店員は、ごゆっくりお過ごしくださいと自信満々の笑顔でトレーを差し出した。
「おいしい?」
なんども訪れているカフェ。なんども飲んでいるフラペチーノ。けれど目の前の人は必ず聞く。
「ふつう」
「普通って?」
そうたずねつつ、ペンやノートや、タブレットや携帯を眺める視線は、一向に上を向かない。氷をかき混ぜながらその人の眼鏡のふちをじっと見ていると、レンズが少し曇っていることに気がついた。眼鏡にも冬が来ているのか。
「やっぱり、ホットにすればよかったかも」
甘い氷がつるりと喉を通る。視界の端で緑色がチカチカ光った。