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居場所は見つけるものでなく作るもの

育成のビジョン

ひたすら心配をしていた。

2017年から森山恵佑氏(現・球団職員)のファンになり、2016年のドラフト同期たちはみんな好きになった。堀投手、石井選手、高山投手、郡選手、玉井投手、今井選手。
すでに一軍で活躍している堀投手、石井選手、玉井投手はもとより、二軍でもがき続ける高卒3人を母親のような気持ちでずっと見つめている。

もともと郡選手は捕手としての能力よりも、俊足、強肩という一芸を買われた選手である。
帝京高校時代も捕手一筋だった石川亮選手とは違い、外野、内野、投手などをやって2年生から捕手にコンバートされたくらいだから、何をやらせても上手くできる運動能力と器用さを兼ね備えた選手なのだろう。

だから2018年秋頃に野手に挑戦という話を聞いて、足を生かすためには捕手以外でも出場機会を増やす必要があるんだろうな、とは思っていた。2018年のフェニックスリーグで初めてプロでライトを守り、2019年にはセカンドにも挑戦するということになった。外野にしろセカンドにしろ高校時代にも経験があるということだから全く畑違いのところに挑戦というわけでもない。

2019年秋のフェニックスリーグでセカンドスタメン出場を果たした郡選手は、翌年もキャッチャー、セカンドだけではなくサードにも挑戦した。
2020年シーズンのファームでは捕手として出場したのが18試合、セカンドが16試合、サードが15試合。どこかのポジションに固定するのではなく、ユーティリティプレイヤーの道を歩き出したのかと思った。

しかし、ファームでの活躍を見込まれて一軍に昇格したはずの郡選手は「第3捕手」としてベンチを温めることになった。
そこで私の気持ちは冒頭に戻る。

自分の居場所を作るために

2016年のドラフト7位で郡選手がファイターズ入りして以降、18年のドラフトでは田宮裕涼選手、19年は梅林優貴選手、20年は古川裕大選手と、毎年捕手をドラフトで獲得している。しかも古川選手は郡選手と同い年だ。

郡選手の魅力は足だと思っている。ただ、俊足捕手の田宮選手であったり、育成の宮田選手、そして今年のルーキー五十幡選手と足を売りにする選手が次々と入団してきてその輝きは目立たなくなってきた。捕手としてもどんどんライバルが増えていく。
じゃぁ自分は何で勝負するのか。と考えたらやはり「ユーティリティ」だったのだろう。

しかし捕手というポジションもそのままというのは大丈夫なのだろうか、ということをずっと思っていた。捕手というポジションにかかる負担は大きい。ヤクルトの村上選手やオリックスの頓宮選手も捕手ではなく内野手としてプロの指名を受けている(その後頓宮選手は捕手に戻ったが)し、例えばソフトバンクの栗原選手のように、外野との併用であればまだわかる。
セカンドあるいはサードともなるとその守備練習だけでも時間をかけなければならないのに、そこに加えて全く毛色の違う捕手練習も加わる。

「捕手」を切り捨てて別のポジションで勝負した方がいいのではないか。あるいは捕手に専念して捕手としての技術を磨く方が「捕手」としての出場機会を得られるのではないか。私はそう考えていた。
しかし彼はプロとして生き残るため、試合に出るために、捕手も含めたユーティリティプレイヤーとしての厳しい道を進み始めた。

今年1月。郡選手は清宮選手や野村選手と共に杉谷拳士選手の元で自主トレを開始した。
それを知った時、個人的にはなぜここに郡選手が入っているのだろうと疑問だったのだが(杉谷選手とは帝京の先輩後輩の仲ではあるけれど)、今になって思うと「ユーティリティプレイヤー」としての弟子入りだったのかもしれない。

2021年シーズンもファームでのスタートとなり、捕手よりも他のポジションでの出場が多くなっていたが、今年にかける意気込みが伝わってきた。
打席での粘り、積極的な走塁。長打も出ていてバッティングの調子もいい。
そして巡ってきた一軍昇格のチャンス。今回はその直前に杉谷選手が抹消されていたこともあり、第3捕手としての昇格ではなくユーティリティプレイヤーとしての昇格だと感じた。ここで何かの爪痕を残せれば、もう30歳を超えた杉谷選手の次世代のユーティリティとして居場所を作ることができるはずだ。

そしてそのチャンスを彼はしっかりとものにした。
代打で出されてもきっちりヒットを打ち、勝負強さを印象付けると、野村選手や樋口選手の怪我で空いてしまったサードのポジションにすっぽりと入った。
また、積極的な走塁も光る。盗塁こそまだ少ないものの、ギリギリのタイミングでも一つでも先の塁へ行こうとする姿勢が見える。
例えば4月24日の札幌ドームでのオリックス戦。3回裏にタイムリーヒットを放つと、その次の渡邉選手のツーベースで一塁からホームまで帰ってきた。郡選手の俊足と思い切りの良さと「執念」の光る走塁だった。

守備でも本職のサードに引けを取らない好守を見せ、捕手に代打が出されたら、サードから捕手になったりもする。
外国人選手がやっと試合に出れるようになり、郡の出番も少なくなってしまうかと思ったが、なかなか調子の上がらないロドリゲス選手を尻目にサードでのスタメン出場を続けている。
試合終盤のチャンスの場面でも代打を出されることなく打席に立てるのは、指揮官からの信頼の証だ。

争いはさらに過酷に

去年の6月、こんなツイートをした

まさか、西川選手が残っているのに郡選手が一番を打っているなんて。当時の私には想像もつかなかった未来だ。
今後、ロドリゲス選手の打撃の状態や、樋口選手の復帰、野村選手の復帰などでサードでのスタメンは激減するかもしれない。
彼自身「捕手を諦めたわけではない」と語っているが、捕手も含めてどこでも守れるというのは大きな強みだ。
渡邉選手が不調であればセカンドにも入れる。
捕手の代打で出てそのまま守りにつける。
誰の代走で出てもそのまま守備に入れる。
ここにきてユーティリティプレイヤーとしての強みが生きてきた。

しかし、ファームで絶好調の杉谷先輩が、郡選手からその座を奪い取ろうとして爪を研いでいる。
気が抜けない戦いが今後も続く。

あとは怪我に気をつけて。お母さん目線ではそこが一番心配です。

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