エスコンフィールドのフィールドに立った日①
札幌ドームの頃から私にはやりたかったことがあった。
それは「キッズスターター」に息子や娘を送り出すこと。
ホームの試合の初回、スターティングメンバーがちびっこを伴って守備位置につくあの「ちびっこ」が「キッズスターター」で、小学生以下の子供しか応募できない。
試合前のほんのひと時、ファイターズの選手とお話できる夢のようなイベントだ。できることなら私が出たい。
ホームの試合だからといって毎回募集があるわけでもなく、土日の試合はおそらく競争率が高く、息子(現在高校生)が小学生の時には一度も当選しなかった。
娘も保育園の頃から応募したかったのだが極度の人見知りで1人で参加することが難しく、小学生になってやっと「やってみたい」と言い始めた時にコロナで「キッズスターター」どころか無観客試合にまでなった。観客が入るようになっても選手との接触を避けるため、キッズスターターを含む試合前のファンイベントが無くなった。
娘が小学5年生になって、エスコンフィールドに本拠地を移した今年、やっとキッズスターターが復活した。
もちろん応募しまくって、某月某日の試合に運良く当選。
(ちなみにメールは試合前日に来た)
実はこの試合の日の午前中、娘は札幌市内で開催されるマラソン大会に参加することが決まっていたのでギリギリまでチケットは取らず、当選メールが来てからチケットを取った(当選しなければ行かない予定だった)
娘にとってはハードスケジュールな1日になりそうだが本人は「全然大丈夫!」と言い、「マラソンの後でも間に合うよね?大丈夫だよね?」と何度も確認していた。
当選が決まってから、娘は「選手と何か話してみたい」といって、誰のキッズスターターになってもいいように質問を準備した。
「好きな食べ物は?」のような汎用的な質問ではなく、例えば五十幡選手なら
「マラソンは得意ですか?(短距離は得意という前提)」
矢澤選手なら
「投げるのと打つのはどっちが好きですか?」
江越選手なら
「メガネをかけるようになって、どれくらい見えるようになりましたか?」
というように選手それぞれに合わせた質問だ。
私が考えた質問もある。
「奈良間選手って何聞けばいいと思う?」
とまだ情報の少ないルーキーへの質問に困る娘に
「奈良間選手って唇の上に傷があるんだけど、いつ怪我したのか聞いてみて」
とお願いした。
その日に一軍にいるであろう野手のほとんどに質問を用意したが、何人か用意しなかった選手もいる。
例えば野村選手には質問ではなく
「4月1日のヒーローインタビューがおもしろかったから、『今日もヒーローインタビュー見たいです!』って言う」
と要望をぶつけるスタイル。
また娘が大好きな水野選手には
「『好きです!』って言う」
と告白スタイル。
そして娘が一番大好きな細川選手には
「……質問考えてもたぶん何も言えない」
と恋する乙女スタイル。
また、外国人選手に質問は難しいので、もしアルカンタラ選手やマルティネス選手のキッズスターターになったらサインボールをもらった時にお礼を言えるようにと母国語を調べた。偶然にもドミニカ(アルカンタラ)もキューバ(マルティネス)も公用語はスペイン語だったので、「グラシアス」を何度も何度も練習した。一日中、家の中で私と娘は何かあるたび「ありがとう」ではなく「グラシアス!」と言い合った。
「リモコン取って」
「はい」
「グラシアス!」
とか
「ねぇママ、どっちの服がいい?」
「こっち」
「グラシアス!」
というように。
前日の夜、娘は興奮してなかなか寝付けないようだったが、私もなかなか眠れなかった。
明日、娘は誰のキッズスターターをやるのだろうか。
(②に続く)
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