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ケーキ屋のシェフが考える、小さなお店の続け方/パティスリー・レヴェイユドゥラムール 亘 弘晃
本記事は、2022年10月7日にwebメディアYeastに投稿されたものです。現在と取材当時の状況は変わっている可能性がありますので、あらかじめご了承ください。
なお、店舗情報についてはnote掲載時点での情報になります。
東広島で暮らし始めて、3年が経ちました。
朝は家族の声ではなく目覚ましの音で起きるようになり
家電が壊れたら自分で業者さんを呼ぶようになり
1日3食のご飯も作るようになりました。
できるようになったことが多い中で、まだまだ慣れないことがあります。
それは、誰かのために、ケーキ屋さんにケーキを買いに行くということ。
家族と暮らしていた時も一人暮らしをする今も
特別な日のそばに添えたくなるのは、甘くてきらきらしたケーキです。
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ここは、パティスリー・レヴェイユドゥラムール。西条中央にあるまちのケーキ屋さんです。
お店の周年記念日は当ウェブメディア”Yeast”と同じ10月1日。今年で12周年を迎えました。不思議な運命を感じつつ、「ここのケーキを作っているひとのことをもっと知りたい」という気持ちで取材が始まりました。
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今ではもう噛まずに言えます
― お店の名前の由来は何ですか?
レヴェイユドゥラムールはフランス語で直訳すると「愛の芽生え」です。男女間の愛ではなく、地球や環境への愛。昔から環境問題に興味を持っていて、「地球は、このまま進んだら危ないのでは?」という疑問を感じながら生活していました。
このお店は、そういったことを意識したお菓子屋さんです。
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以前に比べると生ゴミの量が約95%減ったそうです
小さい頃の夢はもみじ饅頭屋
私は幼少期からまんじゅう屋の中で育ちました。実家は渡月堂という広島の県北で一番最初にもみじ饅頭を始めたお店だったんです。
「将来はもみじ饅頭屋さんになる」って言って、小さい頃の将来の夢の絵にはもみじ饅頭がすごく大きく描いてありました。
結局もみじ饅頭屋にはならず、4年前に渡月堂は閉店しましたが、当時使っていた機械の型だけをもらって今はもみじ饅頭風フィナンシェを作っています。
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後日ケーキを買って帰ろうとお店に立ち寄った日、「これ、取材の時に話していたお菓子です」と言って、厨房の奥から人数分のもみじ饅頭風フィナンシェを持ってきてくださいました。
見た目は広島県の銘菓もみじ饅頭そのものですが、ひとついただくと表面が少しかりっと中はしっとりふわふわで、大納言小豆が入っているという、和洋折衷の不思議な味わい。
「もみじ饅頭屋になりたい」という幼少期の夢を別の形で叶えた亘さんから、もみじ饅頭への愛を感じました。
西条でお店を開くまで
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― 名刺に載っているのは、これまでの就業先ですか?
はい。そこに書いてある職場は全部ケーキ屋さんです。書いていない職場もいくつかあります。
― モンサンクレール……。有名なケーキ屋さんですよね。
そうです。専門学生時代は長期休みに友達と東京のお菓子屋さんで食べ歩きをしていて、一番感銘を受けたのがモンサンクレールでした。専門学校の先生の「世界に通じるのは東京だよ」「一番美味しいと思ったところに入った方がいいよ」という言葉を受けて、ここに修行に入ろうと思いました。
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亘さんは東京で修行した後、パリのお菓子屋さんで半年、フランスの田舎のお菓子屋さんでも1年修行を重ねました。東広島に自身のお店を構えたのはその後のことです。
始めは大学時代の友達が多い広島の中心地でお店を開くつもりでしたが、家賃の高さや駐車場の少なさから断念しました。アルバイトをして生活していると、知り合いの方から西条の酒蔵通りにある佛蘭西屋さんで働かないかと声が掛かったんです。
パティシエの私に与えられた任務は、デザート開発、酒粕やお酒を使ったデザート、お菓子作りでした。本格的に日本酒を使ったお菓子に取り組むようになったのは、佛蘭西屋さんのおかげです。その時、日本酒以上に酒粕に強い魅力を感じました。熱を加えすぎるとすぐ焦げるとか、チョコに混ぜると結晶化が進みザラザラするとか。何度も失敗しながら、丁度良い熱の加え方、配合などを編み出すことが出来ました。
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半年ほど佛蘭西屋のパティシエとして働いた後、知り合いの方から紹介を受けたテナントに店を構えました。そこからはさらに開発を進め、現在9種類の日本酒酒粕の商品を販売するに至っています。のん太君のロゴを入れたパッケージを特注し、好みのお菓子を少量づつ選んでいただけるように工夫しています。
ホワイトサンド大吟醸
大吟醸マカロン
とろける生チョコ大吟醸
大吟醸もみじ
サクサク大吟醸
バターケーキ大吟醸
ダックワーズ大吟醸
ケーク大吟醸・大納言
大吟醸カステラ
上記の商品は全て酒粕を使用したお菓子です。
酒粕ひとつで様々な種類のお菓子を開発する亘さんから「酒粕を使ったお菓子で地域活性化につなげたい」という想いが伝わってきます。
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独特のラム酒の香りにいつも引き寄せられます
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小さなお店の続け方
― お店を経営する上で、大変なことはありますか?
合理的に、小さいお店ながらの工夫をしていくことですね。小さな店舗は工夫し続けないと、生存競争で生き残れません。いろんなひとに手伝ってもらっていますが、このお店でお菓子を作れるのは僕だけです。
この夏は週休2日にしました。お客さんが離れるかもしれないという不安もありましたが、かといって無理をし過ぎたら続きません。生活のことも考えながら、仕事量を調整しています。
― そのような日々の悩みや葛藤の中で、どのような想いでお菓子作りをされていますか?
とにかく美味しいものを作りたいと思っています。お客さんから「前食べたケーキ美味しかったからまた来たよ」「みんなが喜んでくれたからまた来たよ」と言われると、やりがいを感じます。
これからも合理的に、かといって手を抜くわけではなく、美味しいお菓子を作る。小さいお店ながらの工夫をしっかりしていこうと思います。
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パティスリー・レヴェイユドゥラムール
住所:広島県東広島市西条中央6丁目6-8プレシアス中央101
営業時間:10:00~18:30
(日曜日:~18:00)(イベント時:~19:00)
定休日:水曜日、木曜日
(クリスマス、バレンタイン等イベント時営業)
連絡先:082‐422-6616
SNS:https://www.instagram.com/lamour_saijyo/
聞き手:しおね 写真:ぐらふぃー 編集:たかな
ライターだより
次に帰省するときは酒粕を使ったお菓子を家族に買って帰ろうかなあなんて考えているうちに、一人でケーキ屋さんにケーキを買いに行くことにも慣れていました。東広島での生活をそっと支えてくれた、甘くて大好きなケーキ屋さんです。
カメラマンだより
たくさんのひとの笑顔をつくる、まちの小さなケーキ屋さん、大きな声でおいしかったよ!とおすすめしたいです。
編集だより
お菓子が入った箱を片手に歩く時の高揚感が好きです。大切な人を想いながらケーキを選ぶ時間も好きです。作り手のことを知り、ますます足を運びたくなるお店になりました。