見出し画像

放課後まほらbo第十九話 スウェーデンで始まった「小さな冒険の旅」 【第十九話】

放課後まほらboでは、「あそびは、最高の学び!」の構造化をすすめ、遊びを科学することで、なぜ子どもの「冒険遊び」が大切なのかを探究します。

【第十九話】

■北欧の野外教育 

 日本では全国一斉休校が発せられた後も、極度の緊張感の中、保育現場は社会機能を維持するために機能し続けました。そのコロナ禍にあって欧州で注目されたのが、野外保育です。スコットランド政府は、エビデンスを示した上で感染拡大防止と保育士の労務負担の軽減、保健衛生の観点から野外保育の積極的導入をすすめていました。
参照資料:
https://www.theguardian.com/uk-news/2020/may/10/scotland-eyes-outdoor-learning-as-model-for-reopening-of-schools?CMP=Share_AndroidApp_News_Feed&fbclid=IwAR3Z6kAdVYR4klpXvVYOO9tC8J_GcAcvbjcyzeAOMxwurvVLd5Y82jXACuM

 日本では、保育園の認可基準一人当たり1.65㎡でのソーシャルディスタンスの確保は難しい上に、遊具や玩具など多くの教材や教室、廊下、トイレの消毒に大変な労力が割かれていました。そのため、利用できる定員が大幅削減され、結果、経済活動は大きな制約を受け、親子の精神衛生にもよくない状況が続いたと思っています。日本では「ステイホーム!」は言われても「安全に野外で遊べ!」とは、誰も口にしませんでした。
 野外保育はデンマークが発祥だといわれています。北欧に広がり、ドイツにわたり多様な展開をしたのですが、特にスウェーデンでブラシュアップされた野外保育の根底には民主主義教育の観点があげられています。自然との共生、野外生活スタイルは、幼少期から民主主義の基本を学ぶ場として選ばれているのです。

■スウェーデンの小さな冒険の旅

 スウェーデン野外生活協会は、コロナ禍で自宅待機を余儀なくされる子どもとその家族に対して30日間のプログラム「ムッレチャレンジ30」を提案しました。ムッレとは野外教育プログラムに登場する土の妖精の名前です。庭や近くの公園、街路樹でもできる自然と触れ合うアクティビティを、屋外版30種類と屋内版30種類選びインターネットで提案したのです。実はスウェーデンは幼稚園、小学校・中学校を休校させていません。その影響の大きさを考慮して極めて慎重に運営していたのです。それは少しでも熱が出たり、咳が出たりという風邪の症状があれば帰宅させるという条件付きだったそうです。そんな中での「ムッレチャレンジ30」は、家にこもりがちな家族の健康を守るためのプロジェクトでした。特に子どもの日常は、新しい知識や出来事との出会いの連続であり、公園や庭で遊ぶなどして、自然と触れ合うことがそれを支えるという考え方があるからでした。コロナ禍は、その機会を奪っている状態なのです。先の野外保育の底流にある、民主主義教育の根幹が脅かされる状態になっていたとも言えます。国を挙げて守るべきは、家族であり民主主義だということなのでしょう。子どもたちは、日常の自然遊びの中の「小さな冒険」を通して成長するという考え方が共有されていると聞き、日本の現状について考えさせられました。私たちは、今、コロナから何を守り、何を大切にしなくてはいけないのでしょうか。これを知ったあとに、日本で耳にする「命を守る、ステイホーム」が、とても空虚に聞こえたものでした。

■野外教育は、社会の基礎を育む

 「小さな冒険の旅」には、民主主義教育の基本が含まれているという意味を考えた時に、北欧と日本の違いよりも、共通点が浮かんだのも確かです。日本で生まれた里山主義や民本主義、五日市憲法も、東京や大阪の大都市からではなく、田舎発祥というのも自然と関係があるのかもしれません。私たちホモ・サピエンスが現れたのが10万年前としたら、多く見積もって産業革命以降200年くらい都市化にさらされたとしても、9万9千8百年は自然と共に生きてきたわけで、実にそれは99.8%が自然の中で暮らしてきた身体をもっていることになるでしょう。現代のデジタル化や都市化のスピードに順応するためにも、99.8%過ごしてきた自然との関係を改めて意識しなくては、色んなところに変調を起こすことになっても不思議ではないでしょう。
 スウェーデンの調査では、野外保育で育った子どもたちは、病気にかかりにくく、集中力が高く、運動能力・機能が高くなり、ストレスが少ない、という結果が報告されています。スコットランドの記事でも、私たちが学ぶべきものは全て野外教育の中で育まれるものだと指摘されています。99.8%の間、私たちが進化の過程で得たものほぼ全てとも言えます。そうして学んできた場なのですから当然かもしれません。このデジタルを基盤にした資本主義社会への移行は、民主主義の岐路だとドイツの哲学者マルクス・ガブリエルは指摘しています。彼は「自然との関係」を捉えなおすことが、私たちの新たな世界のヒントになるかもしれないと言っています。他者を思い遣る、新しい道徳を基本にした資本主義が、功利主義を基本に発展してきた私たちの社会を変える可能性を予言しているのです。そのような世界を創造する力は、いったいどこで育つというのでしょうか。どう考えてもゲームの中やコンクリートの校舎の中で育まれるとは想像しにくいのは、私だけではないと思います。

 くり返しになりますが、感染症と共に生きるこれからの私たち大人に必要なのは、子どもたちが日々体験する「小さな冒険」を推奨し、肯定する価値観を持つことなのです。
 放課後まほらboでは、冒険遊びを安全に楽しめる冒険教室プログラムを準備していますし、知的探究を基本にした学びの冒険プログラムを大切にしています。
 次回は、日本の「地域で学ぶ」仕組み、について紹介したいと思います。

では。

(みやけ もとゆき/もっちゃん)