君は酒を作るときに喋るか?
今日では、酒を作っている間は一切喋らないというバーテンダーは少数派だ。
大多数のバーテンダーは、器用に酒を作りながらも少しずつ、お客さんと話すだろう。
少し注意深く観察してみると、その中にもさまざまなスタイルがあることがわかる。
酒を作っている間は、お客さんに話しかけられたときは応じるけれども、自分からは話しかけない者、話の続きであればそのままその話をする者、そのお客さんから話しかけられれば応ずる者、そして、そんなこと言ってたらいつまでたっても話せないので、酒を作りながらも委細気にせず闊達にしゃべる者。
実にさまざまな者がいるけれども、日によってスタイルを変えるという者はほぼいない。たぶん皆、色々考えてこれがベストだというスタイルを決めているということなのだろう。
それでは、これらのスタイルの中に正解はあるのだろうか?
もちろん正解などないのだが、重要なことは、自分の中にいくつかの選択肢を持っておいて、その日の気分に合ったスタイルの店を訪れるべきだということだ。
たとえば、今日は話もしながら楽しくやりたいという気分のときには、酒を作りながらでも、委細を気にせず闊達に会話するスタイルのバーに行けばいい。このタイプのバーテンダーは、往々にしてしゃべりにも自信がある者も多いだろうから、きっと楽しい夜を過ごせるだろう。
一方で、今日は話をするだけじゃなく、バーテンダーが俺のこの一杯のために100%集中したぞという一杯を飲みたい夜だってあるだろう。もちろん、習熟したバーテンダーであれば、多少おしゃべりをした程度では指先の動きは変わらない。だから、実際に味わいが変わるということはないのかもしれないが、精神論として、俺のためだけに、贅沢に100%の時間と集中力を奮った一杯が飲みたいという日だってある。そう、おじさんにも、格好をつけたい夜はあるのだ。そういう気分の日には、酒を作っている間は話さないスタイルに近いバーテンダーのところへ行けばいい。
重ねて言うが、上記のスタイルには正解も価値の差も一切ないので、楽しむコツは、その日の気分に合ったスタイルのバーを選択することだ。店のスタイルを自分の気分に合わせて捻じ曲げるようなことをしてはならない(他のお客さんもおそらくその店のスタイルを期待してきている)し、その日の自分の気分に合わないスタイルの店に入り、金と健康を犠牲にして冴えない思いをすることもない。バーのスタイルは星の数ほどあるのだから。
そんな話。
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