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【読み切り短編】アイスと溶けた私のリーチ

陽菜は、コンビニで買った抹茶アイスを手に、リビングのソファに沈み込んだ。バイトが終わり、明日は休み。お風呂は後回しでいい。今は少し麻雀をして頭をリセットしよう。

オンライン麻雀「雀魂」にログインすると、彩夏と健太がすでに待機していた。ディスコードの通話画面も開き、いつもの雑談が始まる。

「今日もお疲れ様、陽菜。バイトどうだった?」健太が軽く尋ねてくる。

「まあまあ。でも足パンパン」と、陽菜は笑いながら答える。

「バイト終わりに麻雀とか、もはや麻雀愛だよね」と彩夏が茶化す。

「いや、これはもう癒し。むしろ仕事の後にやらなきゃ落ち着かない」と陽菜はリラックスした声で返す。

ゲームがスタートし、手牌が揃う。彩夏のリーチは相変わらず早い。陽菜は、彼女が「雀魂」でいつもリーチをかけるタイミングの良さに内心感心していた。何も動じず、淡々とゲームを進めている彩夏の姿が、画面越しにでも伝わってくる。

「また彩夏リーチ?あんた早すぎ」と健太がため息混じりに言う。

「だって、このリズムが大事なんだよね」と彩夏はあっさりと言う。「今ね、脳内で米津玄師の『Lemon』流れてるから、感覚バッチリ」

「おいおい、いきなり感傷モードかよ!」健太は声を上げて笑う。「そんなんでリーチかけて、またツモるんじゃないの?」

陽菜はそんなやり取りを聞きながら、少し迷いながらも牌を切った。「大丈夫、次こそは私が勝つから」そう自分に言い聞かせる。

だが、次の瞬間。

「ツモ!」彩夏が勝ち誇った声で叫び、画面には見慣れた勝利の文字が表示される。陽菜は口元を歪めながらも、「もうこれ何回目よ」と軽く笑った。

「また彩夏かよ。マジでボスキャラすぎるって」と健太がぼやく。

陽菜は軽く肩をすくめ、「彩夏、ほんと強すぎ。私なんてずっと牌が微妙でさ」と苦笑い。

「それは気の持ちようだよ。いつだってチャンスはあるんだから」と、彩夏は真面目な声で返す。

陽菜はふとアイスに目を向けた。「ちょっとアイス食べて気分変えよ。負けたけど甘いもの食べれば元気出るっていうし」

「それは正解だね。冷凍庫にストロベリーアイスあるし、私も取りに行くわ」と彩夏が応じ、健太も「俺もアイスタイムだわ。ゲームよりアイスの方が大事だ」と笑いながら言った。

みんなで一旦ゲームを中断し、各自アイスを手に戻ってくる。陽菜は抹茶アイスを一口食べ、溶けていく冷たい甘さに少しだけ気分が晴れた。

「やっぱこれだね。次は絶対私が勝つから!」アイスを食べ終わった陽菜は、再び気合いを入れる。

「またフラグ立ててる」と彩夏が笑う。「まぁ、次はどうなるか楽しみにしてるよ」

次の局が始まり、再びみんなで笑い合いながらまったりとした時間が流れていく。勝敗のことなんてどうでもよくなってくる頃、陽菜はふと、今が心地よい時間だと気づいていた。

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