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軽率にアラスカに行った話3

この旅最大のピンチ

ほろ酔いでホテルに戻ってシャワーを浴びました。明日はゆっくり起きてダウンタウンを散策するくらいしか予定も入れてません。疲れたし寝るか!と思った時に、重大なことに気づきました。

クスリがないのです。

メンタルを病んでしまって会社を休職した訳で、ぼくはもう数ヶ月そっち系のクスリや入眠剤を服用していました。正体が分からない不安感とか、なぜかクルマを運転している時限定で襲ってくる動悸とか、そういうのが改善されてきたのは、明らかにクスリの作用でした。

そのクスリがまるっとない。

全部関空まで戻ってしまったスーツケースの中でした。

クスリがない。その事実だけで、得体のない不安が全身を掬いました。

2~3日クスリがなくても大丈夫。疲れているし入眠剤がなくても眠れる筈!そう自分に言い聞かせて、ベッドに入りました。

しかし完全にヘタレ体質のぼくは、その状況に飲まれてしまったようで、少しも眠れそうにありませんでした。ほろ酔い気分もすっかり醒めて、疲れている筈なのにまったく睡魔はやってこないのです。

こういう時は諦めるに限ります。早起きの予定もないのです。何なら明日は引き籠もっても構いません。

そうやって何とかお気楽モードに持って行こうとするのですが、自分自身を欺すってのは、他人を欺くより難しいみたいです。

高層階なのでカーテンを開け放した窓の外は、ド深夜だというのに明るいままです。

一番暗くなってこの明るさの白夜

テレビをつけるのですが、世界中どこでもだいたい映るNHKのBSも入りません。仕方なくディズニーチャンネルを眺めました。こんな時間に誰が見るんだ?って深夜早朝にアニメとか実写ドラマとかを放送しています。アニメの平易な英語は理解できますが、ドラマはほとんど聞き取れません。

そうこうしているうちに、いつのまにかウトウトし、眠ってしまいました。

断片的に悪夢を見て目が覚めたのは、二時間後くらいでした。澱のような疲労感がアタマの中にあって、脳みその位置が分かるような頭痛がしました。

起きて最初に気づいたのは、自分の口臭でした。口臭というのは少し違う気がします。喉が臭いのです。錆びた鉄というか、何かしら不快な金属臭がするのです。はぁーと息を掌に当てて嗅いでも臭わないのですが、確かに喉から金属臭がしました。

何度も何度も歯を磨いたりうがいをするのですが、不快感は一向に消えませんでした。こんな経験は初めてです。因果関係なんか分かりませんが、ぼくはすぐにクスリを飲まなかったからだと思いました。

このまま別の症状が出たらどうしようと思うと、散歩に出ようなんて気持ちにもなれません。何しにこんなとこまで来たんだよ!って後悔だけが募ります。

黒髪のムーランに号泣

空腹になったのですが部屋から出る気力もなく、ルームサービスのお高いアメリカンブレックファストを頼んで、これ日本の喫茶店なら半額以下だろうなと思いつつ、もしゃもしゃと咀嚼しました。

食べながらディズニーチャンネルを見ていると、14時からアニメ映画のムーランを放送すると繰り返しCMを流していました。

食後は持って来たノートPCで動画を見たり某掲示板を眺めていると、ランチタイムも過ぎました。過ぎましたがさすがに空腹にはなりませんでした。

14時になったので、ムーランでも見るかとテレビをつけました。CMを見る限り、主人公はいかにもアメリカ人が好きそうな黄色人種顔でした。こういう絵柄が好きではなかったのですが、妙に気になって見る気になったのです。

昔々のある日、中原侵略を目論む北方騎馬民族、フン族が侵攻してきたため、国中に各家男子一人の徴兵令が下った。これによりファ(花)家も男子一人を軍に入隊させなければならないが、ファ家の男性は高齢で足の悪い父のファ・ズーしかいなかった。親想いの一人娘・ムーランはそんな父に代わり、大事な髪を切り落として男装し従軍する。訓練で失敗も多く、仲間たちの意地悪もあったが、努力によって力をつけ、周囲の仲間たちもムーランに一目置くようになる。行軍を続ける中、ムーランは司令官シャン隊長に淡い憧れを抱くようになる。

しかし、シャン隊長の父リー将軍が率いていた別働隊がフン族によって全滅したことで、事態は風雲急を告げる。フン族に雪山で襲撃された軍は、ムーランの奇策によって勝利を収めるが、交戦中に負傷したムーランは気を失い、手当てを受ける間に女であることが発覚してしまう。軍規違反だとして処刑を迫る文官に対し、シャン隊長は彼女に「追放」を言い渡し、命を救う。

傷心のムーランは故郷へ帰ることを余儀なくされるが、その途中、シャン・ユー率いるフン族の残党が都に向かったことを知り、馬を走らせ皇都へ急ぐ。その頃、都と王宮は勝利の祝宴に酔っていたが、そこへ潜伏していたフン族が急襲、皇帝を捕らえて王宮を制圧してしまう。この緊急事態に、ムーランはシャン隊長や戦友たちとともに、皇帝奪還作戦を行う。作戦は見事に成功し、フン族の首領との凄絶な一騎討ちも、ムーランが制した。真相を知った皇帝は、女性でありながら勇敢に戦ったムーランを公正に褒め称え、累代の秘宝を下賜する。

こうして、大功を挙げたムーランは帰郷、父に誇りと愛情をもって迎え入れられる。そしてシャン隊長も彼女に想いを寄せ、木蘭の花咲く庭に訪ねてくる。

Wikipedia

そもそもディズニー映画に興味はなく「ファインディング・ニモ」と「Mr.インクレディブル」くらいしか見たことのないぼくです。ムーランが登場する場面のミュージカル調な演出も「いかにも」って感じがして、あまり期待はしていませんでした。

しかし徐々に作品に引き込まれ、最後には号泣しちゃったのです。ムーランの強さ、真摯さに心打たれたのはもちろんですが、何よりも黒髪の少女に、アジア人としての親近感を抱いたのかもしれません。

世界の果てと形容してもあながち誇張でもない街で見た二次元の黒髪少女。ぼくは彼女の虜になりました。

エンドロールを見終わったあと、喉の異臭はありましたが、陰鬱な気持ちは消えていました。泣いてさっぱりしたのかもしれません。帰国したらブルーレイを買おうと思いました。

作品の余韻に浸るぼくですが、衝撃の展開が待っていました。終わったと思った数分後、まったく同じ映画がまた始まったのです。さすがに二回連続で見るメンタルもフィジカルもないわ!とテレビを消して、シャワーを浴びてから早めの夕食を取るために部屋を出たのでした。

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