『情熱大陸』和牛編の個人的な話②
3月に放送され、9月にDVD化する『情熱大陸』和牛編は2か月半の密着取材を行った。そんなつもりはなかったが、結果的にこの密着から特番が2つ生まれた。
1つ目は5月に放送した『里帰り代行します!』。なかなか故郷に帰れない芸能人に代わり、地元の家族や親友が行きつけの店をリポートする…という番組。これは密着取材の中で川西くんの親友が営むドーナツ屋さんや、水田くんが働いていた洋食店を訪ねたことがヒントになった。
昔のエピソードをタレント本人が語るのではなく、友人や恩師が語ることで生まれるリアリティと、それを聞いて恥ずかしいやら嬉しいやらの表情を浮かべる本人。”旅番組”としてスタートした『里帰り代行します!』は、あの取材がヒントとなり、企画の骨子が出来上がった。
2つ目は6月に放送した『100回やったら会いましょう!』。同じことを何度も繰り返すと、新たに見える世界があるのでは?という番組。和牛に密着していた2カ月半、僕は何度も舞台袖から2人のネタを撮影した。1日で同じネタはほぼやらない2人だが、何日も通えば同じネタを何度も撮影することになる。
何度目かのネタを撮影している時、頭の中で”和牛の漫才”の理解度が一気に深まったような感覚になった。アドリブの入り方、間のつなぎ方、ネタとネタとの分岐点…ネタという生ものに向き合う2人の感覚が少しだけ理解できた気がしたのだ。企画会議でそのことを話したことがきっかけで生まれたのが『100回やったら会いましょう!』だった。
同じ仕事を長く続けていると、自分の能力の限界を知るようになってくる。僕が突飛なアイデアが出てくるタイプでないことはずいぶん前に認識していて、突飛なアイデアは僕より頭の切れる構成作家さんに任せることにしている(堂々と言うことでもないが)。僕の仕事はそのアイデアを突き刺す種を提示することと、育った芽をきちんと商品化すること…と思っている。
昔はテレビや映画を「これは何かの種になるかも」と思って観ていたが、もうやめた。B'zのライブBlu-rayを何度も観ている自分に「この時間にNetflixで話題のドラマ観た方がいいんじゃないの?」と思うのもやめた。B'zのライブ映像を繰り返し観たことで、Netflixのドラマを観ている人には思いつかない種を手にするかもしれない。そう思うようになった。(何の種も手にしない可能性ももちろんあるが)
「打算的な生き方は向いてない」とわかるのに、時間がかかってしまったと思う。前にも書いたが、番組をヒットさせるために生きるのは僕には合っていない。時間はかかったが、今は割とすっきりとした生き方ができていると思う。目の前のことにちゃんと向き合っていたら自然に種は転がってくる…そういう自分の考え方をより信じられるようになった今回の密着だった。
※ちなみに『100回やったら会いましょう!』は7月26日までTVerで配信中です