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テレビの仕事を続けていたら好きな作家さんと仕事ができた話

「番組の収録を作家のこだまさんに観てもらい、書いてもらったエッセイを番組のHPに載せたいです」

と、番組のPR担当に言うと「ちょっと何言ってるかわからないですね」の時のサンドウィッチマン富澤さんのような表情をしていた。先日放送した特番『喜怒哀ラフ』。私は総合演出として携わっていて、そのPR打ち合わせでの出来事だった。

『夫のちんぽが入らない』というセンセーショナルなタイトルの自伝的小説を読んで、すぐにこだまさんのファンになった。普通では考えられない困難に直面しているのに、その状況にいる自分を俯瞰で眺めて、抜群の“いじり”で笑いに昇華していく。まるで長尺のピン芸を見ているような、ワクワクする感覚。その虜になった。その後に発売されたエッセイ『ここは、おしまいの地』『いまだ、おしまいの地』でもそのスタイルは変わらず「転んでもただでは起きぬ」という意地が伝わってくる。なんなら転びながら「どう調理してやろうか」とほくそ笑んでいるこだまさんの姿まで目に浮かぶ。

私も「何か嫌なことが起きたら、面白おかしくSNSに書いて負の感情を処理しよう」と思っている方なので、こだまさんのエッセイを勝手に自分のスタイルと重ね合わせていた。ある時、こだまさんのTwitterをフォローしたら、理由はわからないがフォローを返してくれた。それからたまにリプライで会話することはあったものの、一読者と作家の関係は特別変わらなかった。

私が大阪に住んでいた時、こだまさんが新刊発売に合わせたトークイベントを大阪で開催することになった。イベント後はサイン会も行われるという。私はすでに読み終えていた新刊をカバンにしのばせてイベントに参加した。しかし、終演後のサインの列には並べなかった。サインを書いてもらうなら名乗りたい。でも「Twitterでフォローしてもらってる山内です」と言って「は?」と返されたら…。たまに出る『トラウマ予報』で警報が発令されていた。こだまさんは「大阪に来るといつも不吉なことが起きる」と話していたが、イベントが終わるとなぜか私の左足が正座した後のように痺れていて、しばらくうまく歩けなかった。不吉な呪いのおすそ分けだけをもらって、私は会場を後にした。

2020年になり、私は「ストレスをコントに変えて笑い飛ばす」というコンセプトの番組を制作することになった。制作途中でふと、こだまさんの顔が浮かんだ(こだまさんは顔出ししていないので、正確には“こだまさんの覆面姿が”だが)。番組を観たこだまさんの感想を聞いてみたい。次の瞬間には「こだまさんの感想をエッセイにしてもらって、番組HPに載せたい」と思っていた。

そこで話は冒頭に戻る。PR担当にイメージを話した。こだまさんの原稿料はPR部の負担になるので、ここで反対されると前に進まないが、あっさりOKを出してくれた。こだまさんはちょっと変わったオファーを快諾してくれて、『読む番宣』の作業が進んでいった。

同時に、番組MCであるオードリー若林さんに、私がやっているラジオ番組『芸人リモートーク』に出演してもらう『聴く番宣』のアイデアも動き出した。

放送前には、こだまさんのエッセイも若林さんとのラジオも無事にアップされ、たくさんの前向きな感想をいただいた。こだまさんのエッセイは“番組趣旨”“ストレス”“笑い”という3つの要素が小気味いテンポで綴られていて、まさに“番組を観たくなるエッセイ”に仕上げていただいた。PR担当は「こういうことだったんだね」と、エッセイにいたく感動していた。

番組制作が楽しかったのはもちろん、PR活動においてもすごく楽しい体験ができた。今回のPRは、普通なら番組の存在を知らなかった人たちにも届いたと思う。今PRには、『バズったか』という評価軸がついてまわる。世にいう『バズる』という状態にはならなかったかもしれないが、あれは様々な点が奇跡のように1本の太い線となって繋がったときに起きる現象だと思っている。人生、どの点がどんな線で繋がるなんてわからない。でもどんな線がいつ繋がってもいいように、どうせ点を打つなら大きな点を打っていきたい。

テレビの労働環境はまだまだ問題も多いが、バラエティ番組に携わるならやっぱり楽しく働きたい。ディレクターをコツコツ続けていたら、大好きな作家さんと仕事だってできる。この業界はまだまだ捨てたもんじゃない。

結局コロナの勢いが増して、こだまさんが上京して番組観覧をしてもらうことは叶わなかった。でもなんとなくそうなりそうな気がしていた。その方がこだまさんっぽいなと思っていたら、本当に来られなくなってしまった。でもいつか「やっと番組観覧に来てもらえましたね」と笑えればいいし、そんな線が繋げていけるように、これからもまた点を打っていこうと思う。

※『喜怒哀ラフ』見逃し配信はこちら

※こだまさんによる『読む喜怒哀ラフ』はこちら

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