直木賞贈呈式にちりめん男が紛れた話
一穂ミチさんから直木賞贈呈式への招待をいただき、上司に「こんなことは二度とないですよ!直木賞ですよ!これは出張ですよね!」と圧をかけ、返事もろくに聞かずに「出席」のお返事をしたのが7月末(もちろん上司は快諾してくれました)。
※ちなみになぜ贈呈式に招待していただく流れになったのかはこちらで
それから約1か月が経ち、その日がやってきました。
スーツを着用し、シャツは新品のものをおろしました。去年、ある方から昇進祝いにオーダーメイドシャツの仕立て券をいただき、百貨店で採寸して仕立てたシャツです。
会場は東京の帝国ホテル。せっかく東京に行くので、普段リモートで会議をしている東京の方と対面での会議をセッティングし、朝イチの新幹線で東京に向かいました。
対面会議を終え、次はリモート会議のため赤坂にある支社へ。ネットカフェとかだとお金がかかるので、会議室を借りようという魂胆です。
支社に着いて、せっかくなのでウロウロしていると喋りやすい後輩たちと遭遇。もちろん「何してんすか?」と怪訝な顔で聞かれます。
私「いや、直木賞の贈呈式に招待しもらって…」
後輩A「すごいですね!」
とリアクションが良かったのはここまででした。
A「でも、そんなシワシワのシャツでいくんですか?」
私「え?」
A「もうちりめん紙ですやん」
私「いやいや、今日おろしたてよ」
B「どっかで乱闘してきました?」
ひどい言われようです。でも改めて自分のシャツを眺めて思いました。
ちりめん紙やん。
新幹線で2時間半移動し(それもほぼ寝てるだけ)、対面会議を1時間半しただけなのに、シャツがしわくちゃになっていました。
A「絶対入り口で止められますよ『ちりめんの方はちょっと…』って」
私「いや、百貨店で採寸して仕立てたんよ」
A「ファミマで新しいの買った方がいいですよ。ちりめんですもん」
もうどれだけ反論しても勝てそうにないので、そそくさとフロアを退散し、会議室にこもってリモート会議を行いました。
気づけば贈呈式の時間が近づいています。ファミマで買うのもしゃくなので、僕がそこからできるのはネクタイを締めて上着をはおり、ちりめんを隠すことだけでした。
8月も下旬に入り少しずつ日は短くなってきているものの、気温はまだまだ高く、スーツの上着を着ると汗が吹き出します。
しかしちりめんのままでは会場に入れないと思い、流れる汗を拭きながら帝国ホテルへ。
直木賞・芥川賞といえば、文学賞と最高峰と言われるだけあって、会場には数百人の出席者が集まっていました。
しかしこれだけの人数がいるのに、知り合いが1人もいないという状況は初めてで、とっても涼しい帝国ホテルの中なのに汗が止まりません。
受付ではちりめんシャツが見えないように招待状を渡して名簿に名前を記入し、なんとか止められることなく会場に入ることに成功しました。
そこかしこで出版業界の関係者と思われる人たちが談笑しています(ちなみに全員賢く見える)。僕は「知り合いと会えてないだけです」顔を必死に作り、ウェルカムドリンクのオレンジジュースを3杯飲みました。
夕方5時、贈呈式がスタート。
まずは選考委員の作家さんからの祝辞があって、そこから受賞者の皆さんのスピーチへ。
芥川賞を受賞されたお二人に続き、一穂さんのスピーチです。
色々なところで記事なっているので内容には触れませんが、まぁみなさんお話が上手い。言葉を扱うプロなので当たり前といえば当たり前かもしれませんが、ユーモアを交えながら”書く”ことへの強い思いを語る皆さんの言葉は、胸にくるものがありました。
そして歓談の時間です。
列席者の皆さんが続々と受賞した作家さんの元に駆け寄り、お祝いの言葉を伝えたり記念撮影をしたりと場が和みだしました。さらに食事もセッティングされ、帝国ホテルプレゼンツのお寿司や天ぷらなど豪華メニューがずらりと並びます。
僕がお祝いの先陣を切るのは違うだろうと思い、帝国ホテルの食事を堪能するぞ!と意気込んだところで「山内さん!」を声を掛けられました。
今回解説を担当させてもらった『砂嵐に星屑』の編集者の方でした。春ごろに打ち合わせをさせてもらって以来の再会です。
編「一穂さんのところに行かれました?」
私「いやいや、僕よりもっと先に行ったほうがいい方たちが…」
編「そんなことないですよ!一緒に行きましょう!」
と背中を猛烈に押してもらい、お祝いの列に並ぶことに。おかげさまで、一穂さんに改めてお祝いの言葉を伝えることができました。
さて、一仕事終えた僕ができることは帝国ホテルグルメを堪能することだけです。
寿司に並び、天ぷらに並び、ドリアだなんだとビュッフェ形式のメニューも頬張っていたところ、ローストビーフもあることに気づきました。
ローストビーフといえば、帝国ホテルの名物です。
なぜ知っているかという、昔後輩の結婚式が帝国ホテルで行われ、そこでローストビーフが出た時に「帝国ホテルの名物でございます」と紹介されていたからです。
あまりに美味しかったので「おかわりしたい!」という話になったのですが、同じテーブルだった同僚から「結婚式は特別な場だから、おかわり頼めば出してもらえるらしいよ」と言われ、意気揚々とスタッフの方におかわりをお願いしたら「2階のレストランでご提供させていただいております…」と微笑みながら言われたという、こっぱずかしい思い出のローストビーフです。
あの時はおわかりできなかったローストビーフが今日はおかわりし放題!ひゃっほー!
とローストビーフを食べながらヘラヘラしていたら、なんと思わぬ知り合いに遭遇します。お互いが「なんでここに!?」と驚き、再会を喜び、結局そのまま行動を共にすることに。
そのあと贈呈式に続き二次会にもご招待いただき、滅多とない素敵な体験をさせていただきました。一穂さん、改めておめでとうございました!
幸せな気持ちで二次会の会場を出ると、すっかり日は落ち、少し涼しくなっていました。僕はようやく上着を脱ぎ、汗ばんだちりめんシャツを夜風で乾かしつつ駅へと向かいました。
「あ、再会を喜んでるうちにローストビーフおかわりするの忘れてた!」と気づいて少しだけ悔しがりながら。
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<直木賞を受賞された一穂ミチさんの『ツミデミック』はこちら>
<解説を書かせていただいた『砂嵐に星屑』はこちら>