「だからなんだ」日和(一穂ミチさん箸『砂嵐に星屑』解説の解説)
文章を書くのが好きです。最初にブログを書くようになったのは、大学で留年して時間をもてあました時でした。
その時に書いたものはもう残ってないけど、ひとくだりだけ覚えてるところがあります。
「インド人の留学生のバラさんが『ダースで』って言うから、何をまとめて買おうとしてんのかと思ったら『Thursday』のインドなまりやった」
極めてたわいもない話です。ただ「だからなんだ」ということを書くことが楽しかったんです。まぁそもそも人生なんて他人からしたら「だからなんだ」みたいな出来事が大半なわけで、それを誰かに聞いてほしかったのでしょう。
社会人になってからも、ブログやmixiやらに「だからなんだ」を書き続けました。
Twitterが出始めてからは、140文字以内で「だからなんだ」を書き続けました。そして長文はこのnoteにも。
酒もタバコもやらない僕は、バーのカウンターでくだをまくかわりに、喫煙所で煙をふかすかわりに、ネットに「だからなんだ」を書き続けました。
せっかく公開してるのだから「だからなんだ(笑)」と思ってもらえるように、なるべく(笑)がつくような文章を書くように心がけていました。
僕は喋りがうまくありません。気の利いた返しもできません。でも文章は自分が納得するまで頭の中でこねくりまわせます。
根暗なイカサマ野郎なので、文章くらい朗らかでいたかったのです。
たまに文章を褒めてもらうこともありました。Twitterがバズったり、noteの投稿がエッセイコンテストで大賞を獲ったこともありました。
そのうち
「いつか仕事として文章を書いてみたい」
そう思うようになりました。本業はもちろんあります。文章で生計を立てたいなんて大それた話ではありません。
僕の文章にお金を払う価値を感じてくれる人がいつか現れたらいいなと、白馬の王子様の登場を夢見る少女のような気持ちで文章を書き続けていたのです。
2024年、その依頼は突然でした。
以前から交流のあった作家の一穂ミチさんから「今度文庫化する本の解説を書いて欲しい」と連絡があったのです。
二度見ならぬ二度読みしました。いや、四度くらい読みました。
依頼をいただいたのは、テレビ局を舞台にした『砂嵐に星屑』という短編集。僕は2年前に刊行された時に読んでいて、とても勇気づけられた本です。
思うようにいかない人生の中でささやかな光を見つけて再び歩き出す人たちの物語。一穂さんならではの苦味と優しさに満ちた小説。
こんな光栄はことはありません。
しかし「解説」とは一体何を書けばいいのだろう。それなりに文庫本も読んできましたが解説は「有名人が書くおまけエッセイ」というイメージです。
そこでGoogleで「文庫本における解説の役割」を調べました。ざっくり言うとこうです。
かつて難解な学術書の巻末に「用語や内容の補足をするためのもの」として解説が載るようになり、それが文庫本の慣例として残り今に至っている。
今は文庫化された時の「ボーナストラック」的な意味合いが強いですが、元々は本当に「解説」していたのです。
いやいや、ボーナストラックにしても荷が重い。最近は音楽業界でも「リリース30周年記念盤」みたいなことで、過去に発売したアルバムにボーナストラックをつけて再発売することがあります。だいたいファンはそのボーナストラック目当てに買うでしょうし、その役割をこの無名な僕が担うには荷が重すぎるというものです。
しかし「いつか王子様が」ならぬ「いつか文章の仕事が」を願っていた僕に断る理由はありません。白馬にまたがってパカラとやってきてくれたのは一穂さんだったです。
すぐに編集者の方と連絡を取り、打ち合わせをさせてもらいました。なぜ僕なのか、何を求められているのか、色々知りたいことがありました。
打ち合わせのおかげでやるべきことがわかりました。でも文字数の目安は3000文字。400字詰めの原稿用紙7枚半です。小学生のころの読書感想文でこの文字数を求められたら、ストライキが起こるレベルの量です。
打ち合わせを終えて、改めて『砂嵐に星屑』を読み、一気に書きました。
3800文字ありました。
テレビにも放送尺があるように、本にもページ数の制限があるでしょう。好きに書いていいわけがありません。
例えば番組制作で10分のVTRを作る時、だいたい12,13分の長さに編集してチェックを受けます。ちょっと多めに繋いで取捨選択するのです。そのテレビマンの悪いところが完全に出ています。
さすがに3800文字はオーバーしすぎなので、いったん3600文字にして編集者の方に見てもらうことにしました。
「いくらでも削りますので!」
と長いのはわかってます!とアピールする文章をつけてメールを送信。
ドキドキしました。
そもそも思っていたものと全然違ったらどうしよう。
若手の時にVTRチェックを受けて「全然ちゃうな。俺が繋ぎ直すからテープ持ってきて」と上司に目も合わさずに言われたことを思い出します。
しばらくして、編集者の方から返信がきました。
「おもしろかったです!」
とお褒めの言葉が並んでいました。心底ホッとしました。
そこからやり取りが始まり、文章を整える作業が始まります。
結果、3500文字で進めることになりました。
500文字オーバーを許してくれたのです。VTRで言うと「おもろいから想定より長いけどこのまま行こか」と言われた時の気分。フー!
文章があらかたまとまると、そこから校正作業が始まります。僕の崩れた口語への指摘や、固有名詞の確認など「そうか!確かに!」と思う的確な修正をいただき、文章が仕上がっていきます。プロの仕事を味合わせていただきました。
そしてやり取りを繰り返して5月上旬、解説を入稿しました。
気持ちいいのでもう1回書きます。
入稿しました。
なんて素敵な言葉なんでしょう。稿を入すると書いて「入稿」です。
1人で感動しているうちに時間は過ぎ、7月の発売日を迎えました。見本はいただいたのですが、改めて本屋さんに並んでいるのを見ると感動もひとしおです。
とりあえず6冊買いました。
自分の書いた文章が紙の”本”となって残るなんて思ってもいませんでした。解説を読んでいただいたら、そこにはやっぱり僕の「だからなんだ」が詰まっていると思います。
ネットで文章を書いていると「承認欲求の塊やな」とか「思い出大好きやな」と嘲笑されたこともありました。今さら否定する気はさらさらありません。承認欲求の塊だし、思い出大好きです。
でもそんな「だからなんだ」を書き続けてきたから、こんな素敵な機会をいただくことができました。これまで何かしらで文章を目にしてくれた方、わざわざ感想をくださった方、幻冬舎の編集担当・黒川さん、そして何より一穂ミチさん、本当にありがとうございました!そして一穂さん、改めて直木賞受賞おめでとうございます!
これからも僕は「だからなんだ」をつらつらと書き散らかしていくと思うので、気が向いたらお付き合いください。そしてもし僕に何かしら書くチャンスがあれば、是非お声がけください。よろしくお願いします。
※一穂さんが僕にも触れてくれたXとnoteです
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※直木賞受賞作『ツミデミック』もめちゃくちゃ面白いです
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