世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第24話 コメント受信
実験。
魔力の逆探知で見せている人の言葉の認識をできるようにしよう。
ということで、姫様の言葉を遠くにいても受け取るため、街に出て実験することになった。
「……今回は視界の確認はもうできてるから大丈夫だと思うけど、この辺からでいいかな?」
さて、今のところは今まで通り、姫様にだけスキルで僕の視界を届けている。
まずは街中で。いきなりダンジョンで使うと、どうなるかわからず困るだろうからね。ということだけど。
姫様に視界が届いていることはわかっているから、あとは、完全に声の届かない場所で、姫様の言葉を受け取ることができるかだけど……。
「どうですかね? 見えてますか? …………」
やはり反応がないと不安になる。
今姫様はどうなっているのだろう。
わからないな。
一人で喋っていると、悪魔憑きとか思われそうだし、ある程度スキルとして公言できるためにも反応があるといいんだけど……。
「ん?」
なんだか視界に文字が……?
"《セスティーナ》見えてます。私の方がどうでしょうか? どのようにすればいいのかわからないのですけど、わかりますか?"
「あ、見えました! はい。セスティーナの言葉わかります!」
"《セスティーナ》本当ですか!? よかったです。それでは、このまま少し続けてみましょうか"
「はい!」
どうやら僕に対しては声じゃなくて、視界右手側に文字として見えるようだ。
意識を外すと文字は気にならない。……うん。戦闘や緊急の時に邪魔になることはなさそうだ。
でも、別に文字を意識していても困らないし、ひとまずこのままで歩いてみよう。
"《セスティーナ》どのような形で見えていますか?"
「文字としてですね。僕の視界に映っているんですけど……これって、セスティーナには見えてますか?」
"《セスティーナ》はい。私もリストーマ様の視界が見えているので、実は私の言葉が見えてます。なんだか恥ずかしいですね"
「いえ、そんな風に思うことないですよ。とても心強いです」
"《セスティーナ》本当ですか? それはよかったです"
これで、姫様のサポートを受けつつ、何かミスがあってもその場で指摘してもらいながら行動ができるというもの。
いつも見ていてもらうわけにはいかないが、姫様の前で失敗するわけにはいかない。そんな緊張感から、以前よりも集中できそうだ。
それに、僕の方でもより鮮明にセスティーナの位置が把握できるようになった気がする。
やはり、スキルの扱いに慣れ、対象から情報を受け取ることができるようになった影響だろうか。
これで、姫様がピンチの時に急いで戻ることもできるわけだ。
僕にも姫様にもプラスの能力になりそうだ。
"《セスティーナ》でも、視界が私より高くてうらやましいです。この間と同じ場所を歩いているのに、まったく違う景色に見えます"
「セスティーナはそのままでもいいと思いますけど」
"《セスティーナ》そ、そうですか? ふふっ。ありがとうございます"
意識したことがなかったが、確かに僕の方が姫様より身長が高い。
今まで、視界を変える目的でしか使っていなかったが、その使い方も身長差がある相手の方が効果が高そうだ。
「身長による違い、参考になります。ちなみに、見えにくいとかはあったりしますか?」
"《セスティーナ》いえ。大丈夫です。あ! あそこ。パン屋さんじゃないですか? いい匂いがします"
「そうみたいですね。入りますか?」
"《セスティーナ》い、いえ。大丈夫です。大丈夫……。はい! 今日はあくまでコミュニケーションが取れるかの実験ですから"
「それじゃあ、僕が勝手に少しだけのぞきますね」
"《セスティーナ》それなら、構いません!"
姫様はしっかり者だな。
店に近づくと、確かに、焼きたてのパンの匂いが漂ってくる。
小麦粉の匂い。最近は城でも食べさせてもらっているけど、かつて食べていた黒くて苦い、歯が欠けそうになるパンとは大違いだ。
でも、街のパン屋さんも美味しそう。
「見ていくかい?」
ぼーっとのぞいていたらお店の人と思われるおばさんに話しかけられてしまった。
「い、いいんですか? でも、僕、お金が」
ぐーぎゅるるるる。
"《セスティーナ》あっ"
僕のお腹が鳴った。
見ていたらお腹が減ってきてしまった。
「腹が減ってるんだろう? 一つ分けてやるよ。どれがいい?」
「ありがとうございます!」
僕はすかさず一番美味しそうに見えたパンを手に取った。
「これください!」
「まいど! 今度はお金を稼いでから来てくれよ?」
「はい!」
店を出てすぐ、熱々のパンを噛みちぎりながら食べる。
少し行儀は悪いが、これを耐えるなんてできない。
焼きたてのパンから香る小麦の風味が口いっぱいに広がって。
「うまー」
"《セスティーナ》んー! 次、外出の機会があったら一緒に行きましょう! 絶対です。約束ですからね!"
「あ、すみません。自分ばっかり味わってしまって」
"《セスティーナ》いえ、ゆっくり味って食べてください"
そう言われても姫様を待たせるわけにはいかない。
残りは急いで食べる。
美味しすぎて止まらない手をさらに早く動かして口に入れる。
「ほへへは、ひひはほうは」
"《セスティーナ》食べてからで大丈夫ですよ?"
「ふひはへん……」
ゆっくり噛んで飲み込んでから、また再開。
パンを食べに来たんじゃなかった。
「あれっ……?」
"《セスティーナ》どうかされました? 何か見つけましたか?"
「あ、えっと。そんな気がしたんですけど、なんでもないです」
"《セスティーナ》そうですか……。あ、大丈夫ですか? 食べ切れました?"
「はい! それはもう美味しかったです」
"《セスティーナ》うー!"
気のせいかな? この間見た白いキレイな人と、黒いスタイルのいい人。
知り合いだったのかな? あの二人。
でも、どこかへ行くのが見えた気がしたけど、なんだったんだろう。
「それじゃあ、もう少し続けてみますね」
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