世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第33話 おびえたドラゴン 2

「なになに? なにしてんの?」

「誰だ!」

「何、アンタ。アタシはね。アンタの後ろにいるウチらのトモダチに聞いてるんだけど?」

「あ、いや、その……」

 ドラゴンの増援。
 にしてはドラゴン同士の仲が悪そうに見える。とてもじゃないが友だちって雰囲気じゃない。

 真っ先に僕に攻撃するんじゃなくて、まるで僕の背後に隠れるドラゴンを攻撃するような言葉遣い。

 仲間の方に駆け寄らず僕に隠れるってことは、さっき攻撃した僕よりも、新しく現れたドラゴンの方が怖いってことか。

「ここにいた気配と同じ……。確かに、きみたちはここにいたみたいだけど、この子、おびえてるじゃないか」

「……」

 送られてくるのは冷たい視線だけ。
 完全に見下されている。

 気の強そうなドラゴンたちはアゴを上げて目線からしても見下してきている。

 僕なら三人も増援が来れば、さすがに安心できそうなものだけど、後ろの子はそうじゃない。

 やっぱり、こいつらは何か違う。

「何よアンタ。まさか、そこの人間ごときに負けちゃったの?」

「えー! ありえなーい!」

「ドラゴンでどうやったら人間に負けられるのよ。そもそも、ダンジョンに入れる人間なんて少ないのに」

「「「クスクスクス」」」

「まっさか負けて飼われちゃうなんてね。ホント、ドラゴン失格よ」

「ひっ…………」

 僕に隠れる体にも、震えているのが伝わってくるほど。

 一人で苦しい思いをしてきたのだろう。

 ギラギラした宝飾品を身につけているのは、新しく現れた三体のドラゴンだけ。

 僕に隠れている子は、何一つとしてつけていない。いや、つけさせてもらえないんだ。

 小さい頃から大切にしているぬいぐるみだけがお宝で、他はこいつらが吸い上げているから。

「アンタとはもう絶交ね。恥ずかしくて顔も見たくないわ!」

「……え……」

 こんなになっても縁を切られるのは怖い。

 そうだよ。なかなか切ろうなんて思えない。

 僕だって、何とか剣聖の家に戻ろうと思ったんだ。

「……あたしなんて、捨てられて当たり前だよね……」

「そんなわけない」

「え……?」

 この子はぬいぐるみを長く大事にできるような、優しい子なんだ。

 絶望してていいわけない。

「おい」

「何よ。アンタはお呼びじゃないんだけど? やられたくなかったらさっさと逃げたら? 邪魔」

「今やってることは、友だちのすることじゃないだろ。僕には友だちと呼べるような対等な相手なんていないけど、大切な人はいる。だからわかる。これは絶対に違う」

「違うなんて。人間の尺度で語られても困るんですケド? ドラゴンが人間に負けたんだもの。縁を切られて当然なのよ。弱肉強食。この世界では強き者が弱き者から奪うのが必然なんだもの」

「「キャハハハハハハ!」」

「違う。友だちなら、弱肉強食とは別問題なはずだ。友だちが強くなれるように協力しないのか!」

「は? なに? 後ろのそいつに勝ったからって説教? ホントうざい。 アンタ、うざいんだけど」

 チラチラと横のドラゴン二体に視線を送っている。

 来る。

「やっちゃいなさい。あんな人間、ドラゴン様に逆らえないよう、たっぷりかわいがってあげなさい!」

「もっちろーん」
「ザコはしっかりおしおきしないとね!」

 人の言葉を理解するほどの賢さ。

 そして、仲間をいいように扱って宝を奪い、自由すら奪う狡猾さ。

 一見すれば厄介そうな相手だが、それらはすべて表面的。

「ちょっと目をつぶっててね」
「う、うん……」

「なっ! なに、これ……!」

「ちょっ! 嘘でしょ? なにその剣!」

 攻撃が軽い。
 こんな相手、スキルを使うまでもない。

「ま、待って、待って!」
「落ち着こ? ね? 話せばわかるって」

「待たない!」

「……! 嘘、二対一で……?」

 魔獣相手に必要なのはキレイに倒し持ち帰ること。

 おとなしくなったドラゴン二体を袋にしまう。

「容赦は必要ない。そうだろ? ここは弱肉強食なんだもんな?」

「う、嘘よね? 冗談。そう、何かの悪い冗談よ。アンタ人間でしょ? アタシたちドラゴンが負けるはずない。アタシたちはアイツと違って、出来損ないじゃないのに……」

 そこで、ドラゴンは僕に対して後ずさった。
 人間として侮った、僕からに恐れた様子で。

「さあ、お前も覚悟を決めろ」

「ま、待って。ほら、お宝、お宝あげる。欲しいでしょ? ね? アタシたち、オトモダチになれると思うの」

「そうだな。欲しいな。なれるかもな?」

「ならっ!」

「なら、力ずくで奪ってやるよ。そういう世界なんだろ?」

 おびえた顔を、敵意むき出しのゆがんだ顔に変えて、ドラゴンは後ずさるのをやめた。

「おとなしく言うこと聞いたら、逃がしてやろうと思ったけど、もう我慢ならない。アタシが人間ごときに負けるわけないでしょ! この、アタシが!」

「残念」

「…………う、そ……」

 最後まで、後ろの子に謝ったりしなかったな。

 こいつらは自分の身のことだけ。

 ピンチなのは後ろの子だって同じだと思わなかったのかな?

「もう大丈夫。開けていいよ」
「あ、あの子たちが、い、いなくなって……」
「えっと……」

 どうしようか。

 やっぱり、本当は仲がよかったりするかな?

 さっき言ってた通り、ドラゴンとしては僕の感覚の方が間違ってたりするかな?

 ドラゴンの女の子にそっと近づくと、へたり込んだまま呆然と僕のことを見上げてくる。

「だ、大丈夫?」
「うん……。うん! うん……」
「あ、ああ」

 泣き出しちゃった。どうしよう。や、やっぱりあれがドラゴンの普通?

 えっと、えっと。

「ありがと。ありがと!」

 いや、そんなわけないか。

「どういたしまして」

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