スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第23話 VSブリザードドラゴン

「危ない!」

「え?」

 氷結の洞窟にて、ドラゴンと対面した俺はいきなりマイルに押し倒された。

「あ、ありがとう。マイルのサポートがなかったら俺どうなってたか」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

「そうだな」

「当たってたら終わりだったのよ?」

 一面、氷でできた空間には、いつの間にか一本の氷の柱が生えていた。

 ちょうど俺たちがいた場所だった。

 開幕から食らえば、瀕死級の攻撃をぶつけてくるとはさすがドラゴン。

 だが、かわされることを考えていなかったのか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 知能があると言われるドラゴン。面白い表情をするじゃないか。

「しかし、ドラゴンともあろう存在が不意打ちとは、さすがに卑怯なもんだな」

 俺は雪を払いながら立ち上がると、さすがにムッとしている気がする。

 やはり感情が表に出やすいタイプらしい。

「と言うことはだ。実際はそこまで強くないんじゃないか? 図体ばかりがデカく、一撃は強いが、あくまでそれは当たればの話。見た目に見入ってるやつに、先制で一撃を食らわせないと勝てないようなそんな存在だったんだろ?」

「ちょっと! なんだか洞窟揺れてるんだけど、ねえ、怒ってるみたいなんだけど」

 マイルの言う通り、許せないとばかりに、ドラゴンは洞窟を揺らすほど身を震わせている。

 人間でもないのにここまで感情の起伏があると、親近感も湧いてくるがそうも言っていられない。

 なんせ俺はアリサを氷漬けにされている。

 ここで仲良くしましょうなんてことはできない。

「マイル。支援魔法って今ので最大か? 移動だけのしか使ってないんじゃないか?」

「確かにまだまだ色々と使えるよ? でも、ワタシもリルさんやヤングに使ってみた時は、逆に身動き取れなくなっちゃって」

「面白い」

「何が?」

 呆れた様子のマイルだが、今は少しでも力がほしい。

 あおって冷静さを奪ってみたものの、どうやらすでに次の攻撃に備えているらしい。

 つまり。

「多分、俺たちに残された時間は次の攻撃までの間だと思う。次の攻撃を許せば普通にアウト。背中を見せて逃げれば、一撃をモロに食らうからアウト。そう考えると、残された選択肢は」

「あれをその次の攻撃までに倒すってこと?」

「え? 今までそう言う話じゃなかったの?」

「いや、そのつもりだったけど、もう少しやりあうもんだと思ってた」

 俺がマイルの予定を崩したということか。

 俺のやってしまったという表情が出ていたのか、マイルの視線がじっとりとしたものに変わった気がした。

「だからこそのマイルの支援魔法だ」

「うーん」

 まだ躊躇しているのか、マイルはためらいがちに腕を組んだ。

「大丈夫。どうせ成功しても勝てなきゃ助からないんだから。俺のことは気にせずにやってくれ。なんなら使った後に俺を置いて逃げてもいい」

「そんなに自信あるの? でも、さすがにワタシもドーラを置いて逃げるほど薄情じゃないわよ。わかった。でも、本当に何もできなくなっても知らないからね?」

「ああ。その時はその時。一緒に散るだけさ」

「本当はもっと森の主の賞金で色々とやりたかったのに!」

 文句を言いつつもマイルは詠唱を始めた。

 何かに気づいたのか、ドラゴンも一瞬だけ攻撃の準備をやめ、こちらの様子をうかがった気がした。

 しかし、人間の行動などさほど気にしていないのか、すぐに攻撃準備に戻った。

「行くよ!」

「ああ。こい!」

 長ったらしいドラゴンの準備と異なり、マイルの準備はすぐに済んだようだ。

「『オールブースト』!」

 マイルの声とともに、俺の踏む地面に特大の魔法陣が広がった。

 そこから光が放たれると、みるみる力が湧いてくるのを感じる。

 すごい。今ならなんでもできそうな気がする。

 ドラゴンの動きもやたらとゆっくりに見える。

「さあ、後は任せたよ」

 後ろではマイルの声の後に倒れるような音がした。

 どうやら、使う側も消耗が激しいらしい。

「任された。いいかクソドラゴン。よくもアリサを氷漬けにしてくれたな。それにマイルの手をわずらわせやがって。本当ならこんなことする必要はなかったが一発食らわせてやる。パチモンに負けたとなれば他のドラゴンにも馬鹿にされるだろうな」

 俺は最後の最後にもう一度煽ってから息を一気に吸い込んだ。

「『ファイアブレス』!」

 技の出の速さ。それは俺の特技の一つだ。

 大技の準備に勤しんでるところ残念だったな。

 俺は心の中でガッツポーズした。

「私に匹敵する力を持つ存在がやっと現れた」

 だが、どこか喜びが混じる声が聞こえてきた気がした。

 俺はその場に片膝をついて倒れ込んだ。

 なんだか不思議な感覚がある。まるで少しの間動きを止められていたような。

 きっとマイルの支援魔法の反動なのだろう。

 しかし。

「い、いない?」

 あれだけの巨体。少しくらいは残骸が残っていてもよさそうなものだが、森の主の時と違い何一つ痕跡が残っていなかった。

 だだっ広い空間に氷漬けにされた人たちと俺にマイルだけが残されていた。

 伝説の存在であるドラゴン。まだわからないことも多いらしいが、ブリザードドラゴンにファイアブレスを使ったせいで溶けて無くなってしまったということだろうか?

 いや、そんなことより。

「アリサ! それにマイル! 大丈夫か?」

「ワタシ? ワタシはとりあえず大丈夫だから、アリサさんの方へ行ってあげなよ」

「ありがとう」

 まだ倒れたままだがそんなことを言ってくれるマイルに感謝し、俺はアリサの方へと駆け出した。

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