クラス転移でハズレスキルすら出なかった俺、山に捨てられる〜実はここまで俺を独占したい女神の計画通りらしく、スキルを超える『溺愛』の権能を与えられたので、悠々自適に暮らします!〜第13話 家!

 新しく連れてこられた人たちがなんでもすると言うので、馬車馬の如く働いてもらうことにした。
 そして、フェイラたちは家のために連れてきたようだったので、そう言うのが得意なのだろうという思い、丸投げして任せることにした。
 これがどうやら当たりだったようで、ただの倒木を彼女たちの道具でなめらかに加工し木材にすると、ものの見事に丈夫そうな家が出来上がってしまった。
 さらに、彼女たちのスキルによる影響なのか、家は数日で完成した。

 目の前にはやってきた職人たちのリーダーであるティシュラさんが腕を組んで立っている。

「どうだい。アタイたちの腕は」
「すごいな。想像以上だ。これでバシィたちに抱きついて寝なくて済む。彼らも苦しかっただろうからな」
「バシィ? ああ、あのマウンテンウインドウルフのことかい。今となってはあれはあれでよかったが、求めてたんならそうだね。アタイらがいれば今みたいな貧相な生活からはすぐにおさらばだよ」

 すっかりバシィたちと仲良くなったみたいだが、俺としては布団で寝たい。
 まあ、羽毛なんてないさ。ってことでとりあえず家……。
 布団……どうしようかな。

「そういえばティシュラさんたちの種族はなんなんだ?」
「アタイたちかい? アタイたちは一応マウンテンオークだよ」
「オーク……」

 スラッとした体に、鼻も豚のような花ではなく人と同じ形をしている。赤茶色の髪も短く切られ、清潔な印象を抱く。
 肌こそ緑のようだが、それもオークと言われるまではオークの特徴と結びつけられなかった。
 それに家ができる今日まで襲われなかった、はずだ。

「わからないだろうね。だけど、この山じゃ普通のオークは死んでいった。アタイたちみたいな変わり者しか残らなかったんだよ」
「大変だったんだな」
「なあに、アンタが気にすることじゃないよ。家は文句ないだろう? それでいいじゃないか」
「ああ。あれだけ暖かければ家で寝られそうだな」
「しかし、アンタの欲望はその程度かい?」
「え?」
「アタイたちはこの山の木を材料にして色々なものを作ってみたかったんだ。だから、その機会をくれたことを感謝してるんだよ。力になれるならなりたいんだ」

 俺としては家ができた今、結構満足なのだが、その程度と言われるとそうだと思う。
 今考えたみたいに、布団を用意するには明らかに必要なものが足りないし、かと言ってバシィたちの毛をむしるわけにはいかないし。
 でも、服は作れてるみたいなんだよな。まあ、外から持ち込んだのかもしれないからやっぱり検討か。

「わかった。今は気持ちだけで十分だ。少し考えておく」
「頼むよ」

「クゥーン」

 何か弱ったような様子でバシィが頭を擦り付けてきた。
 これは、ベッド扱いをバシィの方も気に入っていたのだろうか。
 いや、そうじゃないか。役割の不安か。新入りが仕事をしているのを見たから。

「お前たちは別に捨てたりしないよ。いないと飯が食えないからな」
「アウ!」

 思い出したように、バシィたちは雄叫びをあげて狩りへと走り出して行った。

「はは! リュウヤをすっかりご主人と認めているんだね。大したもんだ」
「一応な。あいつらの実力なら俺の首を刎ねるなんて造作もないだろうに、どうしてか懐いてくれてるんだ」
「どうしてか。ね……」
「ん?」
「いいや」

 なんだか気になる言い方だったが、バシィたちが認めてくれているのは俺の能力の高さでなく、フェイラから与えられた力によるものだということは俺にもわかっている。
 だが、溺愛の権能で認めさせたのだとしてもバシィたちに恥じないようにしたいとは思う。

「そうだ。建物のことで、一ついいか? 作ってくれたのはありがたいがどうして一部屋だけなんだ? 生活に必要なものは色々とついてるのに、生活スペースとしての部屋が一つってどう言うことだ?」

 細かく頼んでいないのにトイレやキッチンのような場所はあるにもかかわらず、寝起きできそうな空間が一部屋の大部屋しかないのだ。

「ああ、そうだよ? 一人一軒じゃ時間がかかるからね。ご所望は家だったろう? そもそもあんたらガキだろ? だったら一緒にわちゃわちゃ寝てればいいじゃないか。何を照れることがあるんだい?」
「いや、俺は良くても残りの二人が気にすると思うし、それにティシュラさんたちだって困るんじゃないか?」
「自分たちはガキじゃないってことかい? そりゃ悪かった。けど、それならよろしくやっちゃえばいいじゃないか。みんなリュウヤを落とそうと躍起に成っているようだし、なんならアタイも混ぜてくれよ」
「いや、今はそんな状況じゃないと思うし、ついでにティシュラさん何言ってるんだ? これは次も決まりだ。個室で」
「ちょっと待って!」

 俺が次に作ってもらうものを決定したその時、俺の前に河原が割り込んできた。
 いや、河原が割り込んでくるのか。河原は嫌じゃないのか?

「個室の前にお風呂が欲しい」
「河原は同じ部屋で嫌じゃないのか?」
「そんなことより、お風呂よ。溝口もそう思うでしょ?」
「河原にとってそんなことなのか? まあ、必要だろうけど、できるのか? まずは作れるだろう個室の方が」
「欲しいでしょ?」
「あ、ああ。欲しいな」

 できるなら欲しいし、そりゃ俺も風呂は嫌いじゃない。
 しかし、個室より欲しいのか? いや、ティシュラさんたちもいるし、俺は何もできないだろうってことか。

「ティシュラさん。お願いできる?」
「おうともさ。任せておきな。悪いなリュウヤ」
「いや、俺より河原のことを優先してやってくれ」
「ふふ。ありがとうね。溝口」
「……お、う」

 ものすごい笑顔で感謝の言葉を言われ、思わず反応が遅れた。
 今まで見たことがないほどの笑顔だった。
 そんなに風呂が欲しかったのか。いや、そりゃそうだよな。
 河原は俺と違って女の子だもんな。
 でも、個室じゃなくて風呂か。

「まあ、俺は当分外でバシィたちと寝てもいいんだけどな」
「ダメだよリュウヤ。もう家をティシュラちゃんたちが作ってくれたんだから、一緒に寝よ」

 まだ明るいというのに、腕に抱きつき新しい家へと連れ込もうとするフェイラ。
 まあ、木のいい匂いは好きだし、外より安心感は大きい。

「確かに、中の方がいいな」

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