世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第16話 今の女性は……?

 今日の鍛錬の時間が終わり、僕は姫様の部屋に戻ってきていた……。

 いつも姫様の部屋にいるみたいになっているけど、別にそんなことはない、はず……。

 いやいや、そうじゃない。

「フロニアさんがいい人でしたし、騎士団の皆さんもとてもいい人たちで、訓練も身についていて嬉しいです。機会を設けてくれてありがとうございました」
「いいえ。あの方にあそこまでされていたのは、純粋にリストーマ様がすごいんですよ」
「き、聞こえてましたか?」
「何がですか? 何かあったんですか?」
「い、いえ。何もなかったです。フロニアさんがいい人なんですよ。ありがたいですけどね」

 謝られたのは聞こえなかったみたいでよかった。

 しかし、姫様に言われるとちょっと照れる。恥ずかしい。でも、やっぱり嬉しい。

 それにしても、訓練の時間は今までにない環境で訓練を積めていて、僕としては願ってもない環境で、感謝しても仕切れない。
 でも、まだみんな動く余裕のある段階で切り上げていた。その場で気を失うまでやっていたこれまでとは大違いだった。

 なんでも、僕のやっていたやり方は古いやり方らしい。

 回復を考えずにただ毎日同じことを繰り返していても、力はつかないとのこと。

 実際、日に日に力が増している実感があるうえ、力が伸びるペースも以前より早い。強い人たちはしっかりとした鍛錬をしているものなのだろう。

「そうですリストーマ様、根をつめすぎては疲れてしまいます。次の予定まで時間がありますし、少しお出かけしませんか?」
「えっと、僕とですか?」
「はい! お嫌、ですか?」
「いいえそんな! 滅相もないです。ただ、セスティーナは大丈夫ですか?」
「もちろんです!」

 微笑む姫様。

 せっかく気を遣ってもらっているのだ。こんな機会を無駄にすることはできない。

 本人がいいと言っているのならいいのだろうし、ここはお出かけしてみよう。

「それではお供させていただきます!」
「お願いしますね」

 街に出た。

 ゆっくりと街の様子を見回す機会などなかったから、なんだか新鮮な気持ちだ。

 僕の住んでいた家とは大違いで活気に満ちあふれている。
 にぎやかな雰囲気はそれだけで僕まで楽しくなってくる。

「どうです? これがこの国の姿です」
「すごいです。すごいですよ」

 どれだけ狭い世界で生きていたのか。そう思わされる。

 もちろん、僕が生きてきたのも同じ世界の一部だ。だが、こんな世界が外にあることは今まで知らなかった。

 おそらく剣聖は知っていたのだろう。知っていて、僕には話していなかったのだろう。

「すみません。やっぱり無理させてしまいましたか?」
「いえ、そんなことないです。でも、初めてのことで、少し圧倒されてしまって」
「それならよかったです。今日は、見て回るだけしか許されなかったので、今度出かける時に中に入ることにしましょう?」
「はい。それで全然問題ないです」

 あくまで市民として街に出るため、姫様は今フードをかぶっている。
 不思議な効果があるのか、誰も姫様に気づかない。

 僕でも気づいた有名人だが、やはり、不思議な道具があるのだろう。道具にしても僕は知らないものばかりだ。
 本当に、こんなに色々としてもらってしまって申し訳ない。

「あっ! あちらは、えっと宝飾店? でしょうか。えっと、あちらが、えーと。食べ物屋さんみたいですけど……」

「あの。セスティーナもあまり詳しくないのですか?」
「すみません。私もあまり外に出たことがなく。リストーマ様と一緒なら、と許可をもらったので、恥ずかしながら、舞い上がっていまして」
「いや、恥ずかしいことじゃないです。案内してくださってとても嬉しいですし」
「本当ですか? これでも少し予習してきたんですよ? それに、その、……もう少しくだけた感じでお話ししませんか?」

「おい」

 姫様が何かを小さな子で話していた時、突然、キレイな女性が話しかけてきた。

 髪は白く背の高い、白ですべてができているのではと思うほどの透き通った肌と軽くまとっただけの布。
 そんな女性は、姫様ではなく僕をまっすぐに見つめてきていた。

「お、おい……。その、なんだ? あの、あれだ」
「えっと、どうかしましたか?」

 女性は僕に用があるらしく、何かを話そうとしているのだが、用件が思い出せないのか視線をさまよわせている。

 しかし、僕としては目の前の女性に見覚えはない。
 そもそも僕の知っている女性が少ないというのもあるが、ここまでキレイな人なら、街で通りすがっても少しくらい記憶に残っていてもよさそうだ。

 それなのに記憶にない。
 やはり、初対面なのだと思う。

「何かお困りですか?」

 僕が聞くと、女性はなぜか目線を僕からそらして、顔をみるみる赤くしていった。

 お、怒らせてしまった!?

「すみません。気に障ったなら謝ります」

「し、失礼するっ!」

 上ずった声でそれだけ言うと、女性は背を向けて走り出してしまった。

 ものすごく速く、すぐに見えなくなってしまった。

 な、なんだったんだろう。

 自分の服装を確かめてみるが、変なところはない、と思う。

 もしかして、僕が知らないだけで一般的なことなのかな?

「街に出ると、こういうこともあるんですね」
「ないと思います」
「えっ!?」

 姫様がほほをふくらませていた、気がする……?

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