すでに戦争は終わったので平和に暮らしていましたが、それも今日までです!〜正直に言いなさい!ボクのプリンを食べたのは誰ですか!〜
あらすじ
人類と魔王軍が停戦協定を結び、人間とモンスターとの間で刃が交わらなくなった世界。
高度な魔術により、攻撃的なスキルや魔法を封印する家へと入れられた人類代表の勇者と魔王軍代表の魔王たち。
初めこそ不便を感じていたものの、慣れてしまえばどうということはなく、彼女たちはガールズトークに花を咲かせながら、あくせく戦わなくていい日々をのんびりと堪能していた。
今まで争い合ってきた勇者と魔王と言えど、攻撃が封じられれば人類と魔王軍の間で争いは起こらない、はずだった……。
突如として食べられた勇者のプリン。
荒れ狂う女勇者。
激しい問い詰めの中、一体誰が勇者のプリンを食べたのか。
一つのプリンを巡り、今、人類と魔王軍との間で激しい争い(?)が勃発する。
これは、プリンにより関係が壊れた少女たちの物語。
果たして彼女たちは、無事ほのぼのとした生活を取り戻すことができるのか!?
人類と魔王軍が停戦協定を結んだ世界。
お互いの主力を監視し合うため、勇者であるボクと三大魔王は結界の中で生活していた。
結界内は魔法や武器、スキルの類がほとんど無力化され、戦うことは不可能。
現在はボク、アイヤ・サルフが三大魔王の監視役なんだけど。
「ふわー。やっと終わったー」
「「お疲れー」」
「お疲れ様。もう書き上がったの?」
「うん!」
毎度意味があるのかわからない報告書を仕上げ、ボクは自分用のご褒美にとっておいたプリンを楽しみに冷蔵庫を開ける。
平和になったおかげで魔法を使わなくても食材を保存できるようになったのは本当に便利だと思う。
「あ、あれ?」
ボクはもう一度冷蔵庫の中身を確認する。
……ない……。
ボクのとっておいたプリンがない!
ボクと魔王たちはプリンを巡り争いを起こそうとしていた!
あの面倒臭い報告書の後に食べようととっておいた、慈愛の魔王イモンド・ダーヤが作ってくれたプリンがないからだ。
「ねぇ、ボクのプリン食べたのだれ?」
ボクはあくまで冷静にリビングの方でダラダラと遊んでいる純真の魔王ルー・ビリーと邪悪の魔王スズ・パードットに聞いた。
「んあ? ワガハイじゃないぞ? 何せワガハイルールは守るよい子じゃからな」
えっへんと胸を張って言うのはルー。
赤髪をおさげ状にした小さな女の子のような見た目をしている。舌足らずながらも威厳を出そうとしているのがなんとも可愛らしい。
ボクもルーはよい子だと思っている。ルーは魔王でありながら頭は回らない。
その代わりとてもいい子で思いやりが強く、人であり勇者でもあるボクに対しても普段から優しく接してくれる。
そもそも嘘をつくのが苦手なルーが食べていないと嘘をつけるはずがない。
「ルーじゃないのはボクもわかってるよ」
「なにしてるの?」
キッチンの方から声が聞こえる。
「ないならまた私が作りますよ? ちょうど今プリンを作ろうとしていたところなの」
優しい笑顔で言ってくれたのはイモンド。ボクたちのまとめ役、と言うよりママみたいな存在。
いつも手料理を振る舞ってくれるこの家の良心で、腰まで届く長い茶髪をまとめているゆったりとした見た目だ。何より胸が大きい。ボクもいずれ大きくなるからいいけど。
今回のプリンもイモンドが作ってくれたもので、ボクは作ってもらうたび楽しみにしている。
それだけでなく、イモンドはいつも料理を美味しそうに食べるので、一緒に食べているボクまで今までよりも美味しく感じる。
そんなイモンドが犯人なはずはないだろう。
「ありがとう。それはそれでいただくよ」
となると。
「イモンドが作ってくれるならよかったじゃない」
珍しくしれっと言ってくるのはスズ。
いつも顔を赤くしてボクに注意してくる苦手な子。
怒りながら、それは無茶だからやめた方がいいとすぐに止めてくる怒りん坊。
初めて会った時は、金髪をツインテールにしていてお人形さん見たいと思ったけど、どうにも仲良くなれない。
「うん」
「よかったよかった。これで解決解決」
「うーん。よかったけど、ボクはイモンドが作っておいてくれたのがよかったんだよ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ないものは仕方ないじゃない」
「そうよ。どうせ捜索にスキルも使えないのだし、イモンドに新しいのを作ってもらいましょ?」
「……うーん。やっぱり怪しい」
改めてボクは報告書を書く前の状況を思い出してみる。
ボクは天才勇者。アイヤ・サルフ。ボクに不可能はない。
魔物との戦闘を経験する前に停戦が結ばれたため、怖い魔物というものを知らないがそんなことは関係ない。
今はとにかくプリンがないことに腹が立っている。
ボクはスズの前まで移動すると顔を近づけじっくりと見つめた。
「どうしたのだ?」
「何かあったの?」
「……」
スズの顔がみるみる顔が赤くなっていく。そしてスズは顔をそらした。
「スズでしょ。ボクのプリンを勝手に食べたの」
スズはすぐさま驚いたように目を見開いてこちらを見た。
「違うわよ! どうしてそうなるのよ」
「まず、作ってくれるならよかったじゃないって言ったから」
「それだけ? 違うから。アタシじゃないから」
「本当に?」
「ほ、本当よ。信じてくれないの?」
顔を赤くし震えながら、スズはボクの目をじっと見つめてきた。
少し涙目になっているし嘘をついているようには見えない。
「そっかー。ごめんね。疑ったりして」
「い、いいのよ」
スズは力が抜けたようにソファに寄りかかった。
「……あードキドキした。キスされるのかと思った。アイヤならいつでもいいけど」
「何か言った?」
「な、なんでもないわ!」
相変わらず挙動がおかしい。でも、口元にプリンもついていなかったし違うみたい。となると残るは二人。
次に怪しいのは。
「そ、そうだ。よかったらアタシの食べていいわよ?」
「お気遣いありがと、でもスズじゃないってわかったから」
「そう? でも、遠慮せず食べていいわよ?」
「その様子だと冷蔵庫には一つもプリンがないってのに気づいてない?」
「アタシのも食べられたの!?」
「そうだよ。その様子じゃスズが犯人じゃないのは確定だね」
「……せっかくあげられるチャンスだったのに」
今度は急にスズの元気がなくなった。
そんなにプリン食べたかったなら無理にあげるなんて言わなくてもいいのに。
気持ちだけでも嬉しいけどさ。
でも、スズの様子からしても昨日までは確実にプリンは冷蔵庫の中にあった。
今日の報告書のご褒美としてとっておいたのは気のせいじゃない。
「ルー。今日何してた?」
「ワガハイか? ワガハイはスズとルールを守って楽しくこれをしていたぞ?」
ルーが見せてきたのは、今ボクたちの間で流行中のボードゲーム。
魔法が使えなくても遊べるからと暇な時にコミュニケーションの一環としてよく遊んでいるものだ。
確かに、ルーは一度もルールを破ったことはない。
「ルーは今日もルールを守るよい子だったわよ?」
「そうであろう。そうであろう?」
ルーは得意げに胸を張っている。
スズのお墨付きまでついている。
「プリンを食べてないのはずっと一緒だったアタシが見てたわ」
「そう! ワガハイもスズがプリンを食べていないのは見てたぞ」
「それ先に言って欲しかったんだけど」
「すまぬ」
ルーがしょんぼりしながら頭を下げた。
「いいわよ。済んだことだし」
「本当か! よかったのだ!」
まあ、こんなルーが嘘をつけるわけがない。天地がひっくり返っても無理だろう。
スズも言ってるしルーはプリンを食べていない。
「そうだ。そもそも今日はイモンドしか冷蔵庫を開けてないぞ? ワガハイたちじゃ料理ができないからな。イモンドの作った料理を食べるの専門じゃ」
「え? じゃあ?」
その時、イモンドの動きが固まった。
そう。消去法でもう残りは一人しかいない。
視線はキッチンにいるイモンドに集まる。
「ごめんなさい! 隠してたわけじゃないんだけど、なかなか言い出すタイミングがなくて。一つ自分の分を食べ出したら止まらなくて、気づいたら全部食べちゃってたの」
「え!? じゃあアタシのを食べたのも?」
イモンドはコクコクとうなずいている。
確かに、イモンドは普段から人一倍料理を食べるし、甘いものならなおサラダ。
食べるのが好きだからこそ、料理が上手なのだとイモンドが前に話していたことがあったくらいだ。
やっと見つけた犯人。ボクは思わず拳を握りしめた。
「イモンドは仕方ないなあ。だが、イモンドはワガハイと違ってまた作れるし、これから作るところだったのだろう? なら、みんなで作ろうではないか」
にこやかに言うルー。
ボクの体からも力が抜ける。
ルーはいつもボクたちの間を取り持ってくれる。
「そうだね」
「アイヤがいいなら。アタシもイモンドを許すわ」
「ありがとうみんな」
笑顔でイモンドが頭を下げてくる。
「ところでワガハイたちにもできるのか?」
「ワガハイたちってもしかしてボクも入ってる?」
「アタシも入ってないでしょうね?」
「ふふふ。大丈夫よ。みんなでもできるから」
「ねえ、サラッと入れた?」
色々とツッコみたいところはあるが今はプリンだ。
このあとボクたちは一緒に仲良くプリンを作り、作ったプリンをみんなで美味しくいただいた。