世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第35話 ぎゅってしてる:魔王の娘フラータ視点

 今回は入る時一人だったみたいだしー。

 服だって新しいのを作ってもらったしー。

 おめかしもおしゃれも腕利きの子にしてもらって、キレイにしてきたしー。

 大丈夫、大丈夫!

 なんでも、今のフラータの服は、魔王軍に伝わる人間の男の子を魅了できる服みたいだからね! 

 今回は大丈夫に決まってる。

「ちょ、ちょっと布が少ないけど、リストーマくんのためだもん」

 見えすぎは恥ずかしいけど、魅了できるならがんばる。

 あたしのこと少しは覚えててくれてるかな?

「あ、来た……。いきなりは驚かせちゃうよね」

 ちょっと様子見。

 って、あれ……? リストーマくん……?

「あ、外とかは大丈夫?」

「外? 大丈夫だよ! あたしはお外大好き! ふんっふんっ! んー! 気持ちいいね」

「よかった。特になんともないみたいで」

「それはもちろん。ずっとダンジョンだから、そんなに出たことないけど、お外のが好き。……その、ありがとね!」

「うん」

 …………。

「えっと、誰……?」

 また女の子? あの時の子? 

 いや、いやいやいや、新しい子!? 新しい子だよね! あの子! ね!

「え、ちょ待って。ちょっと待ってちょっと待って? 違う。あの子は違う。明らかに人間じゃない子。魔族かも怪しい。ツノがあるけど、しっぽがフラータの知ってる魔族とは全然違う。あれは……ドラゴンの女の子!?」

 いや、いや待って。

 ドラゴンって、お宝に囲まれてるって話のあれだよね? しかも、過去に魔王軍だけでなく、人類も半壊させられたって話もある、あの伝説的な存在のドラゴン?

 フラータたちのところでも伝説として語られてるだけの存在なのに、ダンジョンにいたの!?

「ダンジョンって、なんなの……?」

 でも待って。しっぽはドラゴンのしっぽに似てるけど、どう見ても女の子だよ?

 ドラゴンの姿って、あの空を飛ぶトカゲみたいなあれじゃないの? 女の子の姿をしてるんだっけ? そんな話なかったよね?

 またパパの情報不足?

 いや、待って。それどころじゃない。

「……。ね、ねえ」

 くいくいっと服の裾を引っ張っている女の子。

「ん?」

 リストーマくんが振り向いたタイミングで、女の子は腕を広げた。

「人の多いところに行く前にぎゅってして。さっき、あたししかしてなかった」

「いや、ちょっと恥ずかしい」

「……うぅ」

「わかった。わかったから!」

「本当?」
「うん。でもどうして」
「まだちょっと怖い」

「今から行くところは怖いところじゃないよ」

「うん!」

 明らかにしなしなしてたのに、女の子は急にぱあっと顔をかがやかせた。

 なんだか、見てるだけでもかわいらしい子だ。

 ドラゴンと言われるような怖さがない。

 うらやましいけど、嫌な気がしない。

「ぎゅー! はいっ! これでいい?」

「うん! 嬉しい! リストーマ大好き!」

「はいはい。ドラゴンって甘えん坊なのかな?」

「ふふふっ! ふふふっ!」

 ぎゅってしたうえに、ぽんぽんと頭を撫でてもらって、やっぱりうらやましい!

 で、でも。わがままに応えてあげてるだけみたいだから、別に、あの子が本命じゃない、でしょ?

「そ、そうそう。フラータは別に出遅れてなんかないから、フラータは大丈夫」

 ……。

「ちょ、ちょっと待って? どういうこと? あんなことするの? しないよね? あ、あわわわわ。しかも、想像以上にすごい相手になつかれてるんじゃないの? り、リストーマくんって! まさか、人の中での王様とか? 人間王? 人王? と、とにかく、そんな力の持ち主だよ! 絶対」

 やっぱり、魔王軍じゃなくても力が強いと惹かれるものなの?

 だから、あんなに女の子がついてきてるの?

 せっかく今回はしっかりとおめかししてきたのに、リストーマくんのために人間を魅了できる服装で来たのに。

 一対一でお話しできる時っていつなの!?

「うぅ。いつがいいの? やっぱり今? ……あれ。リストーマくんたちいない……」

 さっきまでダンジョンの入り口の辺りでぎゅってしてたのに、いなくなってる。

 帰っちゃったかな?

 ぐだぐだしてたら、しょうがないよね……。

「きみ、こんなところでなにしてるの? あれ、きみ、どこかで……?」

「キャー! あ、あの。これは違うの。その……」

「リストーマの知り合い?」

「えっと……どこかで会ったような……」

「ば、ばいばい! あなたもばいばい!」

「ばいばーい!」

「あ、ちょっと! フラータ、だっけ? 気をつけてね!」

 ……!

 もう、これだけで十分。
 フラータは幸せ。

 名前を覚えていてくれただけで、見た目を覚えてくれただけで、フラータは当分がんばれる。

 でも、かっこよすぎ。やっぱり会えない。今は会えない。

 ムリムリムリ!

 ……あーあ。話しかけてくれたんだけどな。

「……行っちゃった。心配してくれてたのかな?」



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