世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第15話 発見:神ノルキー視点
観察対象は、どうやら自らより大きな男を相手に、剣の腕で勝ったようだ。
あの様子だと、まだまだ伸びしろがある。
潜在能力からして、人間としてはかなり上位の存在と見てよさそうだ。神かと錯覚するほどのことをやってのけただけはある。
普通の肉体で同じことをやろうとすれば、処理しきれずに焼け焦げていただろう。
「あれか……」
「あれだねー」
「どうしたものか」
「ねえ、こんなところいたらバレない?」
「人間の視力では、地上からこの場所は見えない。他の存在になら気づかれても問題はない。そもそも、気づかれそうになったなら、その時は感知して移動すればいい」
「ふーん?」
ワタシは今、かなりの高度から人間たちを見下ろしている。
地上で観察してもよかったのだが、いかんせんきまぐれに生活環境を変えしまっては、観察どころではなくなってしまう。そのため仕方なくだ。
あまり高い場所に慣れていないのか、悪魔は震えながらワタシにしがみついている。
「…………。どうしてついてきた」
「それはもちろん、あの子をアタシの配下にするためだよ。……ま、逃げても自由がないから逃げてないんだけど……。そっちこそ、視界はもう戻ったはずなのに、どうしてここまで?」
「さあな……」
戻ったとはいえ、また戦いの最中にスキルを使われてはかなわん。
それに、本当に悪魔の配下にされては、ワタシでは対処できなくなるかもしれない。
「もしかして、アタシのことが好きになっちゃった?」
「なわけあるか」
相変わらず攻撃が当たらないが、かといって悪魔のことを見逃したつもりはない。
腹立たしいが、この悪魔を倒すには、あの人間の協力が必要だろう。
人間である以上、ワタシ以外の神の力ではなく、人間のスキルということになる。ワタシに効いた理由がわからないが、視界を上書きする程度だからこそ、力が強かったのかもしれん。
「しっかし、見たところ、今の戦いじゃ使わなかったみたいだね? 人違いじゃない?」
「そうかもな」
「あ、もしかしてわからなかった? やっぱり神様は大雑把だなー」
「どうだろうな」
「もー真剣に話してよー!」
こいつとまともに話しても仕方ない。
「きっと、今回は使用範囲を制限していたんだよ。アタシやノルキーちゃんに影響はなかっただけで使ってたはず。そうじゃないとあの展開はおかしいもん」
どうやら見抜いていたようだ。
「どう? すごいでしょ?」
「そうだな。……有効範囲をコントロールできるということか……?」
ならばどうして、あの時はむやみやたらに能力を使ったんだ? 広範囲に使い必要があったのか?
いや、人間の考えることはわからないな。
「能力もだいたいわかってきたし、どう行こうかなー」
「待て。ここで出ていくバカがあるか」
「えー? そんなすぐに行くわけないじゃん。まさか本気で出ていくと思ったの?」
「貴様に下手に行動され、ワタシまで警戒されると厄介なだけだ。神や悪魔がまことしやかにしか語られていない以上、そのままの姿で出ていくのは避けるべきだ……」
「へー? ノルキーちゃんって案外奥手なんだね。でも、意外と信じてくれるものだよ?」
「オクテ?」
なんだか煙に巻かれているような気がするが、人間の生態に関してワタシは詳しくない。
悔しいが、悪魔の方が人間については詳しいだろう。
倒そうにも倒せずうっとうしい。かと言って見失って自由にさせるわけにもいかない。
拘束して放置しようにもこの悪魔なら抜けかねない。
どうにか動きを止めておけるといいのだが……。
「なんだか考えてるみたいだし、思ってたより行動までが遅いんだね。ま、いいや。それじゃあノルキーちゃんがアタシにお手本を見せてよ。悪魔のアタシじゃ、ムズカシイことはわかんないなー」
「ほう? 先を譲ると?」
「そうそう。見せてよ。見ればわかるでしょ?」
「ならば、動くなよ?」
「大丈夫だよ。アタシが悪魔だって知ってるでしょ?」
「まさか、ワタシが悪魔のルールを使うことになるとはな」
悪魔の契約は悪魔にとっては絶対。
もしやこれは、倒せないことのヒントか? いや、どうだろうな。
「アタシが誰かとすでに契約してるから倒せないのかもしれない?」
「そうだな。だが、どうだろうな?」
「どうでしょう? でも、その通り。アタシは契約を破れない。動いたらお望み通り、アタシは存在そのもの、何もかもが抹消される。だから、おとなしく見てるよ」
「いいだろう。貴様よりも先に、ワタシがあの人間を手にして見せるさ」
「がんばれー」
取り決めが行われ、見えない鎖で悪魔の体は拘束された。
契約を破棄できるのは悪魔と契約を交わした方のみ。
踏み倒すヤツもいたらしいが、悪魔が相手だ。悪魔に同情はしない。
さて、計画からだ。人間は賢い。だが、あまり理解の及ばないことをしても通らない。
「……どうするのがいいのやら」
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