クラス転移でハズレスキルすら出なかった俺、山に捨てられる〜実はここまで俺を独占したい女神の計画通りらしく、スキルを超える『溺愛』の権能を与えられたので、悠々自適に暮らします!〜第11話 家がほしいです
一日目は良かったが、味がない肉なので食べ切るのがキツくなってきた。
少し時間がかかるとかではなく、食べないといけないから仕方なく食べるような感覚だ。
最初は気にしないでいられたが、臭みのせいのせいもある気がする。
「いやー。俺は河原と違って料理はしないが、調味料って大事なんだな。異世界に来て思い知らされるとは思ってなかった」
「そうでしょうね。あたしも実感したけど、日本では過剰なくらい使われてるんだなって思い知らされたよね」
「ちょうみりょう? お肉は美味しかったけど?」
まあ、知らなかったらこんなものだろう。
現地人ならまだしも、味覚すら初めてらしい神様はおそらく食べられるというだけで新感覚なのだろうし。
日本は飯がうまいのだな。仕方ない。仕方ない……。
「なあ河原」
「家事をとても便利な何かだと思ってない? 塩の見つけ方なんて知らないし、海もないし、そもそも家事の一環で塩探さないでしょ。」
「だよな。水があって、食料も取ってきてくれて。あとは雨風しのげる建物があれば、塩についても考える余裕も出てきそうなものだが。最悪コショウでもいい」
「コショウは余計ないと思うけど、確かに家は必要でしょうね。まだ、雨は降られてないけど、降られたらどうしようもないものね」
「この辺、雨宿りできそうな場所もなさそうだしな」
「ワウ!」
「ん? 励ましてくれてるのか? ありがとな」
まあ、今はバシィたちにくるまって寝ているが、オオカミで取れる暖にも限界があるしな。
あんまり寒さが厳しい山じゃなくてよかったが、そうは言ってもこのままではいかん。
「掘ってしまえば家ってことにできるのか? いや、無理だな。土じゃ固められないし。となると木の家か?」
「オノとかあるの?」
「ない。そんなもの持ってない。ここは家事で」
「木なら道具があれば家事に含まれてるのかもしれないけど、素手じゃ無理だから」
「DIY」
「素手じゃ無理だから」
「だよなー」
オオカミたちは肉を取ってくることはできても、家を建てることはできないだろうし。
そもそもここまで移動してくる最中に人らしき影や小さな小屋みたいなものすら一つも見なかった気がするし、集落とか作れないような場所なんだろうな。
いっそ諦め、いやいや、可能性を探究してこそ人間だろう。
「なになに? ここらの木を倒せばいいの?」
「倒すって言うか。まあ、初めはそうだけど……フェイラは魔法とか使えないんじゃないのか?」
「そうそう。道具がないからできないって話。そうだ。フェイラさんは知らない? あたしたちの世界ではオノって言うんだけど」
「うーん。見たかもしれないけど、持ってはいないかな。でも、倒せばいいならちょっと考えがあるよ。みんな離れてて」
実は何かできるのか、フェイラは木の幹を撫で出した。
俺たちはフェイラから少し離れて様子を見る。
そうして見守っていると、フェイラは握り拳を引いて勢いよく突き出した。何かを出したりするでもなく、ただ、ゴンッ! と大きな音が鳴るほどの威力で木を殴りつけた。
きのみでも落ちてくるのかな。と思って見上げていたが、ガサガサガサッ! と上の方で木の葉がこすれるような音がすると、木が勢いよく倒れてしまった。
「……」
「これでいいの? これがさっき言ってた家?」
「いや、これじゃ家じゃないから。でも、木を殴り倒せる普通の女の子って……」
「神様だからね。魔法も権能もなくても、身体能力くらいはこの体に残ってるよ」
笑顔でガッツポーズするフェイラ。
うーん。こりゃ恐ろしい。
「ねえ、あれ本当に大丈夫なの?」
「敵意はなさそうだし大丈夫だろ」
「二人って仲良いよね。あんまり好きじゃないのかなと思ってたんだけど」
「す、好きっ!?」
動揺しすぎだろう。小学生じゃあるまいし。
「ただのクラスメイトだよ」
「そ、そうよ! べ、別に特別な関係じゃ、ないんだから」
「ふーん?」
なぜ怪しんでいるのか知らないが、俺と河原はただ一緒に生き残っている間柄なだけだ。
と、謎に隣でしょんぼりしている河原をよそにシャキン! シャキン! と剣で切るような音を立てながら、ズシンズシンと地面が揺れる。
あっちこっちでバシィたちマウンテンウインドウルフが尻尾で木を切り倒していた。
こいつらにしても尻尾で木が切れるとは……。
「あはは! わたしの真似してるよ」
そういうものだろうか。
いや、でも木があっても肝心の家を作ることはできないんだがなぁ。
ポジティブに考えれば素材は用意できた。
「あとは家だな」
「アウアウ!」
「バシィ、何か知ってるのか?」
また背中に乗れと案内しようとしてくれてるように見えるが。
「毎回全員で移動するってのもな」
「うーん。じゃあわたしが行ってくるよ。ここに戻ってこられそうなのはわたしが一番可能性が高そうだしね。その間二人ともイチャイチャしないでよ?」
「「しないわ!」」
「わたしの力はそういう力だからね。一応ね。ほいじゃ。あ、でもリュウヤ。ユキちゃんのことは守ってあげてね」
「それは、当たり前だろう」
「ふふ。いい感じだね」
なんなんだろうあの女神は、変なこと言って。
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