世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第27話 弱いヴァンパイア
"《セスティーナ》気をつけてください。この辺りは、様子が変です。正確な情報ではないですが、伝承として伝えられている話によれば、死霊が出るとか"
「し、死霊ですか!?」
"《セスティーナ》あ、あまり大声を出しては刺激してしまうかもしれません"
「……は、はい」
ダンジョンも以前より深くまで進み、明かりを自分で確保しなくてはいけなくなってきた頃。
姫様の言う通り、いつの間にか周囲が不気味な雰囲気に包まれている場所に来ていた。
意識したら背筋がゾクゾクしてきた。鳥肌が立つような空気の冷えた感じもするし。
「こんな場所があったんですね……」
"《セスティーナ》私も目にするまで完全に忘れていました。それに、おとぎ話とばかり思っていましたし"
「なるほど。だから、伝承ですか」
いかに雰囲気があっても、まだ何も起きていない。
また姫様を心配させすぎては悪い。
「気をつけます!」
"《セスティーナ》は、はい。気をつけてください。あ、でも、ここから少しの間は薄目でいいですからね?"
「はい……?」
とは言え、薄目だと何も見えなくなってしまうので、そのまま見ることになるのだが……。
"《セスティーナ》骨!? 骨です。骨! 気をつけてください"
「わっと!」
言ったそばから何かが出てきた。
相手は、地面から出てきた骨。
力任せになぎ払う。
"《セスティーナ》骨っ。骨っ!"
「だ、大丈夫です。急いで倒しましたから」
"《セスティーナ》ほ、本当、ですね……。すみません。取り乱しました。恥ずかしいです"
「いえいえ。もう、大丈夫ですよ。ふぅ……」
姫様、ディスガイア・フォックスを倒した時は大丈夫そうだったのに、骨はダメなんだ。
今の雰囲気も苦手みたいだし、急いでここを抜けるか。
"《セスティーナ》ま、まだです! 違います。あの、えーと。とにかく油断してはダメです。確か完全に破壊するまで。いやー!"
「せ、セスティーナ!? うおっと!」
姫様の悲鳴があったから気づけた。
僕のいた場所を、巨大な腕の形をした骨が押しつぶしている。
そんなところに追撃で、石の剣を持った骸骨たちが、次々と骨に向かって剣を突き刺している。
"《セスティーナ》大丈夫ですか? 大丈夫ですか?"
「大丈夫です。セスティーナのおかげで助かりました。ひとまず落ち着いてください」
"《セスティーナ》そうは言っても、見ないということができないもので……"
そうか、僕が目を閉じないと姫様は目を閉じることもできないんだ。
僕の力は僕の視界で上書きするから、いくら姫様が目を閉じても意味がない。僕が見ている光景を延々見続けさせられるわけだ。
なら、僕がすみやかに対処するだけだ。
骸骨たちが、回避した僕に気づき始めた。そこから攻撃に転じる前に即座に反撃。
袋の中でも動かれるとなるとさすがに今回は持ち帰れない。
今度は骨を確実に砕く。
「カタカタカタッ!」
「せいやぁ!」
骸骨たちを片っ端から粉砕していく。
これで、動き出すことはないはず。
これが僕にできる精一杯の祈り。死霊というなら、これで安らかに眠れるといいけど……?
あ、焦ったぁ。
びっくりしたぁ。
「ちょっと休憩にしましょう。情報を整理したいです」
"《セスティーナ》危険じゃありませんか?"
「大丈夫です。近くに魔獣の気配はありませんから」
"《セスティーナ》油断はしないでくださいね"
「わかってます」
一応骨から距離を取り、少し歩いた先の壁に寄りかかる。
だが、目測を誤ったのか、いつまで経っても壁に背中がくっつかず……
「あ、あれっ!?」
「お帰りなさ……ひゃっ!」
「いったた……」
女の子がスカートを押さえながら飛びのいたように見えた。
何が起きたのかわからず、ぶつけた背中と頭をさする。
いや、なんで僕は背中から倒れているんだ!?
僕は確かに壁に寄りかかろうとしていた。それなのに、気づくと開けた場所。
そして、色の白い、いや、顔が赤くなってようやく人並みな顔色になった、血色が悪い女の子が。
「きゃあああああ!」
「あ、ちょっと! いきなり何するのさ」
悲鳴を上げながら手に持っていたもので突然襲いかかってきた。
僕が回避すると、今度は腕をグルグル振り回しながら迫ってくる。
僕は、すかさず女の子の頭に手を当てて接近を止める。
うん。動かない。
"《セスティーナ》色々と聞きたいことは山ほどありますが、もしかして、ヴァンパイアじゃないでしょうか"
「え、ヴァンパイア?」
それは、僕の知る話と違う。
「ヴァインパイアってもっとこう。怖くて、強くて、恐ろしいんじゃ……?」
そう、目の前の女の子が本当にヴァンパイアなら、弱すぎる。
"《セスティーナ》もしかして、嘘で身を守っていた、とか……?"
「な、なるほど」
確かにそれなら納得だ。
しかし、そう思うとなんだか急に申し訳なくなってくる。
嘘で身を守らないといけない。そんなになっているなんて……。
「あの、弱っているようですし、このままでは生き残れるか心配です。それに、言葉が通じそうなので、少し事情を聞くためにも連れ帰っていいでしょうか? 情報のためにもなると思いますし」
"《セスティーナ》…………"
返事がない。
姫様、迷っているのかな?
確かに、目の前の女の子は弱そうなふりをしているだけかもしれない。
もしそうなら危険だ。そう。演じているだけだったら……
「僕が暴れさせません。困っている女の子の事情くらい、聞いてあげるべきではないでしょうか」
「え……」
女の子も動いて体温が上がったのか、赤い顔で驚いたように顔を上げた。
僕にはその顔からは、悪意があるようには見えなかった。
"《セスティーナ》わかりました。その代わり。安全第一ですよ?"
「はい!」
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