スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第7話 その後のサーカス2

「なんであたしがこんなところに残らなきゃいけないんだろう」

 サーカスの練習風景を見ながら、あたしは思わずため息をついた。

 あたしから見ればドーラ以外のレベルが低すぎるサーカスは、ドーラを失い子供のお遊戯会の様相を呈していた。

 いや、まだ子供のお遊戯会の方が見ていられる。可愛らしさがあるから。

 手を抜いてやってるポーズだけしている人しかいないショーなんて誰が見たがるだろう。

「これがかつて名を馳せた有名サーカスなのかな?」

 あたしは昔のことが信じられず再度ため息をついた。

 早く明日にならないだろうか。

「どうしたんだい? ため息なんてついて」

「はは。なんでもないですよ」

 リーダーに話しかけられ、あたしは愛想笑いを浮かべた。

「このメンバーはリーダーが集めたんですよね」

「ああそうさ。自慢のメンバーだ」

「今まではもっと色々な人がいたと思うんですけど」

「そうだな。癖が強く、でも優秀でまとめるのに苦労したよ。だが、彼らは必要なくなったんだ」

「必要なくなった?」

「もちろんだとも、俺たちが要求する演技レベルに到達しなくなったんだ」

 あたしの思い違いでなければ、リーダーのゴルドが主にメンバーを自主退団という形に追い込んでいたのだった。

 そしてどこからともなく変わりの女性を見つけて来てはサーカスに取り込んでいた。

 気づけばドーラもいなくなり、ゴルド以外は女性のサーカスになってしまった。

 そのドーラの後釜としてカフアという子が入っていた。

「邪魔なドーラもいなくなったんだ。そんな表情をしないでくれアリサ。君はこのサーカスのアイドルなんだから」

「はは。そうですか」

 ここで反論することはドーラの望んだことじゃないはずだ。あたしはことを荒立てないように冷静にゴルドを見た。

 なんだかいつも馴れ馴れしく接してくるこの男は、一応このサーカスのリーダー。

 あたしも小さい頃から年が少ししか変わらないのに、活躍している姿を見てきた。

 実力の差を見せつけられるたび、もっと頑張らないとと奮起させられたが、今では見る影もない。

 いつの間にかただ顔がいいだけの男に成り下がっていた。

「今日は練習服なんだね」

「そうですね」

「いつもの華麗なドレスもいいけど、シンプルな姿も君の美しさを引き立てるね」

「はは。ありがとうございます」

 褒めているのだろうか。いちいち感に触る男だけれど、あと一日の辛抱だ。好きに言わせておけばいい。

「ところで今日はもう練習はいいのかい? 休んでいるようだけど」

「ええ。明日に備えて体力を温存しておきたくて」

「それはそうか。なんてったって明日は俺たちにとって大事なステージだからね」

「え?」

 明日、何かゴルドにも大事なことがあったのだろうか。

「明日はこの街一番の会場で行われるショーの初日じゃないか。しっかりしてくれよ」

「ああ。そうでしたね」

 そうだった。今日一日ドーラのことばかり考えて忘れていた。

 いや、ドーラをクビにする話が出てからか。

「おいおい。余裕ってか? それくらいでいてくれてもありがたいが、本番では忘れないでくれよ?」

「大丈夫ですよ。あたしは必要ないですから」

 そう、あたしは出るつもりはない。

「そんなこと言わないでくれよ。ここでのショーが成功するか失敗するかで、それがサーカスの今後を占うと言われるほど大きなステージなんだぞ? それに、俺には相棒としてアリサが必要なんだからさ」

「そうですか。でも、なおさらこのタイミングでドーラをクビにしてよかったんですか?」

「ああ。やっぱりそう思うか?」

 さすがに人の心を持っていたのか、気にするようにゴルドはうつむいた。

 しかし、何故か急に吹き出すと高笑いを始めた。

「いいざまだよな。ここ最近出番がなく、次のステージこそと思いをかけ、大きなステージを目前に控えていたわけだろ? それが、ベンチにすら入れずサーカスを追放されるなんてさ。俺なら耐えられないよ。きっと最高のダメージを与えられたね」

 最高に面白い芸を見た後のようにゴルドは大笑いしている。

 どうやら演技でなく心から笑っているらしい。

「いや、そうじゃなく」

「大体あいつは身分も考えずにアリサと仲良くしすぎなんだ。馴れ馴れしくしやがって。嫌だったろう? 正直に言っていいんだぜ? 全員に優しくする必要なんてないんだ」

「だから」

「ははは。明日のステージが楽しみだ。きっとどこかで泣いてるか。もしくはもうくたばってるかもな。なにせ何も持たせないよう、ユラーには俺が根回ししといたんだから」

「それ、本当?」

「え?」

 低い声を出して、にらみつけてしまってから、あたし顔を振って再び笑顔を作り直した。

 ゴルドの様子からしてもう手遅れかもしれないが、今さらどうだっていい。明日はあたしにとっても重要な日なのだから。

「なんでもないです。明日頑張ってくださいね」

「おう。今までの最高を見せてやるさ」

 あたしの反対を押し切ってまでドーラをクビにしたのだし。もうここに用はないかな。

 わざわざ自分たちの首を絞めるようなことをしている人たちには付き合っていられない。

「明日も早いので、今日は休ませてもらいますね」

「ああ。もちろんだとも。存分に英気を養って、明日に備えてくれ。なにせ明日は」

「わかりました。では失礼します」

「まだ言ってる途中だが、ああ。休養の方が大事だな」

 微妙な表情でリーダーは笑っていた。

 さて、あたしは荷物をまとめて辞表の準備でもするかな。

 あとは少しくらい小道具をもらっていってもいいだろう。

 あたしの使っていたものはあたしのものなはずだ。

「おっと。そうだ。今日はまだ、合体魔法の練習をしていなかったじゃないか」

 なんでそんなものをと思ってから、あたしはため息をついた。

 ゴルドは水系魔法を使うため、氷系魔法を使うあたしと相性がいいと思っているらしいのだ。

「リーダーなら大丈夫ですよ。あたしがいなくてもなんとかできるんでしょう?」

「まあ、最悪の事態を考えればそれもそうだが、練習しないならしないで調子を確認できないじゃないか」

「それなら本番前にやったらいいんじゃないですか? 今日と明日じゃ違うでしょう」

「それもそうだな」

 何故か納得したようにゴルドは笑っていた。

 まあ、納得してくれたならそれでいい。

 ドーラの力も見抜けないのにリーダーをしている。この人は何故こんなにもあたしと対等みたいな顔をしていられるのだろうか。

 そんなこと考えても仕方ないか、もうこの場所にあたしがいる意味はないのだから。

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