世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第9話 剣聖暴走

 ケガが治ったのに、未だに城内で生活させてもらっている。
 なんだか申し訳ない。

「お身体の調子はいかがですか?」
「もう大丈夫です。むしろ、こんなに元気になったのに居座っててすみません」
「いえ、いいんですよ。お気になさらないでください。むしろ、ここを実の家だと思ってもらっても結構です」
「さすがにそれは……」
「そうですか? でも、謝るのは私の方です。すみませんでした、勝手に決めてしまって」
「えっと、大丈夫ですよ? 剣聖のことに関して、僕に決定権はありませんから、むしろありがたいです」
「あ、えっと、その……」

 勝手に剣聖に与えた罰のことだと思ったのだが、なんだか口ごもっている姫様。

 もしかしたら違ったのかもしれない。

「あの、勝手に決めてしまったのは他のことで……。その、もしよろしければ、本当に私の兵として働いていただけませんか?」
「いいんですか!?」
「もちろん、リストーマ様に差し支えなければですが。問題なければ、お願いしたいのです……けど……」

 どういうわけか僕の様子をうかがうように姫様は上目遣いで見上げてくる。

 こんなこと、頼んだって僕みたいな人間に任せられることじゃない。
 そもそも、いつまでも何もしないで城に置いてもらうだけというのも僕としては心苦しい。

 今の実力は、きっと求められているものよりずっと低いだろうけど、いつか実力が届くような男になってやる。

「僕だってセスティーナがいいならやります。喜んでやらせていただきます!」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。やらせてください」
「ありがとうございます!」

 僕の手を取り喜ぶ姫様に、思わず頬がゆるんだ瞬間、何かが爆ぜたような大きな音が遠くから響いてきた。

 王都近辺は、爆発する特性をもった魔獣がそこらで爆発するような場所ではない。
 しかし、遠くからだが聞こえてきた。聞き間違いじゃない。確実に何かあったはずだ。

 となると警戒は必須。だが、正確な場所がどこかわからない以上、対策を打つのは難しい、か?

「なんでしょう」
「なんですかね」

 窓の外に目をやると、土煙がもうもうと立ち上る様子が目に飛び込んできた。
 いつも冷静な姫様も、平時なら起きないことに困惑している様子。

「あそこは剣聖の家があった近くですね。それだけでなく、近くに剣聖がいるようですが……」
「どうして……? 剣聖が出るような魔獣はこの近くにはいないはずですよね?」
「ええ。本来なら、王都を拠点としながらも、伝説のように語られるほど様々な場所へと向かい、多くの問題を解決する存在のはずなのです」

 僕の知る剣聖とは似ても似つかない。僕としては朝から酒を飲んで、僕を叩いていた記憶しかない。
 実力を明らかに持て余し、暴力の限りを尽くしていた印象。

 そんな今の剣聖が、一体どうしてこんなことを。

「もしかして、魔獣の突然変異?」
「それはあり得ないと思います。さすがにそんなことが起これば気づけるはずですし」

 もう一度爆発音。

 先ほどよりも距離が詰まり、外を見ていたこともあり、爆発の発生源が直に見てとれた。

 剣の輝き、速度、威力。どれも剣聖のスキルによるものだと遠くからでもはっきりとわかった。

「本当に、どうして……?」
「……もしや、外から迫ってきていた気配と同じ? しかし、剣聖は外にいなかった。では、迎え撃っている可能性……。いやそれもなさそう……」
「何か心当たりが?」
「いえ、少し考えてみたのですが、おそらく違うと思います。どうしましょうか」

 音は少しずつだが確実に近づいてきている。何も知らない人たちの騒ぎも、近づくに比例して大きくなっている。

 剣聖の剣による攻撃は、地面に放てば人に恐怖を与える一撃へと変わる。

 次第に、音だけでなく揺れまで届くようになり、ますますパニックは広がっている。

 きっと、姫様が僕を兵にしながら命令をくれないのは、僕の気持ちを尊重してくれているからだ。僕が、前と関わらずに生きていればとか言ったから、決別の覚悟を決めきれていなかったから。

「セスティーナ。僕はセスティーナのための兵です。セスティーナのことを傷つけさせるわけにはいきません」
「……覚悟を決めてくださるのですか?」
「はい。これ以上、剣聖の身勝手を見過ごすわけにはいきません。ただ黙っているのは、セスティーナの兵としてふさわしくないと考えます」
「では、今より剣聖討伐隊を結成し、討伐に向かわせましょう」
「いえ、そのことについてですが」
「はい」

 不思議そうな顔。

 確かに、剣聖を相手取るのであれば、国を挙げて対処しなくてはならない。

 それこそ、本能のままに大量殺戮を繰り返す魔獣を討伐するような、大きな組織を結成して向かわせる必要があるだろう。
 だが、それでも、どれだけの人が助かるかわからない。もしかしたら、相打ちかもしれない。
 僕は、剣聖のせいで人が死ぬのを見たくない。

「剣聖の相手は僕にさせてください」
「しかし……」
「ご心配ありがとうございます。ですがこれは、僕がどうにかしないといけないことだと思うんです。僕が一番、剣聖を知っているはずですから」
「……」

 迷うように困ったように姫様は視線をさまよわせている。

 姫様はやはり優しい。

 こんな時でも僕の身を案じてくれている。だからこそ、僕はこの姫様のために剣聖を無力化する。
 剣聖も人、そして、あくまで剣聖なのだ。やりようはある。

 僕がまっすぐ姫様の目を見つめていると、姫様も観念したように優しく笑みを返してくれた。

「……。わかりました。剣聖の相手はリストーマ様にお任せします」
「ありがとうございます」
「例を言うのはこちらの方です。しかし、危険と判断すれば増援を向かわせます」
「無理を聞いていただいたのです。理解しています」
「それと、戦闘後の処理は我々に任せてください。そこまでリストーマ様に任せるわけにはいきません」
「お任せします」

 被害は最小限に収めるつもりだが、きっと接近禁止より大ごとになってしまう。

 だが、剣聖が先に動いたのだ。

 僕がやるんだ。

「……剣聖ともあろうお方が、ここまで堕ちるなんて。リストーマ様は素晴らしい方ですのに、子に手をあげたうえ、ダンジョンに捨てるなんて、人格を疑います……」

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