スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第28話 知り合いと遭遇
アリサが考えた練習を終え、俺たちは雑談をしながら街をうろうろと歩いていた。
一度ギルドに立ち寄ったものの、ブリザードドラゴンの討伐報酬はもらえなかった。
氷結の洞窟からドラゴンはいなくなったものの、何かその成果を得られたわけではないため、今回は情報提供料がもらえるだけ、ということになった。
しかし、額が多くなるため、森の主の残りの報酬と合わせて、受け取れるのは後日ということらしい。
ついでにアリサの冒険者登録も行ったが、やはり、登録初期としては別格のステータスをしていたらしく騒ぎになった。
「抜け出してきてよかったの? もう少し騒ぎに乗っかってもバチは当たらないんじゃない?」
「いいの。話のタネはあげたでしょ? ならあたしの役割は終わりよ」
なんだか、俺が混ざって馬鹿騒ぎしていたことを咎められている気がするが、気にしないでおくとしよう。
しかし。
「アリサが出てくるのはわかるけど、みんなで出てくるなんてね」
「今日はさすがに騒ぐ気分になれないからな」
「リルさんの言う通りだ。あんまり連日騒ぐだけなのもな」
「二人ともそう言いつつ、お金を使い切ったんじゃないの?」
二人ともマイルの指摘が図星なのかダンマリだ。
いや、これじゃあ何も状況は解決しないんじゃないか?
「財政が厳しいんですか?」
「いや、その。あれだ。練習の後だから控えただけだ」
「そうそう。リルさんの言う通りだから」
言葉を連ねるたび、二人が墓穴を掘っていくのがわかった。
これはあれだ。アリサの世話焼きが発動するやつだ。
俺はそう思いながら三人のことを見ておくことにした。
「なら任せてください。これでもあたし、お金の管理は得意なんですよ」
「そ、そうか? だが個人としての管理と組織としての管理は別物だぞ?」
「大丈夫ですよ。前のサーカスにいた頃から、少しくらいは知識もありますから」
「うーん。なら、任せてしまおうか」
「いいんですかリルさん。それじゃきっと自由に使えるお金が減っちゃいますよ」
「いや、しかし、このままを続けていてもどうせ自由に使えないし」
「大丈夫ですよ。全部が全部きっちりした使い方にはしませんから」
「ほら、アリサだってこう言ってるぞ」
「なら、いいかな?」
「じゃ、あたしがこれからはサーカス冒険団の財務も担当しますね」
まあ、これで安心だろう。
明日生きられるかわからないより、得意な人間に任せた方が。
俺はさっぱりだが、アリサなら大丈夫な気がする。
「これじゃ、またアリサに追い出されかねないんじゃ」
「だからあたしはそんなことしませんって」
また追い出すとかそんな話を始めたリルとヤング。
不安がる二人を説得するアリサ。
そんな三人を見ていると、ふと頭をよぎることがあった。
「あれ、今までどうやって切り盛りしてきたんだ?」
サーカス冒険団の設備はなんだかんだで揃っている。
お金がないなら売ってしまわないとどうにもならないんじゃないだろうか。
「出資してくれる人がいたのよ」
俺の疑問に答えるように、マイルが言った。
確かに、服に関してはフクララさんがいた。ということは、他にもフクララさんみたいな人がいるということか。
「じゃあ、お金はやりくりできてたの?」
「そうね。道具を買って、芸を披露して、多少回収して、足りなくなったらねだってたの」
どうやら、物好きな人間がいたらしい。
「今は?」
「森の主を倒せたし、うまくいくといいんだけど」
「なるほど。考えどころね」
アリサはマイルの話も聞いていたのか、早速作戦を練り始めているらしい。
まあ、俺よりもお金はもらっていただろうが、貯金ができて俺に渡せるほど貯めてたアリサだ。きっと任せて大丈夫だろう。
ドタドタと大きな音を立てながら、何かが近づく音がする。
どうしたものかと思ったが、俺は放っておくことにした。
この街は騒ぎも一つの芸だと考える。ということを思い出したからだ。
「ドーラ! ドーラ!」
何やら呼ばれた気がして振り返ると、どうしてか見覚えがあるような気がする青髪青目の少女。そして、パンサーがいた。
なぜか街中を少女がパンサーに乗って駆けていた。
あれって、ユラーのパンサーじゃないか?
「呼ばれているぞ。知り合いか?」
「いやー。どうだろう。自信ないけど」
パンサーの方はユラーのパンサーかもしれないが、乗っかっている少女の方がわからない。
ユラーのパンサーを奪った野生児なのか?
しかし、そんな見た目にも見えない。どちらかと言えばおしとやかな村娘のように見える。
俺がゆっくり考えている間にも、少女とパンサーは俺との距離を詰めてきた。
あれ、全然止まる気配がないぞ。このまま行くと。
「あっ」
回避できない。
棒立ちの俺に向けて、勢いよくパンサーと少女が飛び込んできた。
「よかった」
よくない。
俺は少女の豊かな胸に呼吸と視界を遮られた。
「ねえ、ドーラ。この人は誰?」
アリサが耳元で聞いてきた。
そんなこと聞かれても、見覚えはあっても知らない人なんだよなぁ。
それに何より、今はしゃべれないし。
肺活量には自信があるけど、なんだか苦しくなってきた。
「あ、アリサさんもいる」
「え? あたしのことも知ってるの?」
驚いた様子のアリサ。
それみろ。人のこと言えないじゃないか。
「そりゃ知ってますよ。当たり前じゃないですか」
「いや、あたしはあなたのこと知らないけど」
「そんな! ひどい!」
アリサの言葉がよほどショックだったのか、少女はメソメソし始め、すぐに俺の頭に涙がかかってくる。
いや、涙と言うには、なんだかねっとりしているんだが。え、なに? 泣いてるフリして、見えないからって変なのかけられてる?
抵抗しようにも、身動きが取れないせいでどうすればいいかわからない。
「いや、ひどいって言われても本当にわからなくて。ごめんなさい」
「なあ、二人とも本当に知らないのか? 知り合いならいじめるのも可哀想だぞ。それに、このパンサーは二人の仲間だった者のモンスターだろう?」
「そうですけど」
困惑気味のアリサの声。
いや、そろそろ俺を解放してほしいんだが。
「パンサーはわかってボクはわからないの? スライムだよスライム。ユラーさんのスライム!」
「スライム!?」
大きな声が聞こえてきた。
俺も驚き体を震わせたが、ぷるぷるボディには意味をなさなかった。
「実はお願いがあって来たんです」
そのユラーのスライムがおずおずと言ってきた。
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