スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第5話 VS森の主
「ついたぞ」
リルに先導されついたのは森の奥深く。先ほどいたところより、一層多くの草木が生えているところだった。
「大丈夫なの?」
「何がだ?」
「いや、リルさっき捕まってたけど、今度は大丈夫なのかなって」
「大丈夫だ。先ほどは一人だったが、今はドーラがいるからな」
「まあ、頼りにされるのは嬉しいけど」
はにかみつつ、俺は現在の状況を確認することにした。
まずスキル、火吹き芸がブレスへと進化した俺。
次に、どうやら周りの人のスキルを確認したり、強化したりできるスキル、審美眼とやらを使えるリル。
最後に、目の前には周囲を警戒するようにうねうねと動くツタが大量。
「さっきの比じゃないな」
「そうだな。だが、これだけいれば十分だ」
リルはそう言うと、俺の隣から進み出た。
「森の主。私の部下になれ。サーカス冒険団の団員として活躍するのだ」
「え、従えるってそんな感じ?」
「もちろんだ。他にどんな方法があると?」
「いや、もっと相手の要求に応えたりとか、弱らせて説得したりとか、好物を与えたりとか。色々とあると思うけど」
「そんなものは知らん!」
「知らないの?」
しかし、ツタはリルの言葉に反応したようにするすると動き始めた。
「おっ」
まさか反応するとは思っておらず、俺は声を漏らしてしまった。
「だから話は聞こえないんじゃ」
「「あっ」」
だがツタはと言うと、目にも止まらぬ速さで素早く動き、出会った時のように足を絡め取って、リルを宙に浮かせた。
「さっきのことも忘れたの?」
「私は過去とは決別していくタイプの人間だからな」
「カッコよく言ってるけどそれって忘れてるってことじゃ」
リルを人質にとって満足したのか、ツタは俺に向かって襲いかかってきた。
「マジかよ」
それにしても何故だろう。ツタがゆっくりに見える。
俺はしっかりツタの動き把握すると、素早く回避した。
体がいつもより動かしやすい。どうやらリルのスキルはスキル以外にも影響があるようだ。
「無理だったか」
「そりゃ、無理でしょうよ。さっき耳はないって言ってたじゃん。あれ? でも、それならどうしてこっちを狙えるんだ?」
「空気の振動くらいはわかるのだろう。だから、私たちのいる場所がわかるんじゃないか? ええい。仕方ない交渉決裂だ。ドーラ、私のことはいいから言うことを聞かないツタなんかは無視して本体を狙え。目に物見せてやる」
「やるの俺なんですが?」
「いいから、行け。これは団長命令だ」
不思議と力が湧いてくる。そのまま自然と奥へと足が進みそうになるが、俺は抵抗しリルの言葉を無視した。
そして、周りのツタを焼き尽くした。さっき助けた時のように、下まで移動しリルを受け止めた。
「リルは俺の団長なんだ。これ以上の手出しはさせない」
「そ、そうか」
「行こう。離れるとなんだか力が弱まる気がする」
「それは、そうだな。私の力の及ぶ範囲は案外狭いからな」
なんだか言葉を詰まらせながら言うリルに疑問を感じながら、俺はリルを抱いたまま走り出した。
奥へ奥へと進むにつれてツタの量は多くなっていく。
口のない植物のせいで理由はわからないが、ツタは俺よりもリルを狙っている。
女性から攻めるとはなんて卑怯なんだ。
「ドーラ。お前、こんなに動けるんだな」
「何言ってるのさ。リルのスキルあってこそだよ。俺はサーカスをクビにされる程度の力しかない。身のこなしだってそんなに高くないんだ」
「そうか? 私には歴戦の勇者よりも動けているように見えるのだが」
「なら、リルはお姫様ってこと? お世辞は嬉しいけど、今の俺は勇者って格好じゃないな」
「ふふふ。そうか。私を姫扱いするか。そんな奴は初めてだ」
「もしかしてダメだった?」
「いいや、面白いと思ってな。なら、これは、親分を救う下っ端の物語だ」
「アイアイサー」
「私は女だ。アイアイマムだ」
「アイアイマム!」
俺は叫び声をあげ、一層素早く狙ってくるツタをすんでのところでかわし続けた。
毛玉のようになっている部分との距離が着々と近づいてくる。
にしても体が軽い。思ったように動けるし、視界がクリアでツタの動きが読める気がする。
こんなに頭が冴えるのは初めてだ。
「あそこだ。あそこがあいつの弱点だ」
十分本体に迫った時、リルは言った。
ツタが絡まり合った本体の、ちょうど薄い部分。
よく気づけるな。これが団長の力。
「それじゃあ、少し驚かせてやりますかね」
「いいや、一番いいのを食らわせてやれ」
「え。従えるんじゃ?」
「いい。方針転換だ。あいつはもうダメだ。思いっきり焼き尽くしてしまえ。最大火力だ。火吹き芸なんかじゃない、本物のブレスをかましてやれ」
「アイアイマム!」
俺は叫び気合を入れた。
火吹き芸としての最大火力。それは、ツタを焼き尽くす火力を持っていた。
今の俺のスキルはブレス。おそらく火力は上がっている。
一瞬で息を大量に吸い込むと、胸の辺りに燃え盛る炎の熱さ。それだけでなく、さまざまな感覚があることに気づいた。
だが、俺は一番熱いものを選び、そして。
「うおおおおお!」
思い切り吐き出した。
「いけえええええ!」
リルの声が乗り、口から吐き出されたファイアブレスは辺り一面を焼き尽くす。それこそドラゴンの息吹のようだった。
自分で新たなスキルに驚きながら、俺は炎を吐き続けた。
これはもうただの火ではない。炎だ。
ツタが慌てたように近づいてくるが、近づくだけで勢いを失いどんどんとしおれていく。
「フハハ。いいぞ。焼き尽くしてしまえ」
何故かテンションの上がったリルに乗せられ、俺は辺りに炎を撒き散らした。
そして、最後の一本が生気を失ったところで俺は吹くのをやめた。
「やったな」
「はい」
「私の見込んだ通りだ。あいつはやましいことがあったから私たちの話し合いを受け入れなかったんだな」
黒焦げたツタの中から出てきたのは、男が一人に女の子が一人。
俺はしっかりと森の主だけを焼き尽くしたようだ。人も無事なら、周りの木も一本たりとも燃えていない。
それだけでなく、眠るようにしている二人は熱さを微塵も感じなかったのだろう。汗ひとつかいていない。
「これで、あいつらもドーラの入団を認めるだろう」
「あいつら?」
尊いものを見るようにリルは黒いツタの中で眠る二人の姿を見ていた。
なるほど。そういうことか。リルが一人でいたことといい。今の表情といい。なるほどなるほど。
二人を助けるために一人で来てたのか。
「何を笑ってるんだ?」
「いいえ、別に? リルって優しいなと思って」
「な、そんなことはない。私はどちらかと言えば粗雑だと言われる方が多いぞ」
「いいや優しいね」
「なんのことだか」
どうやら本気で認めないつもりらしいが、俺の目は誤魔化せない。
ニヤニヤ笑いを浮かべながら、俺はリルのことを見つめた。
「何はともあれ二人を助けて帰るぞ」
「はい」
颯爽と駆け出すリルのあとを俺は走って追いかけた。
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