世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜第36話 大好きだって!?
「ただいま戻りました」
「もどりましたー!」
「お帰りなさ……つーん!」
「ああっ!」
「んあ?」
十分時間は経ったし、姫様の部屋まで戻ってきたけど、これはまた話してくれないパターンの反応だ!
どうしてこう何度も何度も。やっぱり、勝手に出歩くのは姫様の兵としてあるまじき行為だった?
うん。そんな気がする。
どこまで出かけるか伝えてなかったし。
「セスティーナ」
「……」
どうしよう。
「り、リストーマさん。その子は?」
「えっと、この子はドラゴンの女の子で、二人が話している間にダンジョンを探索して連れ帰ってきました」
「ニュードラって言うの! よろしくね!」
「よろしくお願いします。わたしはサーピィと申します」
「サーピィちゃん。よろしくね!」
「は、はい。よろしくお願いします」
どうやらニュードラとサーピィとは仲良くできそうだ。
同じダンジョン育ちだからか、さっそくニュードラがサーピィのほほをつついて遊び出した。
僕よりも警戒が薄そうだ。
これくらいの距離感で姫様とも接してくれるといいけど、僕のせいでまた難しそうだ。
そう言えば、サーピィが何か言おうとしていた気がしたけど、
「ふふっ。って、そうじゃないんですよ。リストーマさん、リストーマさん」
「ん?」
やっぱり何かを言おうとしていたらしく、手招きされてサーピィに近づく。
なんだか、姫様の様子をうかがいながらコソコソとしているけど、姫様に言えないこと?
「服変わった?」
「違います」
「姫様と話している間にキレイになったと思ったんだけど」
「そうですけど、違います」
じゃあなんだろう。
「セスティーナさんには、わたしたちヴァンパイアのことを話して、リストーマさんのことを聞きました。それより」
さらに近づくように促され、サーピィに合わせて少しかがむと、サーピィは僕の耳に顔を近づけてきた。
「……わたしの時もそうなのに、また女の子を連れてきたらこうなりますよ……。セスティーナさんは、リストーマさんが思っているよりも繊細さんなんですから……」
なるほど、姫様のことだからヒソヒソと。
とは言え、繊細さとニュードラのことはどうつながるんだろう?
「ニュードラはいじめられてて、困ってたみたいだから連れ帰ってきたんだ」
「それは見ればわかりますけど……」
「サーピィちゃんの体、ひんやりしてるね」
「そうですか? いや、ニュードラさんは少しおとなしく」
「もちょっと仲良くしたい」
「にゅ、ニュードラちゃん」
「ふふっ。おとなしくしとくー」
なんだか、ニュードラはもうなじんでいる気がする。
でも、姫様は繊細、か。
確かにその通りかもしれない。
いろいろなことに気づくから、僕の心配までしてくれる。
やっぱり、姫様が今のツンとしているのは僕のミスってことだ。
助けたのが女の子のドラゴンだったことはたまたまだけど、きっとそれだけじゃない。
言い訳しても仕方ない。
僕に姫様の兵としての自覚が足りなかったんだから。
「お話終わった? ねえ、リストーマ。あのキレイな子はだれ?」
「姫様。僕を助けてくれた人だよ」
「姫様ー!」
「あ、ちょっと」
「待ってください!」
僕とサーピィの制止の声も聞かずに、ニュードラは姫様に向かっていった。
そして姫様の前にちょこんと座ると小首をかしげた。
「お姫様はリストーマが嫌いなの?」
「え、それは……。違います! そんなことないです」
「じゃあ好き?」
「……」
「やっぱり嫌い?」
「好きです」
「ふふっ! あたしも! あたしもリストーマ大好き!」
驚いた様子の姫様。
僕たちではニュードラはもう止められない。
僕はまたしても失敗したことで、ぶんぶんとサーピィに体を揺らされている。
でも、姫様の言う好きって、兵として役に立ててるってことですよね?
なんだか僕まで恥ずかしくなってきた。
「リストーマはね。あたしの大事なお宝を取らないでくれたんだ。それに、あたしのお宝になってくれたの。でも、お姫様は違そう。本当にリストーマを好き?」
「わ、私も、その……」
チラチラと僕の方を見ながら、姫様の顔が徐々に赤くなっていく。
「にゅ、ニュードラ、こっちに」
「私もリストーマ様のことが大好きです!」
「やっぱり! よかったぁ。それなら仲良くできるね。あたしとも仲良くしてくれる?」
「……! んーっ! はい! もちろんです。仲良くしましょう」
「やったー!」
すかさず抱きついたニュードラの頭を姫様は優しくなでている。
一件落着?
どうやら、すんなりとニュードラと仲良くできたみたいだけど……。
「お姫様いい匂い」
「そうですか? ありがとうございます。ニュードラ様。いい子……。ぜひセスティーナと呼んでください」
「わかった! セスティーナちゃん!」
でも、そうか、しっかり紹介してなかったな。
次からは気をつけよう。
でも、大好き……。
「大好き……? 大好きって……」
やばい。頭真っ白になる。
顔が熱い。
「わ、わたしもリストーマさんのこと、好きですからね」
「み、みんなして……。や、やめてよ。恥ずかしい」
「リストーマ様だけ聞いてるだけなんてずるいです!」
「そーそー! あたしも言ったのに!」
「その通りです!」
やっぱり、僕が悪いのか?
みんなが僕のことをじっと見ている。
好き……。好き、か。
今なら少しわかる気がする。
「みんな、大好きだよ」
感謝の気持ち。
いつも支えてくれる姫様やみんな。僕のことを信じてくれたみんなへの気持ち。
「…………!」
いや、ちょっと何を言ってるかわからない!
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