スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第31話 VSギガンテス
対ニーゼサーカス団。
サーカス同士の団体戦の最中。
俺は。
「『ファイアブレス』!」
最大火力のブレスを吐き出し観客の視線を集め、それからニーゼサーカス団のメンバーを一掃した。
モーケに操られているせいか、普段の動きのキレがなく、誰も抵抗することなく壁際に吹き飛ばすことができた。
「おのれ、こしゃくな」
「戦いが始まってしまえば、有利を取れると思ったのか?」
「ぐぬぬ」
言い返せない様子を見ると、どうやら本気でそう思っていたらしい。
確かに数では圧倒的に劣っているが、無理やり操ってうまくいくほど、ゴルドたちも無個性ではないのだろう。
「しかしあれね。かつては人形使いとして名を馳せた男がここまで落ちるなんてね」
アリサの言葉に、モーケは突然地面を殴りつけた。
「うるさい! お前たちに何がわかる! ワシの、ワシの何がわかると言うんだ!」
「わからない。俺は何もわからない。俺に対する仕打ちも、今やっていることも俺には理解できない」
「なら黙っていろ! 全てワシが正しいのだ。ワシはまだ本気を出していないだけだ!」
最初から本気を出せと言いたいところだが、目の前の光景に俺はすぐには声が出なかった。
「うあっ。ああっ!」
モーケが荒々しく腕を振り上げると、それにつられて一人の女の腕が振り上げられた。
それは、俺のブレスで吹き飛ばされていたユラーの腕だった。
無理やり動かされているせいか、鈍い音を立て、聞いているだけで体が痛む。
そして、服の中を勢いよく探り出すと、一つの小瓶のようなものを取り出した。
「あれはっ!」
驚いたようなスライムの声。
と言うことは、あれが先輩の入ったモンスター封印のツボ。
「いいか。ワシはまだ本気を出していないだけだ。調子に乗ったことを後悔するがいい。本当の本番はここからということを思い知るだろう」
ガハハと笑いながらモーケが腕を振り下ろすと、ユラーも同じように腕を下げた。
小瓶が手から離れ、地面に当たり、砕け散った。
モクモクと煙を上げながら、その中身が姿を現す。
それは、スライムが言ったように今まで見たこともない大きさのモンスターだった。
「さあ、ワシの本気を受けきれるかな?」
にたりと笑みを浮かべると、モーケは先ほどと同じように腕を振り下ろした。
と、同時、今度はギガンテスの腕も俺たち目がけて降ってきた。
「『オールブースト』!」
マイルの支援魔法で全身から力がみなぎる。リルもいるせいか、ドラゴンと戦った時よりもなんでもできそうだ。
まるで家が降ってきたかのような大きさの拳。
だが、ドラゴンと比べてもまるで威圧感がない。
ギガンテスが心から戦おうとしていれば違うのかもしれないが、今は恐ろしいとは思えない。
俺は降りてくる拳に右手を突き出した。
ずっしりとした重量感はあるものの、受け止めきれないほどじゃない。
「そのまま左に受け流すんだ」
「了解」
俺はリルの指示の通りに、ギガンテスの拳を左に投げた。
大岩が落下してきた時のように、地面は大きく揺れたものの、俺たちに被害はゼロだ。
「何っ! なぜ無事なんだ!」
一際大きな声が聞こえてくるが、俺は肩に手を置かれ、意識をリルに向けた。
「ドーラは右へ飛び上がれ、そして、ギガンテスの目だけを目指せ。アリサは魔法の準備、ヤングはギガンテスの膝にナイフを投げろ。マイルは可能なら全員に支援魔法を」
「おし。それじゃ。みんな任せた」
「もちろん。全力で氷を放ってあげるから」
「オレはなんで膝に投げるんだ?」
「いいからやるの! ワタシだって全員に支援するんだから。みんなができることをやるってことでしょ。ほら、ドーラ。任せたわよ」
俺は頷き、全員の顔を見てから走り出した。助走をつけて、できる限り強く地面を踏み込んだ。
体が持ち上げられるような不思議な感覚を抱き、いつもよりも高く跳び上がったことを実感した。
すげえ高い。むっちゃヒヤヒヤする。けど、なんだか不思議と楽しい。
跳び上がったおかげで、操られていながら、ギガンテスが驚いているのもわかった。
「そりゃそうだよな。簡単に潰せそうな大きさのものに、自分の手が投げ飛ばされたんだもんな」
俺だって同じ立場なら驚くだろう。
そこまで考えたところで、急にギガンテスは体勢を崩したようによろめいた。
きっとヤングのナイフが膝に当たったのだろう。
それ以外にもリルの指示で的確に当ててくれているはずだ。
にしても浮遊感が続く。
「俺このままずっと上に行けるんじゃないか?」
とは言え、なかなかギガンテスの顔までブレスが届く距離に至らない。
リルは先が見えている様子だったが、ここからどうするのか。
羽が生えてるわけじゃないし。
「今だ! ドーラめがけて魔法を放て」
「……『ブリザード』!」
リルとアリサの声が俺がいるところまで響いてきた。
今、俺めがけてって言わなかったか?
下を向くと、一瞬で全身にぞわりと鳥肌が立った。
高さにもそうだが、ものすごい勢いで氷が俺を目指してきている。
「いや、狙い正確すぎだろ」
どうすればいい。
いや、なんだ。さっきまでと違う浮遊感。そうか、俺、落ちてるんだ。
なら。
「使えってことだな」
俺は二人を信じることにして、アリサの氷を足で受けた。
冷たさを感じながら膝を曲げ、氷を蹴ってさらに跳び上がった。
ギガンテスが体勢を崩したこともあり、顔は近くなっている。
みるみるうちに遠かったギガンテスの頭が近づいてくる。
「うう。苦しい。苦しい」
スライムやパンサーの言っていることがわかったように、ギガンテスの言葉もわかる。
「お前に恨みはない。だが、今はおとなしくしていてくれ」
俺は浮き上がる勢いのまま息を思いっきり吸い込んだ。
「『オールブレス』!」
マイルのオールブーストもあり、俺は難なく着地した。
まぶたを閉じることも間に合わず、目玉にモロに一撃をくらったギガンテスは、 ダメージのせいか、その場で倒れ込むとモンスター封印のツボへと戻っていった。
「よかった。先輩がみんなに迷惑かける前に無力化された」
安心した様子のスライムを見て、俺もホッと息を吐き出した。
第30話
最終話