家族を殺され、毒を盛られたTS幼女は、スキル『デスゲーム』で復讐する 第21話 これからのデスゲーム

 デスゲームの後処理を済ませた。

 今俺がいるのは、魔物達の食糧保管庫とでも言うべき場所だろうか。

 俺やべフィアが居たダンジョンにはなかったものだが、ダンジョンを掌握し、隣のダンジョンと連結させた時に見つけた場所だ。

 ここで今、ロウキ、ダリア、ベルドルフの三人が起きるのを待っている。こいつら、三人揃ってアホ面晒して眠っている。

 これは比喩でもなんでもなく、そのまんまの意味で、ただ、眠っている。

「んん……」

 いや、どうやら目を覚ましたらしい。

「はっ! 助かった、のか……?」

 まず初めに、ロウキが、大声を上げながら体を起こした。

 それから、ありえないものでも見たようにしながら、呆然としている。

「もう、何よ。うるさいわね……。って、違うわ。あたし……」

 そんなロウキの声に顔を顰めながら、今度はダリアが起き出した。

 そして、すぐに自分の体を確かめている。

「むぅ……。夢か? それとも、ここが死後の世界……?」

 二人の様子をあまり気にした様子もなく、ベルドルフはぼうっと、少し先を見つめている。

「嫌なこと言うなよ。それに、死後の世界なら、こんなに意識がはっきりしてる訳ないだろ。あれは夢だったんだよ。夢」

「でも、それならどうして、あたし達が同じものを見たと確信してるのよ。まだ、内容だって話してないのに」

「それは、そうだな……」

 一通り整理できたのか、三人とも少し落ち着いてきたらしい。

 だが、三人のことを、上から見下ろす俺のことは、未だ気づいていないようだ。

 さて。

「よお」

 俺が声をかけた途端、丸腰の三人は身を起こし、臨戦態勢をとってきた。

「やっと目を覚ましたと思ったら、その反応はないだろ。それともあれか? 本当に助かったとか思ってるのか?」

「……。俺は確かに死んだはずだ。記憶の中ではそうだ。ジン、お前一体、俺たちに何をした?」

「気づいてないのか? でも、助かってないってのは正解だ。そんな訳ないもんな」

 体を確かめ終えたらしいダリアが、ピシッと俺を指さしてきた。

「ロウキだけじゃない、あたしも死んだはずよ。これは、デスゲームのスキルによる、リビングデッドってことかしら?」

「チッチッチ。違うんだなぁこれが。三馬鹿じゃあわからないか。なら、わかりやすく説明してやるよ」

「馬鹿ですって!?」

「まあ、落ち着くのだ」

「あんたも言われてんのよ!」

「……」

 これで大魔導士とか、ガッカリさせられるなぁ。

「何をしたか、だったな。そんなの決まってんだろ? 殺さなかったんだよ」

「は? 何言ってんだ? 俺は確かに死んだ。あれを夢だったとか抜かすんじゃないだろうな」

「そう。夢じゃあない。体感しただろ? 死にゆく自分を。あれは現実だ。臨死体験。アレをお前らに一生体感し続けてもらうために、俺はお前らを殺さなかった」

「……」

「少しは話が見えてきたか? そういうことだよ。お前らは、悔いても悔やみきれない罪を背負ってるからな。失われた命のために、これから苦しみ続けるんだよ」

「どうやったらこんなこと……」

「どうやったら、か」

 確かに、本人が死んだと思っているところを、死なないようにした方法は気になるだろう。

「現にできてるだろ? それでいいじゃないか」

「できてるって、だからどうやってるんだよ!」

「俺のデスゲームって、参加者を瀕死の状態で維持できるんだよ。もちろん、復帰はできないけどな? 要は、参加者の妨害はできないけども、決着どうこうに関わらないことなら、かなり融通が利くってこと。それで、死んだまま、いや、死ぬギリギリの状態で止めてたって訳。まあ、体感としては死んだも同然だったみたいだけどな」

 三人の顔が青ざめた。

 思い出したと言うよりも、体が勝手に反応したと言った方が近いだろう。

 死なんて、二度体験できるものじゃない。そんなもの一度でも経験してしまえば、それ以上死なないために、死にたくなって当たり前だ。もう死なんて経験したくないんだからな。

 だが、こいつらはそうじゃない。

 俺に縛られ、俺に操られ、一生デスゲームを演じる道化として、死に続けなければならない。

「しょ、正気か?」

「その言葉は、そっくりそのままお前らに返すぜ」

「……」

「かつての仲間が、やってきたことの重みを理解していないことが悲しいよ。まあ、理解していなくたっていいさ。今まで死んできた奴らも、これでやっと浮かばれる。お前らは、地獄にも天国にも行けない。魔物達の好きなようにやられるだけだ」

「こんなことして何になるんだよ!」

「復讐だよ」

 俺の言葉に、ロウキは一歩後ずさった。

「復讐。単純だろ? わかりやすいだろ? だが、忘れたとは言わせないさ。それに、先に手を出したのはお前達だ。さっきも言ったが、悔い続けてもらわないといけないからな」

 家族のためにも、魔物のためにも。

「お前がそこまで魔物に肩入れするなんて」

「どっちでもいいだろ、そんなこと」

「なら、ミーネはどこよ。あの子だけ死んだままなんておかしいじゃない!」

「ああ。ミーネね。ミーネなら、外に出て、今回の勝利者ボーナスで、束の間の幸せを享受してるんじゃないか?」

「勝利者ボーナス?」

「そ」

 どうやらこいつら、とことん察しが悪いらしい。

「どういうことよ」

「わからないか? 大魔導師のダリアちゃんでもわからない?」

「……。わから、ないわ……」

「しょーがないなぁ! じゃあ、俺から教えてあげようか」

 あえて勿体ぶりながら手を広げ、ファンファーレと共に空中に文字を浮かび上がらせる。

「お前らにとっての第一回デスゲーム、その優勝者はー? じゃじゃん! 聖女、ミーネ・フロニスちゃんでした!」

 ダリアは、その言葉を聞くと、わなわなと震え出した。

 いや、それにしては震えすぎだ。きっと、俺が溜めてる時から、内容の察しがついていたのだろう。

 それでも、ダリアは信じられないといった顔で、激しく首を振っている。

「う、嘘よ。そ、そんなの、でたらめよ! あたしたちを疑心暗鬼に陥らせるための作り話でしょ?」

「嘘じゃないんだなーこれが。でなきゃここにいない訳ないだろ? あいつだけ助ける理由はないし、お前らは首のチョーカーで俺に縛られてるんだ。自由なんてない。ミーネちゃんだって同じことさ。だけど、その自由度の差は、デスゲームの勝利者ボーナスで実現される。殺されたロウキや結果を見たベルドルフなら、これが嘘じゃないってわかるよな?」

「あ……」
「むぅ……」

 俺に話を振られ、ロウキもベルドルフも顔を俯けて黙り込んだ。

「嘘でしょ? 否定しなさいよ! ミーネが……。ねえ!」

「……。俺は、ミーネに殺られた。だから、まず、ミーネがいなくて第一に、安心してしまった」

「だっはは! ダッセーなぁ。女に殺されて、その女がいないことに安心するなんてなー。ロウキ、お前それでもこのパーティのリーダーかよ。ま、一番の外道はお前だったしなぁ?」

「……」

「図星で反論もできないか!」

 カタカタガクガクと、ロウキの動きが怪しくなっている。

 全員が全員、ミーネのことを正しく知らなかった。心から聖女と信じていたのだろう。

 あれのどこが聖女だって言うんだ。人を殺すことを厭わない聖女なんて、どこの世界にいると言うのだ。いや、いる。それは、今、自由を謳歌している聖女のことだ。

「……!」

 そして、残された三人は何かを悟ったように表情を変えた。外へ出るためには、他の三人を蹴落とさないといけない。そう悟ったってところだろうか。

 三人は、それぞれが距離を取り出した。

「一つ、言わせろ」

 キッと俺を睨みながら、ロウキが言った。

「は?」

「……言わせて、ください」

「なんだよ」

「俺たちは、あくまで組織の下僕。こんなことしても、意味はないと思うぞ?」

「知ってるよ。だが、関係ない。実行犯だから見逃してくれって? 見苦しい言い訳すんなよ。それに、これはまだ第一回だ。参加者だってまだまだ少ない。これで全員だと思うなよ?」

「……」

「言いたいことはそれだけか? なら、せいぜい次のデスゲームまで、たっぷり休んでおくんだな。俺を狙おうなんて思うなよ? 次にペナルティがあるかもしれないぜ? いや、その前に立って飛んでくるかもなあ? あっはっはっはっは!」

 さて、当分はこいつらの教育に専念すれば十分だろう。

 三回目のデスゲームは楽しませてもらったからな。

「お前ら。次も、楽しませてくれよ?」
(了)


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