スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第15話 ギルドにて
「リル。こいつやっちゃっていいかな」
俺たちはギルドに来た瞬間喧嘩を売られ、なんだか恐怖よりも怒りの方が強くなってしまっていた。
「おいおい。やっちゃっていいかなって。なんで勝つ前提なんだよ。俺はこれでもここではベテランなんだぜ? それが簡単にやられるとでも思ってんの?」
「リル。きっと反論も何もしないってことは、考えがあってなんだと思う。だから、俺はリルの判断を待つ。あくまで団員だからね。だけど、本心としては今すぐにでも攻撃に移りたい。俺はどうすればいい?」
「おい。無視すんなよ。だからなんで俺を倒せる前提なんだよ。馬鹿にしてんのか?」
今の俺はギルドに関して詳しくない。
力こそ正義みたいな場所かと思っていたが、案外、人間関係はどこへ行っても大切なのかもしれない。この男が大きな顔をしているのがその証拠だろう。
なら、リルたちの行動も、何か考えがあってのはずだ。ぽっと出の俺が、これまで積み上げて来たものを無駄にするのはさすがに嫌だ。
だから、俺は黙ってリルを見つめていた。
「ああもういい! 私も我慢の限界だ。やってしまえ」
「え、いいの?」
俺が聞いたのだが、思いもよらないリルの返事に、思わず聞き返してしまった。
本当にいいのか。やっちゃうよ?
「私としても怒りはこらえていたんだ。ドーラがそこまで言うならもういい。冒険者になるなら力比べも必要だ。経験してこい。ダメならいくらでも他の場所へ移ってやる。だからやってしまえ」
「わかった」
「おいおいこいつら、とうとう俺との力の差がわからないことが判明したぜ? お前、俺が誰だかわかってんのか? 俺は」
「知るか。これでもくらえ」
ファイアブレス。
なんだかよくわからないことを次から次へと吐き出して来るが、リルがいいと言うなら知ったことか。
今はリルが近くにいるから火力だって出しやすいんだ。
ほら、戦うことを覚悟した発言だったんだろ? って。
「あ」
またやってしまった。今までより強くなってるんだから、脅す程度に十分な火力に抑えてもまだ強くなってるんだった。
先ほどまでのブレスよりも気持ちカラフルだった気がしながら、俺は吹くのをやめた。
目の前の男はプルプルと震えながら、黙っていた。
「あの」
「お、覚えてやがれー」
そんなこと言いながら出ていく奴本当にいるのか。
俺はそう思いながら、勢いよくギルドを出ていった男を目で追った。
最後、名乗ろうとしていたみたいだけども、なんて言おうとしてたんだろう。
「ああ。せいせいした」
「はー。これでオレたちも自由にできんのかな?」
「全く。合わせるのもラクじゃないわね」
「それにしてもなんであんな奴に黙ってたのさ。みんななら簡単に勝てたでしょ?」
「確かにそうだ。だが、そんなこと決まってるだろ。私のスキルを使えば人の強さの比較くらい簡単にできる。だったら、相手にしたらどうなるかくらいわかるだろ」
「まあ、俺で勝てたんだし、みんなでも勝てるよね」
「それだけじゃない。私たちはサーカスもやっているだ。芸のようにやり返したら、それはそれで何を言われるかわかったものじゃないだろ?」
「うん。おちょくってるとか言われそう」
「だからこそ、やり返せずに黙っていたのさ。ただ、それをいいことに無理難題を押しつけられていた。それも、ドーラが来てくれ、相手を傷つけずに解決できたがな。ありがとう」
「いや、そんな」
「謙遜すんなって。お前本当にすごいよ」
「そうよ。熱風は来たのに燃えてなかったじゃない」
「ああ。俺もすごいと思うぞ。なんだ今の火吹いてたし。どうやったんだ?」
「よければ私のところに来ない? 即戦力になりそうだし、歓迎するよ?」
リルやヤング、マイルだけでなく、ギルドにいた者たちが俺たちの周りに集まり出した。
なんだかノリが悪いと思っていたが、大きな顔していただけで、別に出ていった男と、残っている者たちの仲が良かったわけではないようだ。
「いやぁ、ははは。ありがたいっすね」
「そうでしょ? ちょうど攻撃力がもっとほしいところだったの。ねえ、いいでしょ?」
「何を言う。いいか。こいつは我がサーカス冒険団の団員三号だ。誰にも渡さないからな」
俺をスカウトする女冒険者に、リルがギルド中に響き渡る大声で言った。
いや、そんな風に言われると照れる。
「あいつがいないとリルさんいつもノリノリだからね。仕方ない。今日のところは諦めるか」
「これでもう来ないといいけど」
「強いってんならさっさと先の街に行けってんだよな」
仲がいいどころか悪いらしい。
って強いなら他へ行けって俺たちにも言ってるんじゃ。
不安がる俺の肩をリルが叩いた。
「なあに、心配するな。私たちはレベルとしてはあいつより弱い。単に相性がいいだけだ。さっきも言ったが、サーカスは人に対して見せるものだからな。簡単に手玉にとって面白おかしくしたら、自分を実力者と思っている者からしたら、たまったものではないだろう。そういう意味で、ドーラの力は恥をかかせずに実力勝負のようにできて良かったのだ」
「な、なるほど」
って、本当にそこまで考えていたのかわからないが、ギルドの重い空気が吹き飛んでいるし、いいとしよう。
とりあえず、変な奴がいなくなって、ギルドを見て回れるなら、俺はそれで満足だ。
「それじゃ換金しようか。おい。道を開けないか、スカウトは受け付けてないぞ」
リルの一声で、群がっていた冒険者たちが道を開けてくれた。
いやこれ本当に俺必要だったか?
「すいませんでした。あの人は力だけならここ一番なので」
カウンターへ行くと、受付嬢らしき女の人がリルに謝っていた。
「いや、いいのさ。私も策を練りながら、なかなか行動にできず申し訳なかった」
「いえ、そんな。ギルドとしてそれなりの冒険者だからといい顔させてしまったのがよくないんです。本来なら、森の主なんて、この街の冒険者じゃ敵わないレベルなんですから」
「え。そ、なんですかい?」
驚きで変な言葉遣いになってしまった。
案の定、受付嬢も驚いたように目を丸くしていた。
「そ、そうですよ。ドーラさんは見るからに相性が良かったからだと思います。本来なら、この街に戻って来てくださった、かつての駆け出し冒険者の方々にお願いするようなものなんです。そもそも、大きな口叩いてましたが、出ていった人も一度逃げ帰って来てますからね」
「全然知らなかった。本当に勝ててよかった」
「私はツタを焼き払ってくれた時から、主にも勝てると信じていたぞ」
「え」
いやいや、まだ俺サーカス冒険団に入るとも決めてなかった時だぞ。
少し後に入ったけども。
思ったより簡単に倒せてしまったが、しっかりリルが考えてくれていたこともあったのか。
「なら、すごいのは俺じゃなくてリルだね」
「いいや。私はあくまでついていただけだ。とどめを刺したのはドーラだろう。団員も助けて出してくれて本当に感謝しているぞ」
「は、はい」
いや、やっぱり嬉しいわ。照れ臭いわ。サーカスのメンバーとか言われた時もそうだけど、なんだか恥ずかしいわ。
「あ、あの。換金ってどうするんですかね?」
リルの言葉に耐えられなくなり、俺は受付嬢に話を振った。
「はい。換金は素材を渡してもらえれば大丈夫ですよ」
「じゃあ、ヤング」
「わかってるって」
「それじゃあ、確認しますね。報酬の額もここの街では他のクエスト以上の額になり、おそらく賞金首レベルなので、一部しか渡せませんが」
「構わん。一部でもありがたい」
「え? 賞金首?」
「はい。それで、えーと待っている間に」
困ったように俺を見つめる受付嬢。
「ドーラです。ドーラ・バルバドルと言います」
「ドーラさんは今日は冒険者としての登録もということでいいんですか?」
「賞金首ってのは?」
「ああ。そうしてくれ」
どうやら誰も教えてくれないらしい。
いや、本当に勝てた相手だったの?
もうツタのことは諦めて俺はリルを見た。
「え、何するの?」
「ん? ああそうか。そこにいればいい。教えてもらう通りにすれば登録は済む。私たちは待っているから。クエストの報酬も貰ったらあそこに来てくれ」
そう言って、リルはギルドの隅を指差した。
「わかった」
リルが離れていくと少し不安になる。
「じゃあ、始めますね」
受付嬢さんは俺に優しく微笑みかけた。
第14話