スキル「火吹き芸」がしょぼいと言われサーカスをクビになった俺が、冒険者パーティ兼サーカス団にスカウトされた件〜今度は冒険者としてもスキルを使います〜第17話 騒ぎの翌日
ああ。頭が痛い。
昨日、ギルドで馬鹿騒ぎしたせいだろうか。森の主を討伐し、冒険者として登録して、サーカス冒険団に入団したからだったっけ。
あそこまで騒いだのは人生でも初めてかもしれない。そのおかげで、俺は炎以外も色々と吐くことができるということを実感できた。
そもそも、俺が誰かと騒いだのはいつ以来だっただろう。
わからないが、今の俺はテントに戻って眠り、一夜を明かしたところだった。
「もう朝か」
すでに日は登り、薄く日差しが差し込んでいた。
体はだるいが、今日も日課はこなしていくか。
俺はヤングを起こさないようにして外に出た。
「うおっ!」
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」
俺が起き出すと、すでにマイルが練習を始めていた。
誰もいないと思っていたから大きな声が出てしまった。
「こっちこそごめん。俺も驚かせたよね」
「ううん。全然。問題ないよ。ドーラって朝早いんだね」
「早いって言っても、もう日は登ってるよ?」
「まあそうだけど、リルさんもヤングも起きてくるのが遅いからさ」
「なるほど」
確かに、俺もそれはついさっき実感したところだった。
ヤングを起こさないように出てきたが、俺のことなど気にもせず、大きないびきをかいて寝ていた。
もしかしたら、気を遣わなくとも目覚めなかったのだろうか。
「マイルは練習してるの?」
「そう。私の能力はあくまでサポートだからね。他のみんなみたいに、スキルで何かをできるわけじゃないんだ。だから、一芸を身につけたくて」
「サポートって立派だし、重要だと思うけど」
俺がぽろっと言葉を漏らすと、マイルは投げたリボンを取りこぼした。
「あ、ごめん。俺が立派だなんて偉そうだよね」
「ううん。正直に褒められるのに慣れてないだけだから。気にしないで」
マイルは顔を隠したまま、そっぽを向いてしまった。
これは、直接言われてないだけで、不機嫌になったのだろう。
長年いびられてきた俺の勘がそう言っている。
わざわざ怒ってないのに後ろを向くこともないはずだ。
「そうだ。せっかく早く起きたんだし、ドーラがやってた日課を教えてよ。アリサさんに直に習うのは今度にして、まずはどんなものかくらい知りたいからさ」
「いいけど。本当に普通のことだよ?」
「いいっていいって。ささ、何するの?」
俺は目を輝かせるマイルと、練習できそうな場所まで移動しながら、練習内容を話した。
「はあ、はあ。ねえ、毎朝、こんなのやってるの?」
川辺までやってきた俺とマイルは、アリサから教えてもらった練習メニューを消化していた。
「まあ、無理のない日は毎日かな?」
「すごいね。そりゃ魅力も高くなるよ。ワタシは、ちょっと無理。続きは今度で」
「わかった」
「やっぱりまだまだなんだなー」
マイルはそう言って地面に座り込むと、空を見上げながら力無く笑った。
「いやいや、そんなことないって。俺、最初からこんなにできなかったし、マイルは才能あると思うよ」
「本当?」
「うん。まあ、俺じゃアリサみたいに、うまく教えられないから、アリサが来たら、レベルに合わせた練習でどんどん魅力も上がっていくんじゃないかな」
「それは楽しみ」
まるで誕生日を待つ子供のように、マイルは笑顔になった。
ああ、やばい。
勢いのまま言ってしまったが、いよいよ無理かもなんて言えなくなってきた。
マイルとの朝練を済ませた俺は、特に理由もなくマイルについて行っていた。
いや、理由はある。マイルに街の案内として、色々なところへと連れて行ってもらっているのだ。
街へ繰り出すことなど今までほとんどなかった俺は、今いる街について、だいたいどの辺りにあるかくらいしか知らなかった。
昨日の報酬で暖かくなった懐で、買い食いしたり、買い物したりしているといつの間にか日が暮れていた。
「さすがにリルもヤングも心配しているかもしれないね」
「大丈夫だって。それに、この街のことをもっと知るべきだよ」
俺の心配をよそに、マイルは言った。
確かに、この街は他の街と違う気がする。
「君、ドーラだろ。今度サーカスやるなら見に行くからな。教えてくれよ」
「へ? は、はい。ありがとうございます」
誰だあの人。
俺の顔が割れてる?
「おお。ドーラ! 俺にもブレスってやつを教えてくれないか?」
「え、いやぁ。それはどうですかね?」
「ははは。やっぱり芸は他人へは教えないってか」
「そうじゃないんですけど」
「仕方ないな。ならせめて個人的に見て楽しむとするよ。リルさんによろしく」
「はい」
今度の人も誰だ。
俺って誰にでも知られている有名人じゃないはずなんだが。アリサじゃないし。
「こんな街の一面も見てほしくてさ。ドーラもだいぶこの街に馴染んできたみたいね」
マイルは笑みを浮かべながら唐突にそんなことを言ってきた。
「いや、これで馴染んできたように見える? 俺、全然対応できてないんだけど?」
「それでいいのよ。ワタシも最初は困惑したわ。でも、この街は特別。実力のあると言われる芸をする人に対して、敬意が厚いのよ」
そんなのはさも当然と言った様子でマイルは言った。
確かに、前のサーカスにいた時、この街に来てからは、なぜかいつもより練習が熱心だった気がする。
つまり、この街でのサーカスは他の街でのサーカスとはわけが違うということなのか?
「でも、俺、まだ何も芸を見せてないと思うんだけど」
俺の当然の疑問に、マイルはふっと息を吹き出した。
「やってたじゃない。昨日、ギルドで。あれで十分なのよ」
「え、あれで?」
確かに調子に乗って宴会芸のように、どんちゃん騒ぎに混じって色々と披露してしまったが。
「いやいや、あれで?」
「そうよ。むしろ、その場に合った芸ができることは、特技として誇っていいわよ? やっぱりスキルが多いと場面に合わせたこともできていいわね」
真顔でほめられた。マイルってそういうタイプの人間なのか。
俺が照れて固まっていると、マイルも誇っていいなんて言ったことにやっと気づいたのか、ぷいとそっぽを向いた。
「ま、まあ、そんなわけだから。披露する時も気楽にいればいいのよ」
「そ、そっか」
なんだか気まずい。
でも、気楽でいいと言われれば俺もやりやすい。
「俺たちのサーカスを抜けたと思ったら、お前何をやってるんだ。ナンパか? 人に生計を立ててもらおうとでもしてるのか?」
「え、なんでここにいるんですか?」
気まずい雰囲気をぶち破ったのは、俺が前にいたサーカスのリーダーだった。
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