家族を殺され、毒を盛られたTS幼女は、スキル『デスゲーム』で復讐する 第15話 第三回デスゲーム 対立

「ふんふんふーん」

「今はどこを目指しているんだ?」

「ダリアのとこ」

 思えば、荷物持ちだった頃は、激務続きで、鼻歌を歌う余裕なんてなかった。

 それほどまでに、自分でも分かる程、今は足取り軽く、ダリアのところへ向かっている。

 場所はもちろん把握している。

 ダンジョン、それも、デスゲーム範囲内の、小高い丘。範囲全体が見渡せるような一番高い場所だ。

「それにしても、やけにご機嫌だな。何かいい事でもあったのか?」

「そりゃそうだろ。結託して、俺を嵌めてきた奴らが、無様にも仲違いして、疑心暗鬼に陥ってるんだ。これ以上のことはないさ」

「なるほどな」

 まあ、機嫌がいいのはそれだけじゃない。

 俺は、ロウキ達が来るまでの間、魔物達をたっぷりかわいがった。

 正直言って、めちゃくちゃかわいかった。

 無邪気に甘えてくる魔物達の様子に、寂しかった胸の穴が、少し、塞がったような思いだった。

 だから、ほんの少しではあるが、魔物のため、という気持ちも、今では強まっている。

 魔物達がバックにいる。今の俺は、それだけでがんばれそうだった。

 さて、見えてきたな。

「ダリアちゃーん。ローブ脱いじゃって、もしかして、実は痴女だったのぉ?」

「なっ……。ち、違うわよ! 気持ち悪い声で話しかけないでくれる? 一瞬、小さい子供かと思っちゃったじゃない」

「間違ってないが?」

「大間違いでしょ」

 見た目の事を言っている、という訳ではないってことか。

「で? 女の子かどうかとか、あたしにとってはどうでもいいのよ。ジン、あんたはどうしてここに来たの?」

「そんなの決まってるだろ。明らかに見え見えの準備をしてるんだから、巻き込まれないように避難してきたんだよ」

「あたしが何をしようとしてるのか、わかってるってこと?」

「そりゃもちろん。俺の中で激しく動いてたら、ダリアちゃんの熱を感じちゃうさ」

「気持ち悪い言い方はしないで。スキルの範囲内ってだけでしょ」

 実際そんな感じなのだが、まあ、感覚の問題なので置いておく。

 何か解決策があるみたいな雰囲気を漂わせていたものの、実際は魔法の準備。

 まあ、それでも、準備段階で桁違い。俺だから真っ直ぐ歩いて来られたが、普通の女の子なら、立っていられないほどの暴風。

 いつぞやの兵器に、エネルギーが溜まっている時のような、強風。

 魔力感知能力からして、気づける奴がいない程の、用意周到な隠蔽で、デスゲームの範囲全体を、消し飛ばさんという勢いだ。

「そんな物騒な魔法を用意して、一体何をするつもりさ」

「……。嫌な質問ね」

「そりゃそうだろ? 嫌がらせは、お前らの専売特許じゃないか。リコールだよ」

「……」

「理解してるなら、この場は結構。で、どうしてだ?」

「罪はあたしが、あたし一人が背負えばいい。デスゲームが泥沼化する前に、この茶番を終わらせればいい。ロウキは馬鹿だし、ミーネは優しすぎる。ベルドルフはよく分からないけど、命というより、道に精通する部の達人。似合わないと言えば似合わない。それに引き換え、あたしは魔女。現代でも、闇は魔女の役目」

「へー。泣かせるねぇ? その熱いのをビューってぶっ放しちゃうんだ」

 言ってる事はどうあれ、自分一人が生き残りたいってだけの話。

 善人ぶるのが得意な奴らだ。表面的に捉えちゃいけない。

 それに、ここで決着なんて、誰も言ってないからな。

「……。これで、終わりにする。邪魔はできないでしょ?」

「その通り。俺は口は出せても手は出せない。基本、ね」

 そこでダリアは計算通りと言いたげな、安心したような笑みを浮かべた。

 いやいや、甘い甘い。

 邪魔をするのが俺だけなんて誰が言ったさ。

「なあ、ダリア。勘のいいのが一人いたよな?」

「え?」

「魔力なんて感知できないのに、感知できないはずなのに、一度もダリアの攻撃を喰らわなかった、そんな奴がいたよな」

 ざっ、と砂を踏み締める音。

 俺が言い終わったのと同じタイミングで、その男は現れた。

 ベルドルフ・ユラー。パーティのバトルマスター。

 戦闘狂ではないが、戦闘において右に出る者はいない、戦闘のスペシャリスト。

「楽しそうだな。我も混ぜてはくれないか?」

「キャー!」

 基本上裸の男、ベルドルフはそこに居た。

「おーおーおー。忠告も聞かずに、バラバラに動いちゃって。そんな調子で大丈夫か?」

「貴様は信用ならん。そして、ダリア。お前もだ。裏切り者。解決策の存在を匂わせておいて、まさか密告者だったとはな」

「ち、違う。あたしは」

「なら、何を話していた」

「そんなの決まってんじゃん。女子トークだよ。ね? 今の俺は女の子だし、ダリアちゃんもこんな格好だしさ。せっかくなら、この下見る? 本当だよ?」

「お前には聞いていない。いや、聞くに耐えんな。見苦しい言い訳など」

「……」

「ダリアちゃんは?」

「見る訳ないでしょ……」

「ノリわりーな。だからモテねぇんだよ」

「関係ないでしょ!」

「……」

「でも、そうね。ジンの言う通り、勘のいいのが一人居たわね。武の達人だもの。魔力による空気の流れだけで、危機だってわかってしまう。少し、対策を怠ったわ。気が急いてしまった」

 そう言いつつも、ダリアは魔法の準備をやめはしない。

「やはりその様子。裏切りか」

「そこは、明確に否定させてもらうわ。この行動は、ジンのためのものじゃない」

「ひどいなぁ。俺達仲間じゃないか」

「元、ね」

「やはり、貴様に手加減の必要はなさそうだな」

「なら、あんたから焦がして、後の二人を確実に倒させてもらうわ」

 一触即発。そんな雰囲気でベルドルフとダリアの二人は向き合った。

 一応、被害を受けないようにここに来たのに、これじゃあ、来た意味が薄れてしまう。

 まあ、一人で来たから、そんな簡単に話は進まない訳だけど。

「ギャアアアアアアアアアアッ!」

「……っ!」

「むぅ」

 いよいよ激突。そんなタイミングで響いてきたのは、ロウキの悲鳴だった。

 そう、ダリアでも、ベルドルフでも、ミーネでもない。パーティリーダー、オオタ・ロウキの悲鳴だった。

 チッ。進まないとは思ったが、見えないところでやられるなよ。ゴキブリ並みにしぶといと思っていたんだけどなぁ。

「さあさあ、どうする? どうしちゃう?」


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