クラス転移でハズレスキルすら出なかった俺、山に捨てられる〜実はここまで俺を独占したい女神の計画通りらしく、スキルを超える『溺愛』の権能を与えられたので、悠々自適に暮らします!〜第17話 辛い訓練:枝口視点

「くっ! はっはあ!」
「うらっ! おらっ! くらえ!」
「はあー……はあ!」

「お見事ですエダグチ様、ヤマガキ様、オオツキ様。その他の皆様も素晴らしい能力です」

 拍手をしながら訓練場に入ってくる姫様。
 そのことで皆が訓練を一時中断する。

 訓練も才能のある僕がやると様になる。
 意味があるのかは怪しいけれど、スキルを使うにも練習が必要だしね。必要……か?
 使い方がわかれば十分だと思うんだけど、今日までずっと訓練だ。

「おい。姫さん! こんなきついことしてたら訓練で死んじまうぞ!」
「そうよ。何人倒れたと思ってるの? 誰も戻ってきてないし、おかしいじゃない。アタシたちは才能があるんじゃなかったの?」
「そうだそうだ! 俺たちこれじゃ奴隷じゃないか!」
「飯で釣れると思うなよ!」

 久しぶりに顔を出した姫様に対し口々に出る不満。
 最初に抱いていた、僕らは英雄という希望も、もう誰も持っていない。
 辛い訓練、日本にいた時よりは悪い生活環境。うまいとはいえ違う食文化。ホームシックになり立ち直れないやつや、そもそも訓練の時点で大怪我をして以来顔を見せていないやつもいる。
 僕の望んでいた異世界生活じゃない。じゃないが……。

「皆さんの気持ちはよくわかります。倒れられた方々には我々が雇った腕の立つ魔法使いたちがケアをしておりますので、ご安心ください」
「会えてないのに……?」

 そう。訓練に出られないだけならまだしも、訓練に出なくなったやつらは城の中でも顔を見ないのだ。
 まあ、僕には関係ない。ゲームだって反復練習が必要なものもあるのだ。僕は今の生活を受け入れることにした。
 今まで食べられなかったような高級食材にシェフの作るご飯。生活環境が悪いとはいえ、異世界でも上流のクラスになれば日本の金持ちくらいの生活はできるのだ。
 僕たちの来た異世界はまだまだ文明が進んでいない中でも十分不便なく暮らせる世界なのだ。それをむざむざと手放してなるものか。

「命を救ってもらい、生活も保障してもらっているんだ。なんの文句がある? 山垣くんもそう思うよね?」
「あ、ああ。ああ、そうだ! 俺さ、俺たちは選ばれたんだ。こんなところで音をあげるのか?」
「あたしは山垣くんがいればいいだけだけどね」
「みりあ……」

 あーはいはい。主人公は僕なんだ。今はそうしているといいさ。寝取られるとも知らないで。

「お前らはいいよな。飛び抜けた才能があって。訓練もラクだろうよ」
「そうよ。不公平じゃない! そんな立場から言われたって何も響かないわよ!」

 まあこのように、僕が受け入れていても、大抵は慣れていない生活や訓練なんてものに不満まみれのやつばかりだった。
 待遇の良さや才能を褒められるというプラスを掻き消すほどの日々。正直、ゲームしても生きていられた日本での暮らしの方がよっぽどマシだった。なんて思い始めているやつらが大半なのだろう。
 僕たちが希望を見せてあげても他のやつらは不満たらたら。
 全く、高校生になっても情けないね。

「君たち。真っ先に死んだ溝口や河原みたくなりたいのか? なりたくなければ、日本の金持ちくらいの生活はできる今をありがたく思えばいいだろう? それでもギャーギャー騒ぐのか? さすがに見苦しいぞ」
「ありがとうございますお三人方」
「いいんですよ」

 正直説得する必要もないんだが、こんな話を飯時にもされるからいつも飯が不味くなる。
 なんだか最近は味が悪い気がしてくるから嫌だ。

「なんだよ。枝口のくせに」
「能力二つで調子に乗りやがって」
「ホント、サイテー」

「僕のスキルなら君たちの身長体重だけじゃなく細かい数値もわかるんだからね? 知られたくないこと色々話すよ?」

「……」

 やっと静かになった。

「姫様。何か伝えることがあってきたのでしょう?」
「はい。そうでした。ありがとうございます。おほん。いよいよ明日が皆さんの実戦初配置ということもあり、緊張や不安で思考がまとまらないということは十分にわかります。ですが、皆さんなら大丈夫です。今日までの訓練は無駄ではありません。慣れないことで辛いこともあったと思いますが、その辛さが力になるはずです。今日、残された時間は明日に疲れを残さないようにしっかりと休んでください」

 パチパチ。
 拍手が巻き起こる。
 やはり、口では色々と言っていたが、姫様は間違っていないとわかっているのだ。
 それに、誰も溝口のようになりたいと思っているわけではない。

「姫様、良ければ今夜」
「ごめんなさい。お断りします。今日はしっかり休んでくださいね。エダグチ様」
「ふ。わかりました」

 まだ最後まで言っていないが断られた。

 結局、今日まで誰も女子は僕になびかなかった。
 女騎士もシスターも色々な美人がいるのに、僕の力を見てすごいと言うだけで、誰も部屋に入ることさえなかった。
 僕のイケメンボイスも効かないとは。しかし、
「イキってんな枝口」
「そうね。見ていて痛々しいわ」
 隣で何か言っているが、実戦の結果を見れば話は変わるはずだ。
 今まで使っていたのはただの訓練用の道具。実戦ではしっかりしたものを与えられるはずだからな。

 とうとう僕たちの実戦投入日が来た。
 そして、実戦で扱う剣が支給された。

「あの、姫。これ訓練用のものと同じなんですけど、間違いではないですか?」
「いいえ? 間違っていませんが」
「実戦では上等なものを与えるものでは?」
「ワタクシそのようなこと一度でも言いましたか? そちらはこの国では十分上等なものですけど」
「そう、ですか……」

 僕は改めて鑑定スキルを使って剣を見る。
 だが、どう見ても訓練用の剣であり、それ以上のものではなかった。似ているだけでなく完全におんなじものだ。
 確かに、訓練用のものにしては上等なようだが、人の死なない訓練のため、つまり殺傷能力は低い。
 実戦で扱うには力不足。

 このアマァ! 魔王を倒したら真っ先に奴隷にしてやる。

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